第13話

「戸惑い」

「確か、前にもこんなことあったな」
「そうね。結局、今のままだけど」
「でも、どうしてそこまでして名前で呼んで欲しいんだ?」
「女の子なら誰にでも共通して言えることだけど、好きな男の子には名前で呼んでもらいたいのもなの」
これを聞いて孝太郎は確信した。だが…。
「でもさ、女の子の片想いだったら意味がないんじゃないのか?」
孝太郎は自分の気持ちを示すかのように言った。
「あるわよ。少なくとも私には…」
そう言いながら孝太郎に覆いかぶさるように四つんばいになった。
孝太郎は全身が硬直したかのように動けなくなり、同時に沙羅の水晶のような瞳に吸い込まれそうな気持ちになっていた。
「片想いだってわかってても、拒絶されてるってわかってても、海原君には私のことだけ見てて欲しい」
「俺には無理だ。矢神さんの想いがどれだけ強くても、それに応えられない」
孝太郎は逃げられない状態でも必死に抵抗し続けた。沙羅は悲しげな表情になり、瞳を潤ませた。
「もちろん、それもわかってる。でもね、せめて私のことは名前で呼んで」
「それなら、矢神さんもそうするべきだろ?」
「じゃぁ、孝太郎君でいい?」
沙羅が少し明るい表情になって名前で呼んだことに孝太郎は驚きを隠せなかった。
「な!?」
「前々からこう呼びたかったの。だから、今度は孝太郎君が私のことを名前で呼ぶ番よ」
沙羅は笑顔で言った。
「…じゃぁ、沙羅さんでいいかな?」
孝太郎はいつまでもこのままだと思って少し精神集中をし、意を決して言った。が…
「どうしてさん付けなの?」
「だって、俺のこと君付けで呼んでるから。それに今まで女の子を呼び捨てにしたことなかったし」
「嘘」
急に少し睨みを聞かせたような表情で言う。
「嘘って?」
「日向君と思い出話をしてるとき、日向君の妹のことは呼び捨てにしてたじゃない」
これを聞いて孝太郎はギクッとなった。
「だから、私のことは呼び捨てにすること。それに、私が呼び捨てにするのってどう思う?」
「…何となく、合わないような気がする」
「でしょ?だから、ほら…呼んでみて」
「…う、うん…沙羅…でいいのかな?」
孝太郎は戸惑いながら言うと、沙羅は少し明るい表情になった。
「いいわよ。でも、姉さんとかの前でもこの呼び方でね♪」
「はぁ…恋愛面では沙羅には適わないな…」
孝太郎はため息をつき、沙羅を呼び捨てにすることに抵抗を感じながらも慣れようとしていた。
沙羅は孝太郎から離れ、昼ということもあって食事の準備をした。
その間に孝太郎は着替えた。薬のおかげで少しづつ良くなっていってるみたいだ。
「おまたせ。お粥だけど、食べる?」
「あぁ、朝飯抜いてるし、腹が減ってるせいで体に力が入らない」
体を起こし、壁にもたれている孝太郎の返事に沙羅はクスッと笑った。
沙羅は鍋に入ったお粥を息を吹いて冷まし、それを見て孝太郎はまさかと思った。
「ほら、アーンして♪」
「(やると思った…)じ、自分で食うからいいよ」
「ダーメ♪」
孝太郎は抵抗したが、逃げれるわけもなく、沙羅のなすがままになった。
そんなこんなで、孝太郎は顔を真っ赤にしながら沙羅に食べさせてもらい、沙羅は顔を真っ赤にしている孝太郎を見て可愛いと思わずにいられなかったみたいだ。
鍋の中は空になり、それを見た沙羅は呆れながらも鍋を洗っていた。

その頃、学校では…。
翔はパンと牛乳を飲み終えた後、屋上で金網越しに外を見ていた。その姿は孝太郎とうり二つだった。
翔と孝太郎は髪の色は二人とも真っ黒で、髪型に多少違いがあっても、バンダナの色が違うことを除けば、後姿は見間違えるほど似ているのだった。
「日向君、何してるの?」
翔の姿を見つけた留美が後ろから声をかける。どうやら留美には翔と孝太郎の違いがすぐにわかるようだ。
「特に何も。青島さんはどうしてここに?」
「ちょっと風に当たりにね」
そう言って翔の横に立つ。
「日向君と海原君を見てると、何か不思議に思えるね」
「何が?」
「1年間、高校が別々になって離れてたのに、再会してからはそれまでと変わりなく接するなんて…」
「孝太郎とはお互いに良い所はもちろん、悪い所も色々知った上で親友になったんだ。たった1年会えなかったぐらいで、俺たちの友情は揺るぎはしない」
留美はその時の翔の真剣な表情に見とれていた。
「海原君とは、いつから親友関係になったの?」
「中1の夏休みが終わった頃だ。その頃の俺は格闘の心得が全くなかった」

中学1年の夏休みが明けてしばらくした頃、放課後になって翔は一人で帰ろうとしていた。
だが、校庭に出たときに4・5人のガラの悪い男が翔を取り囲んだ。
翔は足がすくみ、逃げられるわけもなく、男の一人が殴りかかろうとしたときだった。
「何やってんだお前ら!?」
その場にいたみんなが動きを止めて声がするほうへ視線が行く。その先には翔と同じぐらいの体格をした男がいた。
「何だ?やるのか?お…ぐあ!」
ガラの悪い男の一人が詰め寄って手を出そうとしたが、その瞬間に腹に一撃を受けてその場に倒れた。
「な!?やったな!この野郎!」
仲間が驚き、すぐに感情を怒りに変えて襲い掛かったが、胸にストレートを受けて少し吹っ飛んで気絶。
残りの二人もあっという間に倒された。
「大丈夫か?」
「あ、あぁ…ありがとう。おかげで助かった」
男が翔に歩み寄り手を差し出して聞き、翔は差し出された手につかまって立ち上がった。
「さて、こいつらどうする?」
「このまま放っておこうぜ。と、名前言ってなかったな。俺は日向翔だ。よろしくな」
「こちらこそ。俺は海原孝太郎」
翔が手を差し出し、孝太郎もゆっくりと手を出して握手をする。
これが二人の出会いだった。

「その日からお互いに色々話し合って、俺はあいつの誕生日に青いバンダナをプレゼントしてやったんだ。俺のとは色が違うけど、あいつは青い色が好きだって言ってたからな」
「へぇ…」
「その頃の俺はいじめられっこだったんだ。そんな俺を孝太郎は嫌な顔一つせずに守ってくれた。あいつは俺にとって恩人でもあるんだ」
「だから昨日、恩を返すために海原君を丹河先生から守ったの?」
「そんなところだ。俺は喧嘩とかで相手を傷つけるのが嫌で格闘は避けていた。だけど、中3の終わり頃に、孝太郎に「いつかは自分の身を自分で守らなければいけないときがくる」って言われて、それをきっかけに空手を始めたんだ」
留美は孝太郎と翔の絆の深さを知った。

その頃、孝太郎の部屋でも…。
「へぇ、それが日向君との出会いのきっかけだったんだ」
沙羅が孝太郎と翔がどうやって出会ったのかを聞いていた。
「あいつの家は親が大企業の社長でな。それが原因でいじめられてたらしいんだ。それにあいつに言い寄る女はみんな金目当てでさ。それを理由にあいつは恋愛に関する興味を完全になくしたんだ。今は恋愛する暇があるなら俺と手合わせしてるって思ってるみたいだ」
孝太郎はずっと壁にもたれていたが、いつの間にか沙羅が寄り添っていた。
「以前ならすぐに離れたのに、今はぴくっともしないのね?」
「動けないだけだ。元気ならとっくに離れてる」
俯きながら無表情で言う孝太郎に沙羅はクスッと笑った。

この後は適当な話をし、翔と留美が帰ってきて4人で食事をしながら色々話し、夜になったので沙羅は帰り、翔と留美は自分の部屋に戻って眠った。

翌日、孝太郎は風邪が完治したので翔たちと学校に行った。だが…
「なんじゃこりゃ!?」
掲示板を見て、驚きながら裏声を出した。なぜなら、掲示板には「丹河、卑怯な手で我らの英雄を襲う」と書かれた手作りの新聞があったからだ。
「そのまんまだ。俺はこれを昨日、広報部に報告しただけだ」
いつの間にか翔が横に立って言った。
「で、あいつはどうなったんだ?」
「まだお前に対する恨みを抱いてる。逆恨みもいいとろだ」
「ふ〜ん。ま、どうでもいいけど」
二人は教室に歩いて行った。

「あ、そう言えば…」
教室に着き、翔がふと思い出して立ち止まった。
「何かあったのか?」
横にいた孝太郎も立ち止まって聞いた。
「昨日、帰り道を歩いてる途中で、ある人がお前を探してたんだ」
「ある人?」
「キム・シンザンって知ってるか?」
「あぁ…最強お婆ちゃんに憧れてテコンドーを始めて、今はチャンピオンになった韓国の人だろ?」
「よく知ってるな。で、昨日の帰りにその人がお前を探してたんだ。風邪を引いてるって言ったら落ち込んでしまったけどな」
「そっか…でも何の目的で俺を探してたんだ?」
「そこまでは聞いてない。実際に会えばいいだろ」
孝太郎の事情を聞いた後、キムは日を改めてまた来ると言って北海道に帰っていったそうだ。
(おそらく、あのお婆ちゃんを打ち負かした俺の腕を見てみたいんだろうな)

2限目の授業は体育で、バレーボールということで体育館に行った。
だが、準備体操が終わったところで丹河が両手に木刀を持って入ってきた。
「海原!!今度こそお前を倒してやる!」
「無駄なことはやめろ。二刀流になったところで勝つことはできないんだからな」
怒鳴り散らす丹河に対して、孝太郎は少しの焦りも見せなかった。
「黙れ!俺は絶対にお前を倒す!そして最強になるんだ!!」
そう言いながら孝太郎にダッシュで間合いを縮め、木刀を振り回したが、両方とも孝太郎に捕まれ、胸に蹴りを当てられて吹っ飛んだ。
「木刀は人に向けて振り回すものじゃないだろ?」
「そういうお前だって振り回そうとしてるだろ!?」
丹河は体を起こしながら怒鳴り声で聞く。
「じゃぁこれでいいか?」
孝太郎がそう言って両手に持っていた木刀を誰もいないところへ放り投げるのを見て丹河は少し驚いた。
そこへ孝太郎が一気に間合いを詰めて丹河の胸に思いっきりストレートを当て、丹河は開いていた出入り口から外へ吹っ飛んでいった。
「ったく、本当に懲りないなぁ…それに俺を倒しても最強にはなれないってのに…」
「どうしてだ?」
愚痴をこぼした孝太郎に翔が聞いた。
「決まってるだろ。俺より強い人が世の中にいっぱいいるからさ」
これを聞いて翔は苦笑した。
この後は普通に授業が行われ、時間も普通に過ぎていった。

そんなこんなであっという間に放課後になり、孝太郎は部活が休みということもあって特にすることもなかったので帰ることにした。
「いい加減に私に付き纏うのやめてよ!」
「いいじゃないか。別に彼氏がいるわけでもないんだから。それに僕が君に告白しちゃいけない理由でもあるのかい?」
孝太郎が校庭の真ん中まで行ったところで、女子生徒の怒鳴り声と男子生徒の余裕で嫌味交じりの声がした。
「待ちたまえ。まだ話は終わってない!」
女子生徒が走って逃げたためか、男子生徒も後を追いかけようとする。
だが、校庭の真ん中にいた孝太郎を見つけてそっちへ走っていった。
「孝太郎君!待って!」
「沙羅…と、会長か…」
沙羅は孝太郎を盾にするように後ろに立って荒い息をしていた。
「海原、僕は矢神君に話があるんだ。そこをどけ」
生徒会長である真木野 修司(まきの しゅうじ)も沙羅を追いかけるために走ったが、孝太郎の前まで行っても呼吸は乱れていなかった。
「断る。何のつもりかはわからんが、沙羅を自分のものにするためとはいえ、強引過ぎないか?」
「それだけ僕が矢神君のことを想ってるってことだ。さあ、怪我をしたくなかったらそこをどいて矢神君をこっちに渡したまえ」
「聞こえなかったのか?断るって言っただろ。それにお前こそ、怪我をしたくなかったら大人しく失せろ」
これを聞いて会長は怒りがこみ上げてくる。そして、孝太郎にパンチを繰り出したが、カウンターでアッパーを食らって吹っ飛んだ。
「本当に懲りない奴だ。それより、大丈夫か?」
「あ、ありがとう。丁度会ったんだし、一緒に帰ろう?」
沙羅は呼吸が整っており、礼を言った後、一緒に帰ろうと誘ったのを見て、孝太郎には始めから狙ってたように思えた。
そして、二人で一緒に帰ったが、孝太郎は断らなかった自分に不思議に思わずにいられなかった。

さっきのこともあり、孝太郎は沙羅を家まで送り、その後はアパートの自分の部屋に帰った。
郵便受けを見ると、一通のはがきがあった。表の送り主と、裏の内容を見てため息をついた。

土曜日になり、学校が休みということもあり、孝太郎は特にすることもないので一人で町中を当てもなく歩いていた。
そんな中、一人の男が声をかけた。
「すいません。もしかして、青い龍の海原孝太郎さんですか?」
男は背が高く、元気のいい好青年という雰囲気だった。
「そうですけど、どちら様ですか?」
「私はキム・シンザンと申します。先日からあなたを探してました」
「そういえばそんなことを翔から聞いたことあったな…。で、俺を探していた理由は何ですか?」
「あのクレイジーニンジャさんに打ち勝ったあなたの腕を私にも見せてほしいのです」
クレイジーニンジャとは春江のことである。日本では無敵の小林として知れ渡り、外国ではクレイジーニンジャとして知れ渡っているのである。
「武術大会では日向さんと戦いました。なかなか強かったです。さすが、赤い虎と呼ばれるだけあります」
「そうですか…」
「で、今日はあなたと手合わせをしたいのです」
「…わかりました。では準備をしてから学校に行きましょう」
二人で一度アパートに戻り、孝太郎は拳法着を手に持って学校に向かった。

学校の道場に行くと、なぜか翔たちがいた。
「来ると思ったぜ。孝太郎」
「何でみんな…さてはキムさんが今日来ることを知ってたな?」
「日向君の策略でね、みんなでここで待ち伏せしたの」
留美が笑顔で言った。
孝太郎は呆れながら更衣室にって着替え、いつの間にか拳法着に着替えて待っていたキムと真ん中に立った。
「準備はいいわね。では、両者構えて」
京子の審判の下で、二人は手を伸ばせば簡単に届く距離で構えた。
お互いにさっきまで感じていたものと違うものに緊張する。
「始め!」
これを合図にキムが孝太郎に向かって真っ直ぐ鋭い蹴りを繰り出したが、孝太郎はいつの間にか横に立ってキムの軸足に払いをかけて倒して飛び退いた。
キムはすぐに立ち上がり、激しい蹴り攻撃を繰り出し、孝太郎は目を閉じて風に身を任せるかのように回避したり、蹴りで蹴りを防いだりしていた。
そんな中でキムはふと気になったことを聞く。
「なぜ、手を使わないのですか?」
「テコンドーは足技が基本になってる。俺はテコンドーの試合をテレビで見たりしてきたけど、手を使った攻撃を見たことがない。だとすれば、手を使った攻撃に対して不利になるのは一目瞭然。だから俺も足しか使わない。相手と同じ条件で戦うことも格闘の礼儀の一つだと思う」
みんなは驚いた。
「いいでしょう。ならばこの状態で続けましょう」
キムはすぐに落ち着いて構え直し、巧みな蹴りを繰り出す。
そんな中で孝太郎は左足で腹、鳩尾、胸に突くように蹴りを当て、その足で胸の少し下を左から右に払うように繰り出したが、キムは少し後ろに下がって回避し、間を詰めて蹴りを当てようとしたが、孝太郎の右足の踵がこめかみの部分に激突した。
「ぐっ!」
キムは横に少し吹っ飛んで倒れ、すぐに立ち上がった。
「4発目の蹴りはフェイントだったのですか…」
「そう思うかもしれません。ちなみにたった今編み出した技だったりして…名付けて五連脚(ごれんきゃく)」
「たった今…凄い…試合中に技を編み出すなんて…」
沙羅はただ驚くばかりであった。
そんな中、キムは飛び上がって孝太郎に足を向けながら下降したが、孝太郎は先を読むかのように少し後ろに下がる。しかし、キムが着地したときに中断蹴りが孝太郎の胸に当たった。
孝太郎は少し後ろに吹っ飛び、そこへキムは間合いを縮めて真上に伸ばした足を孝太郎の頭上めがけて落とした。
しかし、踵を落とした先に孝太郎の姿はなかった。
孝太郎はいつの間にか横に立っており、キムが驚く間を与えずに蹴り技を連続で繰り出した。
その時、孝太郎の攻撃は当たるときに烈火拳を繰り出したときのように巨大に見えた。
キムは驚きながら9発の蹴りを食らい、10発目にサマーソルトキックを当てられて吹っ飛び、背中から倒れた。
「ぐっ!さ、さすがですね…私の負けです」
孝太郎は何も言わずにキムに歩み寄り、気を送って体力を回復させた。
「立てますか?」
と、ただ一言言って手を伸ばすと、キムは微笑んで伸ばされた手に捕まって立ち上がる。
「烈火十連脚(れっかじゅうれんきゃく)も使うのは初めてだったんですけどね」
「当てるときに大きく見せるところは凄いです。それに、私のネリョチャギを回避するだけならまだしも、いつの間に横に…」
「自分で自分の技を見てみることです。キムさんの技はかなり鋭いですが、出した後に少しだけ隙があります」
「そうですか…まだまだ修行が必要ということか…いい勉強になりました」
そう言ってキムは礼をする。と同時にみんなが拍手をした。
この後は道場にいるみんなでいろいろ話し、キムは北海道へ帰っていった。

「なんかお前、技の切れが前以上に増してるような…やっぱ影と二つに分かれてたことが原因なんだろうな」
「お前も気づいてたのか…!」
翔の問いかけに孝太郎は相槌を打つかのように答えると、背後に何かを感じたが、振り向かずにいると、翔は何かに気づいたかのように孝太郎から少し離れた。
そして、背後から孝太郎の後頭部めがけてストレートが繰り出されたが、孝太郎は左に動いて回避し、ストレートを繰り出した腕を両手でつかんで背負い投げをした。
「きゃっ!」
背負い投げをされたのは留美だった。
留美は背中に痛みを感じながらも元気に立ち上がった。
「どこから狙ったってすぐにわかるぜ」
「沙羅ちゃんの言ってたとおりね」
孝太郎は沙羅と知り合って次の日に手合わせを頼まれたとき、沙羅が後ろからストレートを放ってそれを受け止めたことを思い出した。おそらく沙羅はそのときのことを話したのだろう。
と、そのとき、校庭が騒がしくなった。見てみると、20人を超えるほどのチンピラが集まっていた。
幸いなことに、校庭に生徒は一人もいない。
「懲りない連中だな」
「そうだな…ここは一発で決着をつけてやるか」
翔が愚痴るように言うと、孝太郎は相槌を打ち、一人でチンピラたちのほうへ歩いていった。
その姿にみんなはいつもと何か違うものを感じていた。


<あとがき>
沙羅が学校を休んでまで孝太郎の看病をする理由が明らかになったが、孝太郎は受け入れられなかった。
風邪が治り、復帰した初日から丹河は殴り込みをかけるが、あっさりと敗北。
キム シンザンとの手合わせで蹴り技を編み出し、また強くなった孝太郎。
そして、チンピラが殴りこみにかかるが、孝太郎は一人で迎え撃つことに。
次回、孝太郎が使うことを恐れていた技が炸裂。それは…。
今回はここまでです。
短文ですが、以上です。

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