第25話
「挑戦状」
孝太郎は何かを感じて回りが見渡せるところへ出て左右を見た。
周りは住宅街で、見渡せるところはほとんどない。
(気のせいなんかじゃない。これは…間違いない)
「どうしたの?」
沙羅が孝太郎の挙動を気にして聞いた。
「沙羅、達夫さんたちに俺から離れるように言ってくれ」
孝太郎は翔たちのところへ戻って沙羅に言った。
「離れろって…」
続きを言おうとしたが、孝太郎の怒りが込められたような表情にぞっとしてそれ以上は聞かなかった。
沙羅は翔たちに事情を説明して孝太郎から翔たちと一緒に離れた。
翔たちは離れたところで一人で立っている孝太郎をただ見ていた。
「こそこそしてないで出てきたらどうだ!?」
孝太郎の強めの口調に翔たちはうろたえた。すると、そこへ一人の男が姿を現した。
その男の体からは真っ黒なオーラが放たれており、右手の甲には竜の字が黒い刺青で刻まれていた。
「さすがだな。気配を完全に消したのに、人がいるとわかってしまうとは…」
孝太郎は男に背を向けたままだったが、ゆっくりと体ごと振り向いた。
「そのどす黒いオーラを放ってれば、気付いて当たり前だ」
「全国でかなり有名になったな、『青い龍』…」
「お前こそ、人のこと言えないだろ…裏格闘界の帝王…またの名を『暗黒竜』…」
これを聞いて翔たちは驚く。
「ほぉ…クズの分際でよくわかったな」
暗黒竜は嫌味のように言う。
「顔を整形手術で変えても、その嫌味丸出しの口調と声色…背後で揺らめく巨大な黒い竜の影…体から漂う血生臭い臭い…そして消えることのない右手の甲の竜の文字…一度覚えりゃぁバカでもわかるぜ」
「ほぉ、そこまでして死にたいか?」
「それはお前だろ?ここで捻ってやってもいいんだぜ?」
「こんなふうにか?」
暗黒竜は聞きながら目に見えない速さで孝太郎を通り過ぎた。
「これを回避するとはさすがだな。まぁ本気を出してなかったからな」
暗黒竜は孝太郎に振り向いて言うと、聞いた翔たちは何事かと思った。
遠くて見えなかったが、孝太郎の髪の毛が2・3本ほどハラッと抜けた。だが…。
「俺もだ」
「なに?…!!!」
孝太郎が振り向いて言うと、暗黒竜は聞いたが、自分の服に右上から左下へ引き裂かれたような3本の筋があった。
暗黒竜は驚く。だが、すぐに不敵な笑みになった。
「そうこなくちゃ面白くない。今日のところはこれで引き下がろう。3月の終わりごろに開かれる裏の格闘大会で待つ」
「去年も同じ時期に開いたな…」
「そんなことはどうでもいいだろ。俺と闘いたいなら、お前一人で来い。必ずな」
「初めからそのつもりだ」
「随分と威勢がいいな。だが、裏の格闘大会の会場がお前の墓場になることを忘れるな」
「お前もな」
しばらく二人は睨み合った。だが、暗黒竜から歩き出し、孝太郎の横を通り過ぎた。
暗黒竜は姿を消し、その場の空気は来る前のような状態に戻った。
孝太郎に最初に駆け寄ったのは沙羅だった。
「一体何なの?あの暗黒竜って人…凄い恐怖を…」
「俺が中国にいたときに、ライヤさんの父親、ウォン・パイロン師匠の元で拳法の修行をした弟子の一人だ」
これを聞いてみんなは驚く。
「そして、ライヤさんが俺を憎むきっかけを作った張本人だ」
「ライヤさん?」
翔が聞いた。
「そっか、私しか知らないのよね。ライヤ・チュンさん。香港で人気ナンバー1の映画女優よ」
沙羅はライヤとの出会いを話した。
「そうなの…で、ライヤさんが海原君を憎むきっかけって何?」
「それは…」
みんなが納得して留美が聞くと、孝太郎は悲しげな表情になって説明した。
他にも、孝太郎と暗黒竜との間にあったことを何一つ隠さずに話した。
・・・・・・。
「孝太郎君と暗黒竜の間にそんなことが…」
達夫はただ驚くだけだった。
「孝太郎が追いかける理由がわかるぜ…俺も同じ立場になったら同じことをするだろうな」
翔は少し放心したようになりながら言った。
「それよりお父さん」
留美がジト目で達夫を見ながら言った。
「な、何かな?」
「体中酒臭いわよ?昨夜、どこで飲んでたの?」
これを聞いて達夫はギクッとなる。
「私が酒を飲むのは今に始まったことじゃないだろ?」
「恭平さんたちと焼酎10本も飲めば、酒臭くなるのは当たり前ですよ」
孝太郎が突っ込み、翔は頭に汗が吹き出た。
留美は呆れてため息をつく。そして、「こんな親にだけは絶対になりたくない」と思うのだった。
一方、その頃…。
「ちっ…俺をこんな気持ちにさせるとは…」
暗黒竜は人目につかないように裏道を歩きながらさっきの出来事を思い出していた。
「…青龍…貴様だけは絶対に殺す…」
元日。孝太郎は沙羅の誘いで神社に行った。
孝太郎は早めに行ったのだが、そこにはすでに振袖姿の沙羅がいた。
「待たせたかな?」
「今来たところよ」
二人は無意識に手を繋いで歩き出した。
「そう言えば、日向君たちは?」
「青島さんと東区へ行った。たぶん、由梨香に会うためじゃないかな?」
「へぇ…ねぇ、おみくじ引こうよ」
「あぁ…」
二人はおみくじを引いた。その結果は…。
沙羅は吉で、「自分のことを守ってくれる人といつか結ばれるだろう」ということ。
これを見て沙羅は顔を少し赤くした。
しかし、孝太郎は凶。内容は「いつか死に追い込まれる可能性があるとのこと。それを防ぐには自分だけの力で乗り切ろうとしないこと」。
孝太郎はあのことだと確信した。
「ま、まぁ、おみくじなんだからいいじゃない」
横から内容を見た沙羅は引き気味になりながら言った。
「ところがな、ここのおみくじは9割の確立で当てはまるから無視できないんだ」
これを聞いて沙羅は嬉しく思う反面、ぞっとしていた。その理由は、もしかしたら今度こそ死んでしまうのではないかと思ったことだ。
孝太郎は何気なくもう一度おみくじを引いた。
だが、同じく凶。内容は「桜の咲く頃、かつて恐れていた相手が目の前に現れる。それにより、波乱な生活を送ることになるだろう」。
(…ま、まさか…)
孝太郎の頭には大粒の汗が出ていた。沙羅は何事かと思った。だが、あることを悟って安心した。
だが、沙羅の手にはもう一つのおみくじがいつの間にかあった。何気なくそれを開くと、凶と書いてあった。
内容は、「惨劇を目の当たりにし、怒りのあまりに我を忘れて暴走する可能性あり。止めることが出来るのは、自分のことを守ってくれる人のみ」。
孝太郎もそれを見た。再びまさかと思うのだった。
そして、帰ろうとしたが、ふと何気なく振り向いたとき、小学生ぐらいの男の子が5・6人の高校生ぐらいのガラの悪い男たちに囲まれてるのが見えた。どうやら金を催促しているみたいだが、まるで脅しているみたいだった。
孝太郎は沙羅に一言言って男たちの後ろから近づき、落ちていた枝を踏んで音を立て、男たちを振り向かせた。
「何だお前は?」
「その子を離してやれ」
男の一人が振り向き、孝太郎に聞いたが、孝太郎は焦り一つ見せない口調で言った。
「オメーな、俺たちを誰だと思ってるんだぁ!?」
「そこら辺にいるチンピラ。それ以外にどう言えばいいんだ?」
別の男が振り向いて聞いたが、孝太郎は冷静な口調で言い返す。
「なめやがって!」
怒ったチンピラたちは孝太郎に襲い掛かる。だが、孝太郎は右の裏拳だけで二人を吹っ飛ばした。正確には一人は食らったチンピラの巻き添えになった。
「な…!?」
男の子とチンピラたちは驚く。
「こ、こいつ…まさか…空手の達人や日本拳法の達人だけでなく、無敵の小林も倒した青い龍」
「今頃気付いたか」
怯えるチンピラに対して孝太郎はずっと冷静な口調だった。
「へっ、焦ることはねぇ。一斉にかかればいいだろ」
「ならやってみろよ。この腰抜けが」
孝太郎の挑発に頭にきて残りのみんなが襲い掛かる。だが、孝太郎はストレート一発で他の連中も巻き添えにして倒した。
「よく泣かなかったな。大丈夫か?」
孝太郎は男の子に歩み寄り、目線を同じにして聞いた。
「う、うん…あ、お母さん!」
男の子は母親を見つけて駆けていった。母親らしき女性は孝太郎にお礼を言って去っていった。
孝太郎はしばらく見送って沙羅のところへ戻ろうとしたのだが、チンピラの一人が沙羅に襲い掛かった。
「ご愁傷様…」
離れたところから見ていた孝太郎はチンピラに向かって呟いた。
沙羅はチンピラの攻撃を腕で防ぎ、がら空きになっていた腹にパンチを食らわせて動けなくした。
「か弱い女の子に向かって襲い掛かるなんて…」
沙羅は手を払いながら言った。
(何もしてなかったら本当にか弱いんだけどな…)
孝太郎は内心で呟いて沙羅のところへ戻った。チンピラたちは誰かが通報して駆けつけた警察に御用になった。
夜は帰ってきた翔たちと一緒に食事をして、バラバラになった。
数日が経ち、冬休みが明け、学校では体育館で2月の始め頃に行われる修学旅行の話で盛り上がっていた。
自由行動のとき、クラスが違うもの同士でもかまわないとのことなので、全クラスがそこにいる。
旅行先は中国。孝太郎にとってはもう一つの故郷と言えるところだ。
その場で中国語を少しでも知ってもらおうということで、ある人を呼んだ。
「日系の中国人のライヤさんだ。中国語はもちろんだが、日本語も喋れるから聞きたいことは聞いたほうがいい」
教師が説明したところで、生徒たちが色々な質問をした。
「こんなところね…あ、ランロンじゃない。ここの生徒だったのね?」
ライヤが孝太郎を見つけて言う。マイクに向かっていたので館内に聞こえた。生徒たちは驚きと疑問を抱いた。
「京都の合宿以来ですね。それより、京都での撮影は終わったのですか?」
もう片方のマイクで孝太郎が聞く。事情を知らないみんなは唖然としていた。教師もその中に入る。
「順調に終わったわ。映画村にいたとき、江戸時代にタイムスリップした気分だったわ」
「それはそれは…一つ聞きますけど、壊していいもの以外壊さなかったでしょうね?」
「人聞きの悪いことを…そこまでドジじゃないわよ!」
孝太郎の質問にライヤは膨れた。
「どうだか…ライヤさんのやることはいつもどこか抜けてるんですから…香港にいたときは俺の目の前で撮影中に誤って街灯一本を蹴り一発でぶっ壊して、器物破損で警察に捕まりそうになるし、別の撮影では山でチンピラと大乱闘の末に、勢い余って大木を根こそぎ倒してみんなを唖然とさせるし…」
これを聞いて、みんなはクスクスと笑う。ライヤは顔を赤くしていた。
「それより孝太郎、ランロンって何だ?」
笑いを抑えた翔が聞いた。
「中国での俺の愛称だ。ランロンを日本語にすると、青龍になるからな。それより、もうみんな気付いてるんじゃないのか?」
孝太郎の質問にみんなは頭に?を浮かべた。
「みんなの目の前にいるのは、香港で人気ナンバー1の映画女優、ライヤ・チュンさんだってことを…」
みんなははっとなる。
この後、みんなで色々話し合い、自由行動のときのメンバーを決めたのだが、沙羅が真木野に付き纏われなかったのが不思議だった。
おそらく、合宿で孝太郎に負けた時の条件を飲んだのだろう。
と思ったら、真木野は中年の女教師と行動することが決まっていた。真木野は嫌がったが、手錠で繋がっていたため、離れられなかった。
これなら大丈夫だろうとみんなの特に女子生徒たちは思った。
そんな中で、ライヤはあることを言おうとしたが、言う必要はないと思って黙っていた。
そして、修学旅行の当日になり、みんな中国へ向かう飛行機に乗った。
孝太郎は窓から外を見ていた。が、見えるのは、青空と目下に広がる白い雲だけだった。
「何か見えるの?」
「え?」
ふと声をかけられて振り向いた。
「沙羅…」
「日向君と代わってもらったの」
沙羅はさも当然のように言う。沙羅が声をかけるまで、隣には翔が座っていたからだ。
「特に見えないけど、ふと思ったんだ」
言いながらまた窓の外を見た。
「何を?」
「俺の実家として帰る場所は、どこなのかな?って…」
「どういうこと?」
「小学校時代に住んでた家は別の人が住んでるし、中学を卒業するまで過ごした家も人の手に渡った。叔父夫婦の旅館は俺の家じゃない。出身は群馬の草津って言えるけど、実家はどこかを聞かれたら、どう答えればいいのかな?ってな…」
「孝太郎君…」
「あんまり気にしてもしょうがないことだってのはわかってるんだけどな…」
「じゃぁ、これから作ればいいじゃない」
「え?」
「引越しとかで住所が変わったり、故郷を捨てて新しい場所を実家にする人もいる。孝太郎君の場合はまだどちらでもない。だからこれからの場所を実家にするのがいいわ」
「沙羅…」
「私が決めてあげるわ。孝太郎君のこれからの実家は、私の家」
「な!?」
沙羅の返事に孝太郎は驚くしかなかったみたいだった。
「今のアパートは下宿先でしょ?そこを実家にしても意味がないじゃない。それに、兄さんも姉さんも孝太郎君のことを弟だって思ってるんだから」
沙羅は満面の笑顔で言う。
「…ありがとう…」
そう言う孝太郎の表情は嬉しそうに微笑んでいた。
いろんなことを話しているうちに、飛行機は中国の空港に着地した。
そして、バスに乗って香港のホテルに行き、到着した後は、決められた部屋に荷物を置き、大きなバッグを置いて必要なものを小さなバッグに入れるなどしてロビーに集合した。
そして、バスに乗り、中華街で自由行動になった。
最初はみんなバラバラだった。孝太郎は一人でいろんなところを歩いていた。
そして、何人かの中国人とすれ違い、その中の一人が言った。
<今の…まさか、ランロンか!?>
これを聞いて孝太郎はギクッとなった。
<あ!本当だ!ランローン!>
「ヤベ!!」
孝太郎は逃げるようにどこかに駆けていった。
そうしているうちに人の通りがほとんどないところに出る。
「あ、孝太郎君」
「沙羅…」
沙羅は孝太郎を見つけて駆け寄る。
「香港でかなり有名なのね」
「見てたのか…」
孝太郎は一息つき、有名になった理由を話した。
「この香港でかなり有名な飲食店で、中学3年の夏休みに来てたときに数人のレスラーの殴り込みがあったんだ。そいつらを俺一人で撃退したことがあってな。それを見たみんなが大騒ぎして…今じゃぁ香港で俺のことを知らない人はいないと言っても過言じゃなくなった」
「凄い…」
「俺は丁度、調理場で手伝いをしてたときだったから店は助かったんだ。そうでなかったら、その店は乗っ取られてたぜ」
「そうなんだ…もうお昼だし、どこかで食べようよ」
「んじゃぁ、その店に案内してやる」
二人は歩き出し、孝太郎が手伝いをしていた店、小白龍(シャオパイロン)に行った。
店に入り、メニューを見ると、全て中国語だったが、孝太郎が翻訳し、どれが何かを説明して、注文した。
<おや、ランロン君じゃないか。久しぶりだね>
<店長…>
<ライヤさんから、君が修学旅行で来ることを聞いたよ。これはサービスだ。ゆっくりしていきなさい>
店長はそう言って厨房に戻り、10個ほどの肉まんを入れた蒸篭(せいろ)を持って孝太郎のところに戻ってきた。
<2年前は本当にありがとう。そのお礼をしたいとずっと思ってたんだ>
<そんなおおげさな…俺は世話になってたお礼をしただけですから>
<そうか…じゃ、私は戻るよ>
店長は厨房に戻った。
「へぇ、これが本場の味なんだ…」
「ん?あ!何の前触れもなく食うか!?」
沙羅の声に振り向くと、沙羅は肉まんを一つ食べていた。
孝太郎はそれを見て、焦りながら一つ手にとって食べる。
そうしているうちに注文した料理が運ばれてくる。
「何があるのか緊張したけど、私が知ってるものばかりでよかったわ」
「普段食べてるものが中華料理だったことで、びっくりしたような顔してたな」
「孝太郎君も、そうだったの?」
沙羅の質問に孝太郎は頷く。
色々話しながら食べ終わり、会計を済ませると、通常の半額だった。どうやら店長のもう一つのサービスみたいだ。
<来てくれて嬉しかったよ>
去り際に店長が声をかけた。
<大げさですよ>
<明日はどうするのかね?>
<上海へ行くことになってます>
<そうか。上海にも君の知ってる人がいるよね?>
<あの人ですか…本当に中国で俺を知らない人はいないみたいですね>
<そうだね。また来てくれることを願うよ>
そう言って名残惜しそうに言って厨房に戻った。
この後はいろんなところを見て周り、あっという間に夜になってホテルに戻った。
翌日。全員がいることを確認した後、上海へ行く列車に乗った。
そして、列車は上海に着いてバスに乗り、ある道場へ行った…のだが、師匠が拳法の説明をしてる最中に殴り込みがあった。
大柄で、その体格にぴったりなほどの大きな幅広の太刀を持っていた。
<ここの看板をいただきにきた>
<我(われ)がこの道場の師範、龍 虎王(ロン フーワン)だ>
男と虎王は構えた。見学していた生徒たちは硬直していたが、ただ一人だけ動いていた。
男は背中を指で突っつかれ、振り向くと一人の男がいた。
<前ばかり見てないで、後ろも警戒したらどうだ?>
<このガキ!いつの間に!?>
<馬鹿な!我にも気付かせないとは!?>
虎王が驚いている中で、男はバックステップで間を空ける。だが、着地した瞬間、ダッシュで間合いを縮め、太刀を振り回した。
だが、刀身を片手で受け止められ、しかも根元の部分に空手チョップを当ててガラスが割れたかのように柄巻きと刀身の部分が離れた。
<な…!?>
<食らえ!!>
男は驚いたが、いつの間にか、刀身が自分に向けられて振り回され、頭にハリセンで叩くようにやられ、脳震盪を起こして気絶した。
<君は…まさか!?>
虎王は男を倒した見学生をみて驚いた。
<お久しぶりです。虎王師匠>
そう言って挨拶したのは孝太郎だった。生徒たちはただ驚くばかりであった。
<まさか、16歳でクレイジーニンジャを倒した『青い龍』…でも、どうして師匠のことを…>
門下生の一人が言った。
<2年ほど前にシェンロン師匠の紹介で知り合ったんだよ。そのときの彼は中学生でね…>
<ちょっと顔を見せてすぐに姿を消したから、覚えてなくても無理はないと思ってたのですが…>
<君のことは青いバンダナという特徴があったからすぐわかったよ>
孝太郎と虎王が話している中で、翔が聞いた。会話の全ては理解出来なかったみたいだが、シェンロンという部分はわかったみたいだ。
「あれ?孝太郎の師匠って、ウォン パイロンって言うんじゃなかったか?」
「そうさ。けど、パイロン師匠はまたの名をシェンロンって言ったんだ。日本語では神龍。その名のごとく、無敵の格闘家として知られてたからな」
<きっとシェンロンはあの世で鼻高々だろうな。君はシェンロンに負けないぐらい強くなったし、娘はシェンロン直伝のカンフーの腕を生かして人気ナンバー1の映画スターになってるし…>
<だといいのですが…>
<ま、暗い話はここまでにして、日本に戻ったらあの無邪気なチビスケによろしく言っておいてくれ>
<無邪気なチビスケ?>
<微笑みの武道家の英次だよ。君より少し前に我のところで修行しててね>
<へぇ、だから中国語をあんなに…>
この後、生徒たちは片言の中国語で門下生たちと会話をしながら食事をした。
<あとがき>
何の前触れもなく現れた暗黒竜。
そして、修学旅行。
中国では孝太郎はかなり有名人だったことを知って驚いた生徒たち。
そして、上海で看板狙いを撃退して英次のことを知る。
あと2日の間、どうなるのか?
今回はここまでです。
短文ですが、以上です。