第24話
「過去から解き放たれたとき」
「え?今、未柚って…」
沙羅は少し驚いた。
英次との手合わせの後、孝太郎は深い眠りについていた。その中で…
孝太郎は夢の中で目を覚ました。だが、それに気付くまで少しかかり、同時に頭を膝枕されているような感じだった。
そこは霧がかかっていて何もなく、上空にコロナのような星があるだけだった。
「う…ん…ここ、は…」
「気がついた?孝ちゃん」
うっすらと目を開けたとき、女性の声がしたが、それは沙羅の声ではなかった。
「え?…君、は…?…!」
孝太郎は最初はわからなかったが、だんだんと意識がはっきりしていき、初めて見る顔だったが驚いた。なぜなら…
「みっちゃん…」
孝太郎と同じ年頃の大人っぽさを感じさせていたが、名前を呼ばれて孝太郎には未柚だとわかった。
「よくわかったね。とは言っても、「孝ちゃん」って呼んだのは私だけだったもんね」
「そうだったな…ずっと会いたかった…」
孝太郎の目は潤んでいた。
「私もよ…ごめんね、先に逝ってしまって…」
「事故だったからな…誰もが予想もしないことだったから…わかってたんだ…もう会えないことは…けど…」
「その気持ち、わかるよ。私も、孝ちゃんが私と同じようになってしまったら、私も今の孝ちゃんと同じようになるかもしれないから」
「そうだな…」
そう言いながら立ち上がると、未柚も立ち上がった。
「でも、みっちゃんには…」
「ちょっと!」
孝太郎が何かを言おうとしたが、未柚が少し膨れて止めた。
「どうした?」
「小学生じゃないんだから、その呼び方はやめてよ」
「そうだな。じゃぁ…未柚…でいいかな?」
そう言う孝太郎はどこか照れくさそうだった。未柚はそれを見てクスッと笑う。
「いいよ…孝ちゃん…」
未柚は瞳を潤ませて優しげな表情になり、孝太郎の両頬に両手でそっと触れた。
「ん?」
「今日まで私のことを覚えててくれて嬉しかった。もし思い出すのが辛いなら、その時は忘れてもいいから」
これを聞いて孝太郎は首を横に振った。
「未柚のことは忘れない。これからも、未柚とは一緒だから」
「そうだね…でもね、孝ちゃんには、自分の思ったように、新しい幸せを掴んでほしいよ」
「未柚は…それでいいのか?」
「いいよ。ちょっと悔しいけどね…でも、ゆっくりでいいから、前を向いてほしい…」
「たぶん、そう言うと思ってた…けど、そうしたら未柚を裏切ることになるんじゃないかって…それが怖かったんだ。けど、今の一言で、本当の意味で前を向いていけそうだ」
そう言う孝太郎の表情は穏やかだった。
「よかった…そろそろ行かなきゃ…でも、その前に…」
未柚は両手を孝太郎の首に回し、目を閉じて孝太郎の唇を自分の唇で塞いだ。
しばらくして唇は離れ、未柚は孝太郎の耳元で呟いた。
「孝ちゃん…大好き…」
未柚は体を離し、いつの間にか背中にあった純白の翼を広げてどこかへ飛んでいった。
「そうさ…未柚とはずっと一緒だから…また会う日まで…さようなら…」
孝太郎の夢の中での話は終わった。本当は唇を重ね合わせたことは黙っておこうと思ったが、バレたときのことを恐れて全て話した。
「そんなことが…」
「未柚は俺の過去のしがらみを全て断ち切ってくれた…本当の意味で、前を向いていける」
沙羅は孝太郎の横顔をずっと見ており、孝太郎は俯いたままだったが、表情は今まで見たことがないぐらい優しく微笑んでいた。
「そう言えば、俺のバンダナ知らないか?」
「これのこと?」
孝太郎がふと思い出して聞くと、沙羅はバッグの中から小さな包みを取り出し、その中から青いバンダナを出した。
「それは…」
そう言いながら手を伸ばすが、沙羅は引っ込めた。
「まだダメ」
「どうして?」
「孝太郎君の好きな人が誰なのか、教えてくれたら返してあげるわ」
沙羅は笑顔だった。どうやら遊んでいるみたいだが、孝太郎にはそうは思えなかった。
「わかったよ。その代わり、立ってくれるか?」
そう言いながら立ち上がる。沙羅は気になったが、つられるように立ち上がった。
「遠まわしで悪いけど…それに沙羅…もう遅いかもしれないけど…」
「ん?何が?」
「こんな俺でよかったら、彼女として付き合ってくれるか?」
これを聞いて沙羅は驚く。そして、放心状態になりながらも孝太郎にゆっくりと歩み寄った。
孝太郎は腕を広げて沙羅を腕の中に優しく抱きとめた。
「そう言ってくれる日を、どれだけ待ったか…」
沙羅はかすれ声で言ったが、孝太郎は何も言わなかった。
二人の体は離れ、沙羅は孝太郎の額にバンダナを巻いた。
が、孝太郎の手にはヒラヒラの薄く細い青色をした紐があった。
「それは?」
「沙羅が部活をするときに髪を結ぶためのリボンだ」
そう言って孝太郎は両手を沙羅の首の後ろに伸ばして沙羅の髪をリボンで結んだ。
「…嬉しい…」
沙羅は嬉し涙を流していた。いつの間にか、二人は膝立ちになっていた。
孝太郎は沙羅の涙を指でふき取って間伐を入れずに沙羅の唇を塞いで目を閉じた。
沙羅も孝太郎の気持ちに応えるように目を閉じる。二人が恋人同士になった瞬間だった。
時間は昼を過ぎており、二人で食事をした後、いろいろなところを歩き回った。
今までと違うところは、手をつないでいたところだ。しかも孝太郎は以前はほとんど無表情だったが、今では微笑むことが多くなった。
沙羅は孝太郎の微笑んだ表情を見るたびにドキッとするが、同時に嬉しさも感じるのだった。
たまにチンピラに絡まれることもあるが、当然ながら二人で撃退したり…。
そうしているうちに時間は過ぎていき、夕方になったので孝太郎は帰ろうとしたが…。
「今日は泊まってってよ」
「そ、そうか…じゃぁそうさせてもらうよ。けど、荷物置いてきてそのままだから、一度帰ってからってことでいいかな?」
沙羅は微笑んで頷いた。
孝太郎は自分の部屋に戻って荷物を片付け、歯ブラシなどを持って沙羅の家に行こうとしたが…。
「あれ?どこ行くんだ?」
出入り口の前ですれ違った翔に聞かれた。
「沙羅の家だ。泊まりにこいって言うから…」
孝太郎は照れくさそうに応えた。
「お前もか…」
「“お前も”?…ってことは…」
孝太郎が聞き返すと翔は顔を少し赤くした。
「あ、あぁ…今夜は留美の部屋にな…」
「そうか…」
二人は少し笑いあって分かれた。
そして、孝太郎は待っていた沙羅と一緒に沙羅の家に行った。
が、そこには先客がいた。
「おや、孝太郎君じゃないか。久しぶりだね」
居間に行ったときに孝太郎にとって久しぶりに見る男がいた。
「た、達夫さん」
「知ってるの?」
横に立っていた沙羅が聞いた。
「知ってるも何も、青島さんの父親だよ」
「あ!もしかして、空手の世界大会で何度も優勝してる…」
「そうだよ。私は青島達夫。君が恭平君の妹さんか…よろしく」
「こちらこそ…沙羅です」
二人は丁寧に挨拶した。
「で、留美は元気にしてるかね?」
「留美ちゃんなら元気にしてます。それにちょっとづつ腕を上げてるみたいですし…」
「そうか…それはいいが、電話で彼氏ができたとかって喜んでたな」
「明日、その彼氏に会ってみますか?」
孝太郎が聞くと、達夫はしばらく考えて言った。
「…そうだな…もしかしたら将来私の息子になるかもしれないんだ。会う必要があるだろう」
「わかりました。じゃぁセッティングしておきます」
これを聞いて達夫は驚いたが、それをよそに孝太郎は電話をかけた。
「翔か…実は明日、会ってほしい人がいるんだ。青島さんも一緒にな…会えばわかる…場所は、そうだな…アパートの庭でいいかな?心配するな。別に決闘をさせようってわけじゃない。むしろお前は絶対に会わなきゃいけない人だ。俺も立会人になるから…じゃ、明日な」
そう言って孝太郎は電話を切った。ちなみに電話の内容は達夫には聞こえてない。
「明日、俺が下宿してるアパートに案内します。青山さんもその彼氏もそこに下宿してますから」
「そうか…わかった。君を信じよう」
「信用する価値は十分にある。達夫さんも知ってる人だからね」
どこかから出てきた恭平が話を合わせる。
「私も知ってる人?」
「会ってからのお楽しみです。もしかしたら、会って話したことがあるかもしれません」
孝太郎の含み笑いに達夫はただ頭に?を浮かべることしかできなかった。
この後、京子が帰ってきたこともあってみんなで食事をした。
「まさか達夫さんがここに来るなんてねぇ…」
京子はどことなく嬉しそうだった。
「たまたま寄っただけだよ。で、留美は学校ではどうなのかね?」
「心配することはありません。他の生徒とほぼ同じように普通にしてますから」
沙羅が答えると、達夫は安心したみたいだった。
夕飯を食べ終わり、少ししてから一人づつ風呂に入った。のだが、
恭平が出てきて孝太郎が入った後、沙羅は手を洗うために洗面所に行くと…。
「あ…」
「ん?」
沙羅のかすかな声を聞いて振り向いたのは、腰にバスタオルを巻き、歯を磨いている孝太郎だった。
「…」
「…」
しばらく見詰め合っていたが…
「〜〜〜〜」
沙羅は顔を真っ赤にして洗面所から出て行った。
「?」
孝太郎は沙羅の行動を疑問に思いながらうがいをして、再び風呂に入った。
(何だったんだ?)
孝太郎が風呂から出ても、居間のソファーでちょこんと座っている沙羅の顔は真っ赤だった。
「沙羅、さっき洗面所に行ったときからこうなの。海原君、何があったの?」
「さぁ…こっちが聞きたいです」
京子の質問に、孝太郎はわからないとジェスチャーをしながら言った。
が、達夫が風呂に入り、その少し後で京子が洗面所に入っていくと、沙羅と同じように顔を真っ赤にして戻ってきた。
「京子、何があったんだ?」
恭平が聞いたが、京子は顔を真っ赤にしているだけで何も言わなかった。
孝太郎が気になって洗面所に行くと、腰にバスタオルを巻いた状態で顎鬚の手入れをしている達夫がいた。
「おや、孝太郎君じゃないか。どうしたんだね?」
「達夫さん…さっき先生が顔を真っ赤にして出てきましたので、何があったのか気になって…」
「なんだ、原因は達夫さんだったのか…」
孝太郎の後ろから恭平が顔を出して言った。
「「?」」
「二人とも、男の裸を見慣れてないんだよ。以前にも僕が風呂に入ってるときに達夫さんと同じことをやってね。そのときに京子と沙羅が入ってきて、しばらくしたら真っ赤になったことがあったんだ」
これを聞いて、孝太郎と達夫は「なるほどね」と納得する。
しばらくして、京子と沙羅は落ち着きを取り戻して別々に風呂に入った。だが、最後に風呂に入った京子が出てきたのを恭平が見ると、どこからか10本ほどの焼酎のビンを持ち出してきたのを見て、沙羅は引き気味になった。
「沙羅?どうした?」
うろたえている沙羅を見て孝太郎が聞いた。
「兄さんと姉さん、酒癖が凄く悪いの。この前、危うく飲まされそうになったんだから。逃げたほうがいいわよ」
「そうだな…」
孝太郎と沙羅はその場から逃げるように二階の沙羅の部屋へ行った。
「達夫さん、大丈夫かな?明日、翔たちと会わなきゃいけないのに…」
「そう言えば…二日酔いの状態で会ったら…」
二人で同時にため息をつく。
「もう10時半を回ってる。そろそろ寝るか…」
時計を見ながら言った孝太郎は部屋を出ようとした。だが…
「待って」
ドアの前に沙羅が立って後ろ手で鍵をかけた。
「今夜は一緒に寝よ?」
沙羅は言いながら孝太郎に歩み寄る。孝太郎は沙羅の水晶のような綺麗な瞳に魅入られて動けなかった。
だが、沙羅が孝太郎のバンダナをそっと外したことで孝太郎は硬直が解けた。
「あ…」
孝太郎は手を伸ばすが、沙羅が止めた。
「今は外してて…ありのままの孝太郎君の姿を見ていたいから…」
お返しみたいな感じで沙羅の髪を纏めている青いリボンをそっと解き、白いヘアバンドを外した。
「…これでおあいこだ」
二人で同時に机に置き、孝太郎は目を合わせ辛くて顔を逸らしていたが、沙羅が孝太郎の両頬にそっと触れて振り向かせた。
「恥ずかしがることないでしょ?二人っきりなんだから…」
「二人っきりだから、余計にな…あ…」
沙羅は孝太郎の両頬にあてていた両手を首の後ろに回してそっと抱き寄せた。
「こうしてると、傍にいてくれる実感があるから安心するけど、離れてると不安になるのよ」
「一人が怖いからか?」
「それもあるけど、いつか他の女の人に取られないかって思うとね」
「女心って複雑だな。自分しか見てないってわかってても嫉妬するんだから」
「でも不安なの。だって孝太郎君、モテるんだもん」
「俺は全然気にしてないってのに…それに何人も股にかけるほど器用じゃない」
孝太郎の体は震えていた。沙羅はその理由を察して抱く力を少し入れた。
すると、不思議なことに孝太郎の震えは治まった。
「今は、自分の気持ちに正直になればいいわ」
「俺にはもう、沙羅の想いを拒む理由は何もない。でもおかしいな…恋をするのは初めてじゃないのに…俺ってもしかして、恋愛ごとは苦手なのかな…?」
「ふふ…そうかもね。でも私は…そんな孝太郎君のことが大好き」
そう言いながら孝太郎の髪を優しく撫でる。が、孝太郎は沙羅の背中に両腕を回した。
「…俺も…沙羅のこと、好きだよ…ずっと気になってた。沙羅のために色々やってる自分がいることに…答えはこれだったんだな…」
しばらくは抱き合ったまま何も言わなかった。だが、沙羅が沈黙を破った。
「ねぇ…」
「ん?」
「…私と、キスしようよ…」
そう言いながら沙羅は体をそっと離す。だが、孝太郎は腕の中だった。
「合宿のときの会長との決戦で、必死な気持ちで私を守ってくれた…嬉しかった…ありがとう」
これを聞いて孝太郎は背中に回していた両腕を一度離して首の周りに回すと、二人の顔は少しづつ近づき、ゆっくりと目を閉じながら唇を重ね合わせた。孝太郎はただ、自分の気持ちに正直に…沙羅も同じだった。
しばらくして唇は離れたが、沙羅の表情は幸せそうだった。
この後は何をするというわけでもなく、二人で一つのベッドに横になった。
翌朝。カーテン越しに朝日の光が差し込んでくる。
沙羅は眩しく思いながら目を覚ます。横を見ると、穏やかな表情で寝ている孝太郎がいた。
そっと手を伸ばして孝太郎の髪を優しく撫でる。
「う…ん?…沙羅…」
孝太郎が目を覚まして少しづつ目を開けていく。
「おはよう」
「…あぁ、おはよう」
二人の間に言葉はいらなかった。そして、二人で下りていったのだが…。
居間に入った瞬間、酒の臭いと変な姿勢で寝てる3人の姿が目に入った。
「これは…」
孝太郎が呟き、沙羅は顔を手で覆ってため息をついた。
しばらくして、3人が目を覚ます。だが、二日酔いでふらふらしていた。
「うぅ…ぎもぢ(気持ち)わり(悪)ぃ〜」
「飲みすぎたぁ〜」
「久しぶりの二日酔いねぇ…」
達夫、恭平、京子が頭を抑えながら言った。それもそのはず、床には空になった焼酎のビン10本が転がっていたのだから。
つまり、恭平が用意した焼酎を全部空けたのだ。これで二日酔いにならないほうがおかしいぐらいだ。
ぐったりしている3人をよそに、孝太郎と沙羅が空き瓶の後始末をしたのは余談だ。
「しょうがねぇなぁ…ま、いい機会だし…沙羅、ちょっと手伝ってくれ」
そう言って沙羅の腕を掴んで台所へ行った。
「あ…手伝うって、何を?」
沙羅は少しよろけたが、何とか足で踏ん張った。
「あの3人にお粥を作るついでに、沙羅が風邪を引いてたときの約束を果たすためにな」
「あ…」
これを聞いて沙羅は少し嬉しく思った。
孝太郎はお粥を作り出し、沙羅は作り方を真剣に習った。
お粥が出来上がり、3人の前に出すと、3人は頭痛を抑えながら食べた。
やがて、3人の頭痛は治ったが、恭平と京子は寝たりないということで眠った。
そして、孝太郎と沙羅は達夫と一緒に孝太郎のアパートまで行った。
やがて、アパートに着き、孝太郎たち3人を待ってたのは…。
「よぉ、時間指定してなかったけど、待ってた方がいいと思ってな」
孝太郎たちの姿を見つけた翔が声をかけたが…。
「お、お父さん!!」
留美が達夫を見て驚いた。
「やぁ、元気してたか?」
「まさか、孝太郎…俺が絶対に会わきゃいけない人って…」
「そう、達夫さんだ」
「まさか、留美の彼氏というのは、日向君なのか?」
「そうです。大会で話してましたよね?」
沙羅が聞いて、達夫が頷いた。
「そうか、孝太郎君の親友の日向君だったのか…日向君…」
達夫は真剣な表情で翔に歩み寄った。それを見た翔は固まって動けなかった。
「は、はい」
「…娘を頼むよ」
達夫は翔の髪を撫でながら穏やかな表情で言った。
「…お父さん…」
「達夫さん…わかりました」
翔の表情は何かを硬く決意したみたいだった。
「よかった。無事に収まって…」
「そうだな…」
沙羅が安心したような表情で言うと、孝太郎も相槌を打つように言った。だが、孝太郎の表情は少し暗かった。
「これで安心ね?」
「いや、まだ残ってる」
留美が翔に聞くと、翔は首を横に振って言った。これを聞いて孝太郎以外のみんなが少し驚く。
「そう…まだ残ってる。けど、今回みたいにはいかないな」
「あぁ…一太刀浴びせてやらないと気がすまない相手がな…」
孝太郎が言うと、翔は応え、二人はまるでこれから決戦に行くような雰囲気になった。
「一太刀?」
「その相手って…?」
達夫と留美が聞いた。
「翔の両親…」
「特に親父だ」
沙羅たちは二人から感じる雰囲気に圧倒されそうになった。
「二人とも、そんなに熱くならずにもう少し待ちたまえ。何も今すぐじゃなくてもいいだろ?」
達夫が言うと、二人は普通に戻った。
「そうですね。由梨香にも会わないといけないし」
「誰それ?」
翔が言うと、留美は少しニラみを効かせて聞いた。
「翔の妹だ。この町の東高に通ってる」
孝太郎が代わりに答えて、留美はほっとした。
(でも、翔の両親のことになった途端にあんなになるなんて…そんなに両親と仲が悪いの?)
留美は顔には出さなかったが、頭の中でこんな考えが浮かんでいた。
(翔にとっては修羅場になるな。下手すれば俺たちも巻き込まれる…ん?)
孝太郎は翔のことで考えていたが、何かを感じた。
<あとがき>
明らかになった孝太郎の夢の中での出来事。
そして、沙羅に告白し、恋人同士になった二人。
二人で出かけた後、沙羅の家で達夫に会って…。
翌日、翔たちは達夫に会い…。
一つは丸く収まったが、もう一つの大きな壁が…。
そして、孝太郎が感じた何かがこの後…。
今回はここまでです。
短文ですが、以上です。