第29話

「桜が舞うとき」

サタンドラゴンが孝太郎を食らい尽くさんと口を大きく開けたとき、口の中に何か光るものが見えた。
孝太郎はその光るものめがけてドラゴンバスターを放つと、自然と技名を口走った。
「究極秘奥技!!極光神龍波(きょっこうしんりゅうは)!!!」
ドラゴンバスターがサタンドラゴンの口の中にある光に触れた瞬間、ドラゴンバスターは極限の光を放つ今までにない巨大な龍になり、サタンドラゴンを飲み込みながら暗黒竜に向かっていった。
孝太郎を後ろから支えている沙羅はただ驚くことしか出来なかった。

“暗黒の魔竜が吼えるとき、青き龍王は光を浴び、極限の光を放つ神となって目覚め、全てを無に返す”

「な!?そんな馬鹿な!!うわああああああああ!!!
暗黒竜は回避することも適わず、極光の龍に食われ、ついには塵となって跡形もなくこの世から消え、極光の龍は暗黒竜を食らうと空に向かって飛んでいった。
そして真っ黒な雲に穴を開けると、その部分から風で払われ、わずかしかなかった陽の光が満面に差し込んできた。
『どうやら、もう一つの必要なものはいらなかったみたいだな』
『そうみたいだな。だが、いずれ大きな災厄がやってくるかも知れん。そのときこそ、必要になるだろう』
青龍と守護豹はお互いにしか聞こえないように話していた。
しばらくすると、沙羅は体を離し、孝太郎はしばらく硬直していたが、俯いて膝を地面に付いた。
「大丈夫?」
「ちょっと疲れただけだ。これで…全てが終わった…」
沙羅は孝太郎に触れながら聞き、孝太郎は少し荒い息をしながら答えた。
しばらくして仰向けになった孝太郎の体は沙羅の水流癒に浸り、沙羅は孝太郎の手を優しく握っていた。

「な、何だ!?さっきのとてつもない気配は!!?」
翔は驚きながら立ち上がり、窓の外を見た。

「まさか…あやつ、あの言い伝えの通りに神を目覚めさせたのか…」
春江はお茶を飲みながら呟いた。

「ねぇ…」
「ん?」
沙羅は優しげに孝太郎に聞く。
「どうやって帰ろうか?」
「それか…」
「それか、じゃないでしょ?んもう、大爆発で何もかも吹っ飛ばしちゃうんだから」
「気長に待とうぜ。ヘリか何かが来てくれるだろ」
孝太郎は横になった状態で沙羅の腕の中にいた。
「はぁ…お気楽と言うか、能天気と言うか…」
「別にいいだろ?以前の俺だったらこんなこと言わなかったんだから」
「そうね。今の孝太郎君からは、生きようって気持ちが溢れてる。前は感じられなかったのに…」
「影と一つになる前、沙羅が殺されそうになったとき…正直に言うと、重傷を負ったときに「これで死ねる」って思ってたんだ。あのときの俺には、手に入るものも失うものも何もなかったから…」
「…」
「でも、それは間違いだった。自分から手に入れようとしないから何も手に入らない。そして失うものが何もないなんてのはただの思い込みだったんだ」
「そうよ。生きている限り、自分から手を伸ばせば何かが手に入る。失うものが何もないなんてのは家族も親戚も、そして友人たちもいない人のことを言うんだから」
「そうだな…せっかくこうして生きてるんだ。だから生きていられる限りは生きようぜ」
「うん…あ、そういえば…」
沙羅はずっと微笑んでいたが、ふと思い出した。
「どうした?」
「バレンタインのとき、休み時間どこ行ってたの?」
孝太郎が聞くと、沙羅はジト目で聞き返した。孝太郎は2月14日のバレンタインの日、学校にはいたが、休み時間になるとどこかに姿を消していた。
「男子トイレ…あれを見たら隠れずにいられなくなってな…」
孝太郎は教室に入って自分の席を見たとき、頭に大量の冷や汗が吹き出た。なぜなら、机の上にはチョコの山が出来ていたからである。
しかも他の生徒がそれを見て冷やかし、いてもたってもいられなくなって授業以外は姿を消し、部活もサボった。
「はぁ…まぁいいか…チョコは渡せたし…」
沙羅は孝太郎が学校に行った後、孝太郎の部屋の郵便受けにチョコと手紙を入れておいたのだった。
「去年はズル休みさせてもらったから何とかなったけど、同じ手が通じないと思ったからな」
「へぇ、去年からモテてたんだ…」
そう聞く沙羅はジト目だった。

しばらくして、ヘリコプターが飛んできて少し離れたところで着陸し、二人ほど降りて孝太郎と沙羅に駆け寄ってきた。
「陸上自衛隊です。あなた方を迎えに参りました」
これを聞いて二人は立ち上がる。
そして、ヘリコプターに乗って帰っていった。

真月町に帰った二人を出迎えたのは翔たちであった。
しかも英次たちもいて、その夜は沙羅の家でドンチャン騒ぎをやっていた。
孝太郎が暗黒竜を倒したことは、格闘家たちの間でしか語られることはなかった。
この後、新学期までは平和な日々を送った…はずだったが…。

春休みが終わる前日のある日、孝太郎が一人で出かけていると、仁美に出会った。
「あ、海原君…」
「川井さん…まさか、英次君も来てるのか?」
「うん。英次は沙羅さんと会ってる」
「そっか…いいのかな?こうして会って…」
「保障はどこにもないけど、たぶん大丈夫よ」
「ふ〜ん…それよりどうした?何か相談事か?」
「うん。性格とかは英次と全然違うのにどことなく似てる海原君なら何かいい返事が聞けそうな気がして…」
「あまり期待されても困るけど…ここじゃぁ何だから…」
そう言って孝太郎は仁美をとある橋に連れて行った。
その途中で自販機を見つけ、ジュースを買ったのは余談だ。

一方、英次も沙羅に公園で会っていた。
沙羅が何気なく歩いていたときに偶然出会ったのだ。
この時の英次は何かを考えているみたいだった。
「何考えてるの?」
「う、うん…この前、仁美に聞かれたことが気になってて…」
「仁美さんに?」
「うん。沙羅さんなら何かわかると思って…」
「それで、仁美さんに何を聞かれたの?」
「う、うん…確か、“胸がなくて格闘ばっかりやってる女の子って嫌いなんじゃない?”ってことだったけど…」
これを聞いて沙羅は顔を赤くする。

一方、その頃…。
「そ、そのね…」
仁美は何か言い辛そうに俯き、顔を少し赤くしていた。
「ん?」
孝太郎はジュースを飲みながら聞いていた。が、
「胸がない女の子って、どう思う?」
ブーーッ!!
孝太郎は口に含んでいたジュースを思いっきり吹き出した。
「ゲホ、ゲホ…な、何だよいきなり…」
突然のことで吹き出した挙句にむせたこともあって苦しそうにしながら聞いた。
「うん。英次が私のことを女として見てるかどうかわからなくなるときがあって…」
「まぁ、英次君の性格からしてそうなるかもな…ゲホ」
「うん…海原君は、どう思う?」
「俺か…俺はむしろ、格闘をやってる女性はそれでいいんじゃないかな?と思うんだけど」
ようやく落ち着いた孝太郎は思ったことをそのまま言った。
「え?」
「あんまり大きいと目のやり場に困るからな。だから気にすることはないんじゃない?」
「…でも、沙羅さんの胸って、私より大きいじゃない?」
これを聞いて孝太郎は頭に汗が出る。沙羅の胸はサイズはわからないが、仁美より大きいのは確かだ。
「う…まぁね…けど、一番大事なのはスタイルがどうこう言うんじゃなくて、相手が自分のことをどう思ってるかってことだと思うぜ」
「英次の私に対する気持ち…」
「そうさ。川井さんのことだから、英次君に聞いたんじゃないの?」
「よ、よくわかったわね…」
「そのときの英次君は何て言ってた?」
「…英次は…」

公園でも、同じ会話が交わされていた。
「英次君は何て返事したの?」
「俺は、“胸のことはわからないけど、格闘をやってる仁美は格好いい”って…」
「そう…で、英次君は仁美さんのどこが好きなの?」
「どこって聞かれると…仁美が傍にいてくれると、何だか安心するから…」
「他の女の子の場合はどうなの?」
「安心感は仁美と一緒にいるときしか感じないんだよ。どうしてかなぁ?」

橋の上では…。
「体型のことは気にしてもしょうがないんじゃないかな?英次君は気にしてないみたいだし」
「う、うん…じゃぁ海原君は沙羅さんのどこが好きになったの?清楚な雰囲気を持ってるから?」
「ロングヘアーが似合う清楚な女の子ならどこにでもいる。けど沙羅は一人しかいない。俺は他の誰でもなく、沙羅だから一緒にいたいんだ」
「海原君…」
「きっと、英次君も川井さんだから一緒にいたいって思ってるんじゃないかな?」
「それはいいけど、英次はモテるから…」
「心配はいらないと思うぜ。英次君は英次君で川井さんのことをちゃんと見てると思うから」
「そうね…」
仁美は吹っ切れたみたいだった。しばらくして二人で橋を後にした。

この後、英次たちを探そうとしたが、どこにいるのかわからなくて戸惑っていたが、仁美が携帯で連絡してすぐにわかり、公園に行った。
公園のベンチには、顔を少し赤くしている沙羅と、何かが吹っ切れたように活き活きした笑顔の英次が座っていた。
「あ、孝太郎さーん!仁美ー!」
英次は孝太郎たちの姿を見つけて駆け寄ってきた。そして、孝太郎に抱きつこうとしたが…。
「きゃっ!」
「え?…!」
英次が抱きついた相手は仁美だった。仁美は驚き、英次は何かおかしいと思って上を見ると、お互いに顔を真っ赤にした。
そうやら孝太郎はとっさに仁美と入れ替わったみたいだ。

気を取り直して孝太郎は英次と、沙羅は仁美と話して、しばらくして4人で話した。
「そういえば、孝太郎さんたちって、香港に修学旅行に行ったんだってね?」
「あぁ…上海にも行ったぜ。虎王師匠が英次君によろしくってさ」
「へぇ、虎ちゃん元気してたんだ」
「「ふ、虎ちゃん…」」
沙羅と仁美は目を点にした。

そのあと、英次と仁美は帰って行き、孝太郎も部屋に戻ろうとしたが、沙羅に腕を掴まれて無理矢理家に引っ張り込まれた。
そのまま部屋に強制連行されたが、京子と恭平はいなかったので何も言われなかった。
「ど、どうしたんだ?…おわっ!!…!」
孝太郎は沙羅の強引な行動に驚きながら聞くと、急にベッドに仰向けにされ、そこへ沙羅が覆いかぶさるようにした。
そのときの沙羅の表情はどこか切ないものだった。
「仁美さんから聞いたわ。孝太郎君の気持ち…」
「川井さん…そこまで言わなくてもいいのに…」
「嬉しかった…私だから傍にいたいって…私もね、他の誰でもなく、孝太郎君だから愛したい」
これを聞いて孝太郎は落ち着いた。
「沙羅…」
「ずっと、一緒にいようね」
そう言いながら孝太郎の首の周りに両腕をそっと回し、ゆっくりと顔を近づけて唇を塞いだ。
孝太郎にとってはいつの間にこうなったのかが不思議だった。
しばらくして沙羅は唇を離した。
「気持ちは嬉しいけど、清楚なイメージを崩すのが目的で日本拳法をやってる女の子が彼女ってのは抵抗があるんじゃない?」
「清楚なイメージのことはわからないけど、日本拳法をやってるときの沙羅は活き活きしてていいと思うぜ」
「そう…」
「それより、人殺しの汚名を背負った男が彼氏ってことに抵抗があるんじゃないのか?」
「私は気にしない。表も裏も全部とまでは言えないかもしれないけど、そういった部分も含めて好きになったんだから」
「沙羅…」
この後は再び唇を重ね合わせた。

春休みが終わり、みんなは3年になり、掲示板の前は新しいクラスがどこかを確かめる生徒で殺到していた。
「えーっと、俺はA組…え?…な、なに!?」
孝太郎は自分のクラスを確認し、何気なく他の部分を見たときに驚いた。その理由は…。
「あ、孝太郎君。新しいクラスはどこだった?」
黒山(?)の人だかりから離れたところで沙羅がたずねた。
「A組だった」
「そうか、俺たちも見てくる」
いつの間にか横にいた翔がそう言って留美と一緒に掲示板のところに行こうとしたが…。
「翔たちのクラスも見たぜ」
孝太郎が言うと、翔たちは立ち止まった。
「3人とも、俺と同じA組だ」
これを聞いて翔たちは喜んだ。

そして教室に着き、席を確認すると、教師がこれから決めるということで適当に座ってていいとのこと。
孝太郎が窓際の一番後ろに座ったのを見て、その横に沙羅。孝太郎の前に翔、その隣に留美が座った。
この後は色々と話していたが、孝太郎は手洗いに行き、戻ってくる途中で妙なことを聞いた。
「今、校長室に3年の転校生がいるんだってよ」
「へぇ…」
「さっき覗いてみたけど、女。しかもすっげぇ美人だぜ。髪の毛は鮮やかな赤で、モデル並みの体型。しかも胸がすっげぇでかかったぜ」
「うわぁ、そんな女が彼女だったらなぁ…」
孝太郎はすれ違った生徒が話していることに何気なく耳を傾け、特徴を聞いたときに顔が青くなった。
(ま、まさか…あいつ…しかもあのおみくじ…)
「孝太郎?どうした?」
教室に戻ったとき、様子がおかしいことに気付いて翔が声をかけた。
「い、いや…今、校長室に転校生がいるらしいんだ」
「「へぇ」」
沙羅と留美が同時に言った。
「その転校生が何かあったのか?」
「ありまくりだ。翔、ちょっと耳を貸せ」
「ん?」
翔は疑問に思いながらも孝太郎に耳を貸す。
「その転校生ってのは、おそらく…」
・・・・・・。
孝太郎がささやくと、翔は顔を真っ青にした。
「それ、マジかよ」
「間違いない。校長室を覗き見した生徒が言ってたからな。同い年であの特徴を持ってるのは知ってる範囲ではあいつしかいない」
沙羅と留美は頭に?を浮かべるしか出来なかった。

チャイムが鳴り、担任の城崎が入ってくる。
「えーと、生徒は若干違うが、今年もA組の担任をすることになった城崎だ。っと、転校生がいるんだったな」
孝太郎と翔は真っ青な顔をしてバンダナを外す。
翔は狸寝入り。孝太郎は窓の外を見ていた。
「ほら、入っておいで」
城崎が言うと、出入り口が開き、一人の女子生徒が入ってきた。
その瞬間、生徒の、特に男子生徒が驚きの声を上げる。
髪と目は鮮やかな赤で、腰まであるぐらいのストレートロング。背は170ぐらいあり、すらっとした体型で胸の部分がかなり前に出ていた。
服装は前まで通っていた学校のものと思われる制服だった。
「静かに。では、自己紹介を」
城崎が言うと、みんなは静まった。だが…。


<あとがき>
究極秘奥技が炸裂し、暗黒竜との決戦に終止符を打つ。
そのあとは英次と仁美から妙な相談をされたりしたが、平穏な日常を過ごした。
だが、学校が始まり、転校生の事を聞いたときに孝太郎と翔は顔が青くなる。
しかもその転校生が自分たちのクラスに来て真っ青になった。
その理由は…。
今回はここまでです。
短文ですが、以上です。

戻る