第19話
「正宗の真実」
孝太郎は正宗を砥石で研ぎながら話した。
「この刀は、本物そっくりに作った量産品なのです」
だが、あまりにも出来がいいので校長は本物と自分に言い聞かせてコレクションの一つにしていた。
「それだけじゃありません。これは正宗であることには間違いないのですが、名刀中の名刀と言われている『五郎入道正宗』なのです」
老父と春江は驚いた。
「そう言えば、その刀の刃紋が直刃になってる。本物は波打ってるはずじゃ」
老父は刀に詳しい。伊達に凄腕と言われてないというところだろうか。
「そうです。ですが、あまりにもできがいいために偽物扱いする人がいないそうなのです」
「なるほど」
春江が納得するように言った。
「青年よ。その刀をわしに預けてくれんか?お主の期待通りとまではいかないかもしれんが、できる限りのことはやってみよう」
「で、でも、この刀はお爺さんを拒絶してるんじゃぁ…」
「確かに。じゃが、このまま引き下がっては凄腕の刀鍛冶の名が泣くわい」
これを聞いて孝太郎は少し笑った。そして刀を研ぐ手を止めた。
「わかりました。しばらく預けてみることにします」
そう言って刀を渡した。
「それじゃぁ、長居は無用じゃな。わしらは旅館に戻るとしよう」
「そうですね」
そう言って春江と孝太郎は旅館に戻った。その際に孝太郎は予備の刀をもらった。
この後はみんな揃ったこともあって組み手などをやっていた。
だが、そこへまたも乱入者が現れた。
長棒を持つサングラスをつけた田村、日本刀を腰に差しているロングヘアーな犬井。
レスラーのようなガタイの大きい大杉、中国服を着ているカンフーもどきの本井。
「あいつら…」
「知ってるのか?孝太郎」
孝太郎の呟き声を聞いた翔が横に立って質問する。
「知ってるも何も、揃いも揃って格闘界でトラブルを起こして追放された連中だ。それっきり聞かなくなったけど、まさかここに来るなんて…」
「4人ともかなりの凄腕って聞いてるわ。生死をかけた真剣勝負になるわね」
京子が言った。どうやら恭平から聞いてるようだ。
「相手になるのはその4人だけじゃない」
男の声にみんなの、特に孝太郎の表情が強張る。
「ついに来たか…真木野」
孝太郎が呟くと、真木野はみんなの前に姿を現した。
「海原、今度こそお前に勝つ」
「なんて執念だ…俺を倒すためだけに山篭りまでして…(しかも、あいつの体全体で揺らめいてるどす黒いオーラは何だ?)」
孝太郎は一筋縄ではいかないことを悟った。翔たちはいつもと違う孝太郎に疑問を持っていた。
そんな中で大杉が孝太郎に向かってダッシュし、孝太郎を捕まえようとしたが、まばたきをしたときに目の前にいたはずの孝太郎の姿がなかった。
「な!?どこにいった!?…ぐあ!」
大杉があちこち見ながら探していると、服の襟の部分を後ろからつかまれ、背負い投げをされて腹から落ちた。
「ちゃんと後ろも見ろよ」
孝太郎は後ろに飛びのいてから手を砂を払うように叩きながら言った。
大杉は起き上がってまた孝太郎に向かってダッシュした。
だが、もう少しで孝太郎の襟を掴むというところで、逆に孝太郎に掴まれ、合気道のように勢いに流され、足をかけられて転倒した。
その後も起き上がっては襲い掛かり、その度に転倒させられるのだった。
「馬鹿な…最強の俺様が…」
「確かにあんたは強いかもしれないけど、それはプロレス界でのことだろ?総合格闘ではまだまだじゃないのか?」
「ほざけ!」
大杉は荒い息をしながら言い、孝太郎は焦り一つ感じさせない口調で言ったが、大杉は怒って立ち上がり、ダッシュして襲い掛かった。
「諦めの悪い奴だ」
そう呟き、大杉の胸の部分に強烈な一撃を当てた。
「ぐあ!!」
大杉は吹っ飛び、板張りの壁に大きな穴を開けてめり込み、気絶して動かなくなった。
「呆気ねぇ…孝太郎だからあっさりと勝ってしまうんだろうな…」
翔が呟いた。そこへ本井が襲い掛かる。
「おっと…」
もう少しで本井の攻撃が当たるというところで翔は回避した。
「よそ見してるとやられるぜ」
「ご忠告どうも」
本井の挑発的な口調に対して翔は受け流すように答えた。
孝太郎は少し離れたところで翔と本井の戦いを見ていた。
翔はダッシュして左足の飛び膝蹴りを繰り出し、本井は防いで反撃しようと思ったが、右足の顔面蹴りをまともに食らった。
「飛び膝蹴りの後はサマーソルトだけが全てじゃない。これはタイガースラッシュキックだ」
本井は吹っ飛んで仰向けに倒れ、顔面の痛みをこらえながら起き上がって攻撃を繰り出した。
だが、翔には当たるどころかかすりもせず、逆にまた一撃を当てられた。
「くそぉ…」
本井はもう立ってるのがやっとみたいだ。今度は翔から攻撃を仕掛けた。
翔は両手に気を集めた。それはまるで虎のかぎ爪みたいだった。その状態で右手を虎が爪で引っかくように振り回したが、本井はそれを翔から見て左に動いて回避したが、左手で胸倉を掴まれて逃げられなくされ、右のストレートを額に食らって気絶した。
「どうだ?俺の猛虎爪襲拳(もうこそうしゅうけん)は?」
(まさか、あんなに強くなってるなんて…気孔術をいつの間に使えるようになった?)
孝太郎は翔が気を使うことができるようになったところを見て驚くばかりであった。
沙羅たちも驚いていたが、沙羅はふと何気なく孝太郎を見た。
「あ!孝太郎君!後ろ!」
沙羅は少し大きな声で孝太郎に言ったが、孝太郎は後ろを向くことなくそのままだった。
孝太郎の後ろでは犬井が日本刀を構えて孝太郎に襲い掛かろうとしていた。
「俺様を無視しようったってそうは行かねぇぜ。おらぁ!!」
犬井は日本刀を振り上げ、孝太郎を切りつけようとしたが、刃が孝太郎に当たる瞬間、孝太郎は右手に気を集め、彗星のように輝くその手で白羽取りをした。
「なに!?」
犬井だけでなく、それを見た全員が驚いた。
「そんな扱い方をしたら、せっかくの刀が泣くぜ?」
「うるせぇ!!」
犬井は激怒して刀を引こうとしたが、孝太郎の手から抜けることはなく、犬井は少し力を入れて引くと、目釘(めくぎ)が折れて柄巻き(つかまき)から刀身が抜けた。
「うわっ!!」
犬井は引こうとしたときの勢いで尻餅をついた。
「剣道なら竹刀だろ?」
「そういうことよ」
夏目が2本の竹刀を持って入ってきた。そして1本の竹刀を犬井の前に投げる。
「武士としての誇りが少しでもあるなら、その竹刀でかかってきなさい」
夏目はそう言いながら竹刀を構える。
「いいだろう。女だからって手加減はしないからな」
「私だって、あなたみたいな素人が相手だからって手加減する気なんて全くないわよ」
夏目の挑発に犬井は怒って襲い掛かった。
犬井はでたらめに竹刀を振り回すが、夏目はそれらを全て弾いて反撃のチャンスを狙っていた。
そして、犬井は下から振り上げてその直後に振り下ろしたが、夏目はそれを防いで犬井の腹に蹴りを入れ、犬井はくの字になった。
そこへ夏目が竹刀を振り下ろして犬井の頭を直撃し、犬井は脳震盪を起こして気絶した。
「剣に支配された愚か者にはいい薬ね」
夏目は構えを解いて言うと、周りのみんなは苦笑した。
「さて、あのグラサンをかけた奴は誰が相手する?」
翔が聞いた。
「わしが相手しよう。お主らにばかりいい顔をさせてはわしの面目が丸潰れじゃからのぉ」
春江がいつの間にか田村の前に立った。
「おもしれぇ。無敵の小林か…相手に不足はないぜ」
田村は何の前触れもなく春江に向かって乱れ突きを放ったが、それが一度も春江に当たることはなかった。
「どうした?その棒はただの飾りかい?」
「うるせぇ!!」
春江が言うと、田村は挑発された気分になって怒鳴り返した。
田村は怒りに任せて振り回したが、ことごとく回避され、もう少しで当たるというところで春江は素手で受け止め、もう片方の手で空手チョップを繰り出し、棒を叩き割った。
田村は驚いた。だが、春江を見たとき、春江は目の前にいなかった。
「な!?どこにいった!?」
「龍の戦いを見ておらんかったのか?」
春江はいつの間にか田村の後ろにいた。
田村は驚いてすぐに後ろを向いたが、そのときには春江の踵落としが繰り出されており、それを田村は頭に食らって気絶した。
「さすがだな。こいつらにやられては僕の楽しみがなくなる。さて、僕の相手は誰がしてくれるのかな?」
真木野は不適に笑いながら言い、体中からどす黒いオーラを放った。それを見てみんなはぞっとした。
だが、それと同時に水か空を思わせるようなものを感じた。
ふと見てみると、孝太郎も圧倒されまいと青と白が混じったオーラを放っていた。そのオーラには汚れが全くなかった。
「どうやらやる気のようだな、海原。丁度いい。今までお前に負けた屈辱を晴らそうと思ってたところだからな」
「それだけのために、山篭りまでして…しかもお前が放つどす黒いオーラは何だ?」
「修行の成果だ。さぁ、本当にどっちが強いか決着をつけようじゃないか」
そう言って真木野は手に持っている棍を構えた。
「いいだろう。今度こそ、お前との最終決戦だ」
孝太郎は少し怒りを込めたような口調で言いながら構える。
翔たちは場外にいるしかできなかった。
「何というどす黒いオーラじゃ。欲望に心を支配されて自分を完全に見失っとる」
「孝太郎に何度もあっさりと負けた屈辱。そして矢神さんを何としてでも自分のものにしようとする欲が山篭りをする前以上に強くなったのか…どうやら孝太郎でも一筋縄ではいかないみたいだな」
春江と翔が話していた。
「いったい何をしたらあんなになるの?」
留美はずっと体を震わせていた。
「わからない。けど、完全に自分を見失っているわ。まさに欲の塊ね」
京子は震えている留美の体を支えながら言った。留美は少し落ち着いたみたいだ。
沙羅は何も言わずに孝太郎の無事を祈っていた。
(今の孝太郎君には心の傷がある。それが癒されてない今はつけこまれないとも限らない)
「そう言えば、勝敗が決まったときのことを言ってなかったな。僕が勝ったとき、つまりお前が負けたときだ。そうなったら矢神君は僕がもらうぞ」
真木野が構えたままで言うと、孝太郎は少し怒りを込めた表情になる。
「…いいだろう。その代わり、俺が勝ったとき、つまりお前が負けたら、沙羅には二度と近づくな」
「フッ。僕が負けることはないだろうが、まぁいいだろう」
そして、二人の勝負が始まった。
真木野は棍棒を孝太郎にむけて突いたり振り回したりしていた。だが、孝太郎は目を閉じて全て回避していた。
そのうちに孝太郎は一瞬の隙を突いて真木野の胸に横から裏拳を当てて吹っ飛ばし、真木野は壁で背中を強打した。
「くっ。まだまだ」
真木野は背中の痛みをこらえながら立ち上がった。
「どうやら俺の勘違いだったようだな。お前が放ったオーラはただの見せかけだったのか」
「黙れ!学校では英雄とか何とか言われてるみたいだが、実際にはただの暴力主義者じゃないか!」
「かもしれんな。俺はそれを承知の上で拳法をやってる。だけど、試合とか以外では自分から戦いを挑んだりしない」
「奇麗事を並べ立てていられるのも今のうちだ。この人殺しが!」
これを聞いて全員の、特に孝太郎が動揺した。
「お前のことは修行のついでに調べさせてもらった。2年前に父親を殺したことも。そして、それより前に想い人を亡くしたことも全てな。お前の弱みは握らせてもらったぜ」
「くっ…貴様…俺を本気で怒らせて生きていられると思うなよ!!!」
孝太郎の表情は阿修羅のようになり、同時にさっきよりもオーラが放たれた。
「出た…孝太郎の本気状態…あいつ、死んだな…」
翔が呟いた。かつて本気になった孝太郎を見たことがあるが、今と同じように見ているしかできなかった。
「孝太郎君…怒りに我を忘れてる…」
「つまり、キレたのね」
沙羅が言うと、留美が相槌を打つように言った。
そんな会話をよそに、真木野は棍を振り回し、それらは回避されたが、先を読んでいたかのように突きを繰り出した。
孝太郎はそれを見て、回避するどころか、自分から突っ込んで棍に向けてストレートを放った。
棍は粉々になるかと思ったが、孝太郎が当てた先の部分から花が開いたかのように裂けた。
もう少しで真木野の手に当たるというところで止めてバックステップで間を空けた。
真木野はただ唖然としていた。
「あの棍、まさか鉄でできてるの!?」
「間違いないわね。木だったら粉々になるはずだから。でも、鉄を裂いたのに孝太郎君の手は傷一つついてないわ」
京子が驚きながら言い、沙羅も相槌を打つかのように言った。
「まさかキレただけでここまで強くなるとは…いいだろう。僕も久しぶりに本気になろう」
そう言って真木野は棍を投げ捨て、孝太郎にダッシュで襲いかかり、手足を使った連続攻撃を繰り出した。
孝太郎も手足を使った連続攻撃を繰り出した。そのスピードは互角だった。
連続攻撃を繰り出しながら、真木野は両手に気を集め、孝太郎に向けて連続パンチを放った。
それに対して孝太郎も烈火拳を繰り出して相殺させる。
だが、真木野は強大な気を放ち、孝太郎はそれをまともに食らって壁に背中から激突し、壁にもたれて俯くような姿勢になると少しも動かなくなった。
「孝太郎君!!」
沙羅は孝太郎に駆け寄ろうとしたが、目の前に真木野が立ちふさがった。
「おっと、そのまま行かせるわけにはいかない。勝負は決まったんだ。ついに君は僕のものになる」
真木野の不敵な笑みを見て沙羅は逃げようとしたが、それを先読みしていたかのように真木野は沙羅の両肩を掴んで動けなくした。
一方、その頃…。
(っく…なんて威力だ…英次君の聖光拳と同じかそれ以上だ…)
孝太郎は視界が暗闇になった中で意識がもうろうになっていた。
だが、そんな孝太郎に声をかける者がいた。
(しっかりしろ!まだ勝負はついてないだろ!?)
(俺と同じ声…影か…)
(確かめてる暇なんかないぞ!!お前がそうしてる間にも、沙羅はあいつのものになってしまうぞ!!)
(沙羅…そうだったな…俺は侍になって、沙羅を真木野から守るって約束したんだったな…)
(今頃思い出してどうする!?ったく、しょうがねぇ…)
(ん?…何だ?力がみなぎってくる…)
(本当の意味でお前と俺が一つになったんだ。さぁ、その力で沙羅を守るんだ!)
(いいだろう。そう言えばお前との絆を忘れてたぜ)
(へっ…絆…か…)
影が呟いたとき、孝太郎の視界が一気に開けた。
その頃、真木野は沙羅の顔に自分の顔を近づけて目を閉じ、沙羅の唇を奪おうとしていた。沙羅は頭を後ろにやって少しでも唇が触れるのを遅らせようとする。
だが、もう少しで唇が重なるというところで、真木野の両手から沙羅の肩に触れている感覚がなくなり、それが気になって目を開けると目の前に沙羅はいなかった。
「な!?」
沙羅は真木野から10メートルほど離れた先に立っており、しかも沙羅の腰には誰かの腕があった。
「真木野、沙羅は簡単に渡さないぜ。本当の勝負はこれからだ」
低めの声がして、沙羅の腰から腕が離れた。
「孝太郎…な、何だ!?…今のお前は…」
翔はいつの間にか孝太郎が立ち上がっていたことと、孝太郎から感じる違和感に寒気を感じた。
「今のあやつ、まるで二人一緒にいるみたいじゃ…あのときの英次みたいに…」
春江は以前に英次が自分との手合わせで同じ状態になったことを思い出した。聖光拳を編み出したときの英次もその直前にグッタリとなり、しばらくしてゆっくり立ち上がったかと思うと、それまでと気質が違っており、さすがの春江でも寒気を感じたそうだ。
そして、そのときに英次が繰り出した技が聖光拳だった。
「真木野…行くぞ!」
「いいだろう。今度こそお前の敗北するとき…な!?」
孝太郎の合図に、真木野は自信満々で答えたが、いつの間にか孝太郎が自分の懐にいて驚きを隠せなかった。
防ぐ間もなく、孝太郎のストレートをまともに胸に食らう真木野。強烈な一撃で吹っ飛ばない自信はあったが、それでも足で踏ん張った状態で吹っ飛んだ。
「くっ…何だ今のあいつは?表と裏が同時に出てきてるように…だが、まだ奥の手がある」
真木野は驚きながら呟き、少しして不適な笑みに変わる。
そして、両腕に気を集め、孝太郎が間合いに飛び込んでくるのを待った。
孝太郎も少し腰を落とし、左手で右手首を掴んで右腕に気を集める。しばらくして右腕は彗星のような輝きを放った。
だが、右腕に触れた左手からも集めたために彗星拳や彗星拳・改よりも気が大きくなり、右の握り拳の部分は彗星の核のようにみんなは感じた。
「あの気の集め方は…英次君の聖光拳と同じだ」
翔の呟きに春江は頷いた。
「俺だってまだまだ。本当の意味で影と一つになったことで、禁断になっていた技も本当の力を発揮する。これが答えだ!」
孝太郎は左手を右の手首から離し、ダッシュで一気に真木野の間合いに飛び込む。だが、ダッシュの際にいつの間にか足の裏に集めていた気を破裂させてその衝撃を利用したダッシュのため、みんなには彗星が飛んでいくように見えた。
真木野はそれを待ってたかのように溜めた気を放出し、黒い壁のようなものを張った。
「この壁は誰も破れない!」
「やってみなきゃわからないだろ!秘奥技!!真・彗星拳(しん・すいせいけん)!!」
孝太郎は真木野が張った黒い壁に右手のストレートを思いっきり放った。
その衝撃で周りに少し強い風が吹いた。
真木野はずっと不敵な笑みを浮かべていたが、しばらくして驚きに変わった。
その原因は黒い壁に少しづつ亀裂が入り始めたからだ。
ついに黒い壁は壊れ、孝太郎はわずかに気が残った右のストレートを繰り出して真木野に当てた。
真木野は思いっきり吹っ飛んで壁に激突。だが、背中にいつの間にか張っていた気で衝撃を抑えてダメージも少なくしたみたいだ。
「何て威力だ…何故だ!?何故お前は矢神君を守るためにそこまで強くなれる!?それが侍か!?」
真木野はゆっくりと立ちながら聞いた。壁に激突したときのダメージは抑えたものの、ストレートを食らったときのダメージが効いているみたいだ。
「お前にはわからないだろうな…お前は矢神さんを何としてでも自分のものにしようという欲望のままに、そして孝太郎を倒すことを考えていた。だが、孝太郎はお前が相手でも勝ち負けにこだわらず、しかも矢神さんを守ろうとする意思を持っていた。つまり、お前が欲望を満たすことを考えて戦っている限り、より大きな意思によって打ち負かされるんだ」
翔が説明すると、真木野は翔を睨んだ。
「確かお前、英次君にあっさり負けたことがあるって聞いたけど、そのときに英次君に「目が濁ってる」って言われたそうだな?山篭りをする前もそうだったけど、今はそれを通り越してどす黒くなってるぜ」
孝太郎が歩み寄りながら言った。
「うるさい!お前に説教される筋合いなんてない!」
真木野は立ち上がり、気を集めた。それはさっき以上にどす黒く、そのうちに悪魔のような形になった。
「な、何あれ…」
留美が震えながら京子に聞いた。
「おそらく真木野君を操っているものの正体ね」
「操ってる?」
京子が答えると、沙羅が聞いた。
「姿を見せたときから何か変だと思ってたの。自分の考えじゃなく、何かに操られてるみたいに感じてた。修行中に欲望に付け込んで利用しようとしたのでしょうね」
「ついに悪魔に魅入られたか…だとすればその悪魔を倒すしかないみたいだな」
孝太郎は言いながら両腕に気を集めた。そのうちに両腕は青く光り、龍の腕みたいになった。
「やれるものならやってみるんだな。今度はこっちから行くぞ!」
真木野は不敵な笑みを浮かべて孝太郎の間合いにダッシュで飛び込む。そして、最初の一撃を当てようとしたが、それを受け止められ、逆に孝太郎に連続でパンチを当てられた。
烈火拳を当てるとみんなは思ったが、孝太郎の両腕から拳の部分が龍の腕みたいな形をして青い光を放っていた。
「烈火拳奥技、青龍斬魔拳(せいりゅうざんまけん)!!」
孝太郎は容赦なく真木野に連続でパンチを当てていく。そうしているうちに真木野から黒い影のようなものが現れ、孝太郎はその影に向かってアッパーを当てた。そのときの孝太郎の手は龍が牙をむいたみたいだった。
影は悲鳴のような音を出して塵のように消えていった。
その時の衝撃で真木野はまた吹っ飛んで仰向けに倒れ、そのまま動かなくなった。
みんなは硬直しており、やがて翔が口を開いた。
「影と本当の意味で一つになっただけで…あんなに強くなるのか…」
「また強くなりおって…もはやあやつと対等に渡り合えるのは英次しかおらんようじゃな」
春江が言うと、京子と沙羅と留美は頷いた。
だが、孝太郎はずっとアッパーの状態から硬直してたかと思うと、体がゆっくりと傾き、それを見た沙羅が駆け寄ったが、間に合わずに孝太郎は倒れてしまった。
それでも沙羅はくじけることなく孝太郎の体を抱きかかえ、歩み寄った春江が言った。
「強力な技を二つも使ったんじゃ。倒れないほうが不思議じゃよ」
この後、田村たちは警察に逮捕され、孝太郎は翔たちに部屋に運ばれた。
<あとがき>
孝太郎が語った正宗の真実。
そして、格闘界でトラブルを起こした者たちの殴りこみ。
そんな中で新たな技を編み出した翔。
その後の孝太郎と真木野の決闘。
一度は負けたが、立ち上がったときは本当の意味で影と一つになり、新たな技を二つ編み出す。
次回、意外な人物との出会いと、それによって孝太郎の気持ちに変化が。
今回はここまでです。
短文ですが、以上です。