ヴァレンタインデー☆キス
〜Kiss at Valentine's Day〜

作者:AZ

「う〜ん・・・・・」
私は、ある『お店』の前で悩んでいた。

別に『キリスト教徒』でもないゴクゴク普通の『仏教徒』の家柄に生まれた自分にとって、『ヴァレンタインデー』なるイベントは、さして気になるようなものじゃなかった・・・。

そう・・・『去年』までは。


「篤志・・・どう言うのが好きかな〜・・・。」
篤志(あつし)というのは、私の『彼氏』さん。
女子に人気がある容姿と優しい性格で、多分・・誰もが私には勿体無い男だと思っているだろう・・・。
しかも、『ヴァレンタインデー』ともなればダース単位貰っている『男前』。
ちなみに、私の幼馴染でもある。

「香那美〜。」
呼ばれて振り向くと、そこに『篤志』がいた。

ちなみに、『香那美(かなみ)』とは、私のことだ。

「あ、篤志!?あ、あの・・こ、これは・・・」
私は焦りによりドモッた。

「何やってんだ?こんなトコロで・・・。」
こんなトコロ・・・見れば解るじゃん。

「あのね〜、これでも篤志にヴァレンタインデーのチョコを選んでいたのに『こんなトコロ』はないんじゃないかな?」
ちょっと、拗ねたように私は言った。
篤志は首を傾げる。

「ヴァレンタインデーのチョコ・・・。そういえばそんな時期だったか?」
余裕綽々ですか・・・。
世間のモテナイ男共が聞いたら、殴りたくなるようなセリフですね。

「そんな時期なのです。」
私は、間欠に言う。

「で、香那美は手作りチョコでもくれるの・・かな?」
う・・・。い、痛いところを・・・。

「私、料理ヘタだし・・・。」
なんとか、この話題から『回避』しようと私は言う。

「別に良いじゃん。ヘタでも。香那美の心がこもってれば十分♪」
言いながら、テレる篤志。
私も、顔が熱くなるのを感じていた。

で、でもね・・・

「ヤダ。下手な物食べさせて嫌われたくないもん。」
私は、断固反対する。
篤志は、本当に食べてくれる。
だからこそ、作れない。

篤志は、前に『玉子焼き』が食べたいとゴネて、私は一応頑張って作った。
見た目もなかなか出来映えで、『私、できるじゃん♪』なんて思ったのだが・・・なんてことはない、『砂糖』と『塩』を間違えるという今時のマンガでもやらないような『ドジ』をし、篤志はそれを涙を流して食べたのだ。

あれから、『手料理』はもはやするまいと誓った私。

だからこそ、手作りチョコなどもってのほかだった。

「前の『塩入玉子焼き』のこと気にしてるのか?」
言われて、私は恥ずかしくて顔を伏せた。

「あれは、初めてだったんだし、気にする必要ないだろう?」
私は自分の体全体が震えてるのを感じる。

「篤志が気にしてなくても、私が気になるの!!」
私は言うと、篤志を残して走り出した。


だいたい、毎年チョコ貰っているんだし、私一人に貰えなくても寂しくないでしょ・・・。
そうだよ、今迄だってあげたことないんだし、キリスト教徒でもないし、やっぱり似合わないことはやめよう。

私は、そのまま自宅に戻り私服に着替えた。

「はあ〜・・・どうしよう、ヴァレンタイン・チョコ。」
先までは、もうあげなくても良いかな?って思ったけど・・・・。
やっぱり、私以外から貰う篤志にイライラするのも嫌だし・・・。

でも・・・。
手作りなんて、絶対したくないし・・・。

どうしたらいいんだろう・・・・・。



そうこうしているうちに、ヴァレンタインデー前日。


「はー・・・。」
ため息と言うか、悩み事の解決策を見出せずでた声だった。

「香那美?どうしたの?」
声をかけてきたのは、クラスメイトの中でも仲が良い『詩亜(しあ)』だった。

「詩亜ー、どうしよう〜。」
私は、詩亜に抱きつくと涙をうるうるさせて言った。

「篤志となんかあったの?」
率直に聞いてくる詩亜。
っていうか、私の悩み事は『篤志がらみ』しかないのか・・・。

「えー・・と、ヴァレンタインデーのチョコなんだけど・・・。」
「手作りしたくないとか?」
「!!」
「当たりか・・・。」
何で、解ったのか・・・。
詩亜、侮りがたし・・。

「ま、まあ〜・・そうなんだけどー・・。」
私は、あまりにも図星のせいか歯切れが悪い言い回ししか出来なかった。

「でも、あげるんでしょ?」
「んー・・」
「別に、市販の物でも良いんじゃない?」
「・・・・・・」
詩亜の提案に口ごもる私。

「ま、確かに『市販のチョコ』じゃあ『他人』との格差は無いわね。」
「うう〜・・・」
痛いところを突かれ、私は小さく呻いた。

「それじゃあね〜・・・・・・・」

かくして、私は詩亜から『あること』を伝授された。
って言うか〜・・・それってやっぱり恥ずかしいよ。



家に帰ってくると、私はおもむろに袋をひっくり返す。
中からでてきたのは、後存知の通り『ヴァレンタイン・チョコ』だ。

「と、とりあえず・・・作ってみるか。」
本当なら『手作りチョコ』なんて作りたくなかったのだけど・・・。
詩亜から伝授された『あること』は、やっぱり恥ずかしいので『最終手段』ということで・・・。
私は、慣れない手つきで『ハート型のチョコ』を作ることにしてみた。

・・・・・のだが、
「うぅ、不味い・・・。」
苦味を通り越して、苦いだけのチョコが完成(?)。
我ながら不器用だと心底思った。



ヴァレンタインデー当日。


「はうぅ・・・どうしよう〜・・・。」
迎えてしまった『タイムリミット』。
私の手元には、『出来損ないの苦いだけのチョコ』と、『チロルチョコ』がそれぞれ一個ずつある。

私は、『どちら』にするか悩んでいた。

「どっちをあげるの?」
「はひっ・・」
いきなり声をかけられ、変な声を上げる私。
振り返る戸、やっぱり詩亜だった。

「お、脅かさないでよ〜。」
「ごめん、ごめん。それで、どうするの?」
「うぅー、どうしよう・・・。」
「悩め、悩め、恋する乙女。」
「人事だと思って・・。」
「人事だもん♪」
詩亜・・・今日のアンタは憎くてしょうがないわ。
このイジメッ娘。

「よぉ、香那美。」
「あ、篤志!?」
目の前に現れた篤志。
私は緊張がMAXになって行くのを感じていた。

「あ、ああああああ・・・あの、」
「ど、どうした?香那美。」
「そ、そそそそそ・・その、」
「落ち着け、香那美。」
緊張でパニックする私。
篤志の声もほとんど耳に入らない。

「い、急いでるから!!」
叫ぶように言うと、私はその場から駆け出していた。

「はうぅー・・。」
机に突っ伏し、涙を流す私。

「まったく、逃げ出すなんて・・・香那美らしくない。」
「だっで〜・・・」
詩亜の言葉に涙声で答える私。

「後は、自分で頑張るしかないんだから・・・分かってる?」
「う、うん・・」
そうだ。
ここまで着たら、後は自分でなんとかしないと・・・。

私は決意を新たに、篤志にチョコを渡すことにした。


・・・・・のだが、

「な、なんなのよ、これ・・・・・。」
篤志のクラスは、女子の行列でごった返ししていた。
『キー、キー』声が辺りに響きまくり、私は篤志の下へ行けずにいた。

「あっくん、これ受け取ってー。」
「あーくん♪これ、あげるー。」
「あつくん、はい、ヴァレンタイン・チョコよ。」
・・・・・・・・。

放課後にしよ。

私は、自分の教室に戻った。


放課後も、篤志のクラスは女子の人だかりが出来ていた。

「どっちあげるか決めてないし・・・あきらめよー・・・。」
私は、きびすを返し下駄箱へと歩るきだした。

だいたい、ヴァレンタインデーにチョコなんて『チョコ会社』の陰謀なんだから・・・。
私は『仏教徒』なんだし、やっぱりヴァレンタインデーなんてクダラナイ。

私は靴を履き替え、そのまま学校の門をくぐり自宅へと歩き始めた。

「ちょ、ちょっと待てって香那美。」
チョコの入った紙袋を抱え、篤志が私を呼び止める。

私は『ムカッ』として、歩くのをやめない。

「香那美ー。」
無視、無視。

「かー・なー・みー。」
わざとらしく、名前を伸ばし呼びする篤志。
甘えた声だしても、振り返ったりするもんか。

「わかったよ。このチョコ返してくる。」
そう言うと篤志の足音が遠ざかって行くのが聞こえた。
私は振り向くと、篤志が学校にもどって行くのが見えた。

私は、自分の心の小ささが情けなかった。
彼女たちの行動が嫌だったんじゃない。
自分が渡せないのが嫌だった。

素直になれない自分・・・。

それを、女の子からチョコを貰った篤志にあたって・・・。
私ってサイテーだ。

自宅に戻った私は、自分の部屋で蹲っていた。

「篤志・・・・・」
自然と声に出てしまう・・・。

私は、篤志が好き。

好き。

スキ。

大好き。

「やっぱり、ちゃんと渡さないと・・・。」
私は起き上がると、篤志の家に向かう。



夕暮れ時・・・。

私は、公園で篤志と向かい合う。

「香那美、俺・・・ちゃんと返したから・・・。」
何のことだか分かっている。
でも、私はそんなこと気にしていない。

「だからさー、機嫌直せってば。」
機嫌が悪いわけじゃない。

「篤志・・・」
篤志は、気まずさそうにしている。

「ごめんね、篤志。」
篤志が驚いた顔をしている。

「あのね・・・私、篤志が好き。」
「俺も・・・香那美が好きだ。」
即答で答える篤志。
笑顔になる篤志に、私のかもいつしか笑顔になっていた。

「篤志、私からのチョコ受け取ってくれる?」
「もちろん!」
そのあまりの喜びように、私も自然と嬉しくなる。

「えーっと、目を瞑ってくれる?」
「?・・・いいけど。」
篤志は不思議に思ったようだが、素直に目を瞑ってくれた。

私は、ポケットから『チロルチョコ』を取り出すと、包みを開ける。

「い、いいよ・・・目を開けても。」
私は顔が赤くなるを感じつつ、篤志に言う。
キンチョーするも、目を瞑って『その時』を待つ。

私は『んー・・』と"口に挟んだ"チロルチョコを突き出すように篤志に向ける。

「・・・・・・・・・・・」
あ、あれ?
篤志・・・どうしたの?

私は薄目を開けると、そこには顔を真っ赤に染め、ポーッとしている篤志がいた。

「クスッ」
私は、篤志の姿に緊張が溶け、嬉しさでいっぱいになるのを感じた。

「篤志、ヴァレンタイン・チョコと一緒に私の気持ちも受け取って。」
「香那美、気持ち、ちゃんと受け取ったから・・・。」

『チュッ♪』

触れ合う気持ち、唇、温もり・・・・・。
私『たち』はそれらを感じながら抱きしめあう。


篤志、これからもヨロシクね♪





Fin



☆☆☆あとがき☆☆☆
h−yama氏、お誕生日おめでとうございます♪^^
と言っても、一日送れですが・・・・・(汗
ヴァレンタインデーというイベントをテーマに書いてみました。
微妙な乙女心が出ていればいいんですが・・・。
読まれた方は、背中が痒い〜とか言いだしそうですね・・・^^;
まあ、書き手としては十分面白くて・・・・。
チロルチョコを口に挟んで・・・。
なおふみんも体験したいシュチュエーションだ^^
では、また次回作でお会いしましょう♪
著作日:05/02/12

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