第33話
「親子の対立」
由梨香が実家に連絡してからは少し騒がしい日々になった。
というのは、翔たちはいざというときのための立会人として孝太郎たちはもちろんのことだが、達夫にも頼んだからだ。
達夫は最初は渋っていたが、翔の必死な頼みによって折れた。
そして、それから何日か過ぎ、休日になって翔は実家に帰った。
由梨香や孝太郎はもちろんだが、他にも沙羅と留美も一緒だった。
だが、父親は社長室で会おうと言った。
父親に会うまでの間、翔は父親が何かを企んでるという気持ちで一杯だった。
翔と由梨香は一度家に入り、孝太郎たちは外で待っていた。
その後、全員で翔の父親が社長をしている会社のビルに入る。
孝太郎たちは待合室で待機しており、社長室には翔が一人で入って行った。
「久しぶりだな」
翔の父親、幸助(こうすけ)は窓の外を見ながら言った。側には秘書らしき男性がいた。
「俺に帰って来いと言った理由は何だ?」
「そう焦るな。立ち話もなんだから座ろう」
幸助は翔にそう言って自分も座り、その横に秘書が座った。
「俺はそんなに暇じゃないんだ。さっさと用件を言え」
翔はずっときつめの口調だった。が、幸助は気にしてないみたいだった。
「わかった。用件はな、高校を出たらここで働かないか?どうせまだ何をするとも決まったわけでもないだろう」
「ここで?」
「そうだ。お前は長男である以上は私の跡取りなんだ。どっちにしてもここに来ることは必然だからな。それにお見合いもしてもらわねばならんからな」
「勝手に決めないでくれ。それに跡を継がせたいなら、横にいる秘書にでもすればいいじゃないか」
「血のつながりのない人間に継がせては意味がない。だからこそお前に…」
「ふざけるな」
色々理屈を並べ立てる幸助に対して、翔は少し大きめの声で言った。
「そんなくだらない話を聞くためにここにきたんじゃない」
「くだらないとはなんだ!私はお前のことを思って言ってるんだ。それがわからんのか!?」
幸助は怒り出したが、翔は焦り一つ見せなかった。
「わからないね」
「なに?」
「親父はいつもそうだった。自分にとって都合のいいことばかり考えて、周りのことなんておかまいなし。仕事にかまけて家庭を顧みず、家のことはみんなおふくろにまかせっきりで…今まで父親らしいことを一つもしなかったくせに、何が“お前のことを思って”だ!?」
幸助は表情を変えなかったが、内心では驚いた。翔が自分に怒りをぶつけてきたのは初めてだったからだ。
「そんなんだからおふくろは由梨香をつれて家を出て行ったんだ。明けても暮れても自分と会社のことしか考えずに、家族とまともに口を聞こうとしない。少しでも相手のことを考えてるって言うなら、人の話を聞くぐらいしたらどうだ!?そのための耳だろうが!」
「黙れ!子供のお前に何がわかる!?ここまで会社を大きくするのに、私がどれだけ苦労したかわかっているのか!?」
今度は幸助が怒り出した。が、翔は引かなかった。
「二言目には必ず“子供”や“会社”という言葉が出る。じゃぁ聞くけど、そのためなら何を犠牲にしてもいいってのか!?」
「かなり荒れてるようだな」
社長室はら少し離れたところにある待合室で孝太郎たちと一緒にいる達夫が言った。
「翔は父親とはいつもあんな感じらしいです。翔が転校して下宿を始めたのも、父親の横暴な態度に耐えかねたとか…」
孝太郎は翔が転校してきてしばらくした頃に翔から色々と聞かされて知っていた。
「私もお父さんとは時々喧嘩してるけど、あそこまで激しくならなかったわ」
「うん。兄弟喧嘩でもあそこまで大事にならないわ」
留美と沙羅が話を合わせた。そこへ秘書がやってくる。
「お話中すいません。あなた方の中に、海原様はいますでしょうか?」
「俺ですけど、何か?」
「息子様がお呼びです」
そう言って孝太郎に背を向けて社長室に戻っていった。
「じゃ、ちょっと行って来る」
孝太郎はそう言って立ち上がり、秘書についていった。
社長室のドアが開き、秘書と孝太郎が入ってきた。
「来たか。孝太郎」
「あぁ…けど、かなり荒れてたみたいだな。待合室まで丸聞こえだったぞ」
幸助は孝太郎と翔のやり取りを見ていたが、孝太郎を見て驚いた。
(何だあの青年は…気配が全くない…目で見てないとそこにいることすらわからない。まさか、あの青いバンダナは!?)
孝太郎は幸助を一瞬見て何かを悟った。
「君が息子の親友か…息子に空手を勧めたのは君かね?」
「勧めたというよりは、翔には身を守る術を身につけたほうがいいと言っただけです」
「そうか…君は余計なことをしてくれたね」
「え?」
「空手なんかやらせるから息子はこんなに歪んでしまったじゃないか。その責任を取る気はあるのだろうね?」
幸助は孝太郎を睨みつけながら言った。
「翔の性格は少しも歪んでません。むしろ空手を始めてからは翔の本来の性格が引き出されたのではないでしょうか?」
孝太郎はいたって冷静だった。
「開き直る気かね。格闘は人を傷つけることしかしない。息子は人を傷つけることを何よりも嫌う純粋な子だったんだ。その息子に君は何て事をしてくれたんだ!?」
幸助は怒鳴り散らしたが、孝太郎は焦ることなく聞き返した。
「格闘は人を傷つけることしかしない、か…それを知りながら、柔道をやってる人の台詞じゃないと思いますけど?」
これを聞いて翔と幸助は驚いた。
「な、なに!?親父が柔道を!?」
「なぜそれを!?」
「熊みたいな体格と、内側から感じる気のようなもの。そこから何となくです」
孝太郎の説明に、幸助は勘のよさに驚くばかりであった。
「そ、そうか…とにかく、翔には今すぐ空手をやめてもらう」
「断る。何を理由に言ってるのかはわからないけど、俺は空手をやめる気はない」
「ならばお前との親子の縁を切るまでだ」
「勝手にしろ。俺は元々それを言うために来たんだ。だから親父の会社が潰れようが俺には関係ない。行くぞ孝太郎」
翔はそう言って立ち上がり、孝太郎もつられるように立ち上がった。
(翔はあんなに物事をはっきり言う性格だったのか?)
幸助は翔と孝太郎の姿が消えたドアを見ながら考えていた。
「一緒にいた男、孝太郎とか言ったな…もし、私の知ってる通りなら間違いない」
そう呟いて、秘書に命じた。
「あの男はもしかして、“蒼天に舞う青い龍”の海原孝太郎ではないのか?」
「そうだと思います」
「あの男の経歴を調べてくれ」
「わかりました」
幸助のこの行動が、周りを巻き込むことになるとは誰も思わなかっただろう。
「あんなこと言ってよかったのか?」
「いいさ。親父は俺たちから色んなものをこれでもかというぐらい奪ったからな。今度は奪われたものを取り返してやるのさ」
「そうか…ま、これはお前一人の問題じゃないからな。何かあったら言ってくれ。出来る限り力になるぜ」
「わかった」
孝太郎と翔は閉じられたドアを背にして話していた。
「あら、孝太郎君じゃない。久しぶりね」
孝太郎に一人の女性が声をかけた。その女性は大人びており、優しげな表情をしていた。
「おふくろ…」
それは翔の母親、涼子(りょうこ)だった。幸助と一緒になる前から興信所で働いており、今では副所長になっている。
3人で社長室を離れると同時に、社長室から秘書が急ぎ足で出て行った。
「…」
孝太郎は秘書が背を向けて去っていく秘書をただ見ていた。
「どうした?孝太郎」
「いや…ちょっとな…」
翔が聞いたが、孝太郎はあいまいに答えた。が、
「嫌な予感がするのね?」
涼子が突っ込むように聞いて固まってしまった。
「え?嫌な予感って?」
「孝太郎君のことを調べに行ったのよ。おそらく私が勤めてる興信所へ…」
「そうか、孝太郎の経歴を調べるために…」
翔は苦虫を潰したような表情になったが…
「心配いらないわよ。今調べても、孝太郎君に関することは出鱈目なものしか出ないから」
「どういうことですか?」
「由梨香に翔が孝太郎君を連れてここに来ることを聞いて、孝太郎君の経歴を調べる人が出てきたら、偽者を渡すようにしておいたの。もちろん、私に頼まれたなんて言ってもね」
「さすが、興信所の副所長。でも、そんなこと独断でやったら…」
孝太郎は少し不安になりながら聞いたが、
「独断じゃないわ。ちゃんと所長にも話して、その上でやったことだから」
これを聞いて孝太郎と翔は安心した。
「でも、孝太郎君には謝らなければいけないわね」
「何をですか?」
「息子の親友だし、母親として少しでも知っておこうと思って調べたの」
そう言ってファイルを見せた。そこには「海原孝太郎に関する調査書」と書かれていた。
孝太郎は震えた手で調査書を手に取り、それを開いた。
そこには、孝太郎自身さえも知らなかったことが書かれていた。
海原孝太郎
10月24日生まれ A型 17歳。
父、孝俊と母、奈美子(なみこ)の間に生まれる。
奈美子は中国人と日本人のクオーターの娘。
孝太郎、小学校3年のとき、奈美子が病死。
その後、日永未柚と知り合い、奈美子を亡くした心の傷は少しづつ癒されていったが、未柚が父親の都合で海外へ行くことになる。
しかし、未柚は母親と一緒に乗っていた飛行機が事故を起こして他界。それが原因で恋愛を拒絶。
小学校を卒業と同時に孝俊に連れられて群馬の草津の小学校から真月町の東区の中学に転入。
それから半年ほどした頃から中国拳法を習い始めた。
孝俊に連れられて京都に行き、無敵の小林と言われている小林春江と手合わせするが、あっけなく敗北。
それから数日後に中国に渡り、ウォン・パイロンのもとで拳法の修行を始め、ウォンの娘、ライヤと知り合う。
夏休みが明けて数日後に、日向翔がいじめられているところを目撃していじめっ子連中を撃退。同時に翔とはこの日から知り合い、ついには親友関係になる。
中学を卒業した年の3月28日。真月町の西区にある神社で麻薬中毒になっていた孝俊たちに殺されそうになるが、孝太郎は孝俊たちを殺してしまい、殺人を認めたが、正当防衛で無罪になった。
しかも警察はこの事件を強盗の仕業ということにしたため、真相は誰も知らない。
真月西高校に進学し、日本拳法部の顧問である矢神京子と知り合い、2年のときに翔と再会し、京子の妹である沙羅とも知り合う。
ある日の夜中に日本刀による殺人未遂事件が起こり、その次の日の夜に殺されそうになった沙羅を助ける。
しかし、犯人との決闘で重傷を負って意識不明になるが、沙羅の輸血で一命を取り留める。
その後、沙羅たちとも少しづつ打ち解けていき、ついには沙羅と付き合い始める。
「母さんが…中国人と日本人のクオーターとの間に生まれた…じゃぁ俺の体には、わずかながら中国人の血が流れてるのか…」
孝太郎は放心状態だった。
「まさか、こんなに大事になるなんて思わなかったわ。孝太郎君には、何てお詫びしたらいいか…」
これを聞いて孝太郎は正気を取り戻す。
「そんな、いいです。むしろ俺も知らなかったことを知ることが出来てよかったですから」
「そう言ってくれると助かるわ」
この後は無言で待合室に行った。
「遅かったじゃないか。ん?日向君の横にいる女性は?」
気配を感じ、出入り口を見た達夫が聞いた。
「初めまして。私、日向翔の母親で涼子と言います。息子がいつもお世話になってます」
涼子は丁寧に挨拶した。
「孝太郎君?どうしたの?それに、何持ってるの?」
様子がおかしい孝太郎をふと見た沙羅が聞いた。
「俺の経歴が書かれた調査書だ。涼子さんが俺のことを少しでも知りたいという事で調べたんだ」
「そんな、それって個人プライバシーの侵害じゃない!」
沙羅は涼子につっかかろうとしたが、孝太郎が止めた。
「いいんだ。この書類のおかげで、俺は今日まで知らなかった自分の本当の誕生日を知ることが出来たから」
これを聞いて、翔たちは驚いた。
「そうだったの…でも、格闘に関することはそんなに調べてないから。調べる前から知ってたのは、青い龍の異名ぐらいだから」
「え?それって、涼子さんも何か格闘をやってるのですか?」
留美が気を取り直して聞いた。
「おふくろは太極拳をやってるんだ。デスクワークで肩が凝るから運動に何かないかって理由でな」
「それもあるけど、痴漢撃退もね♪」
翔が説明すると、涼子は笑顔で言う。
だが、その傍らでは重い空気になっていた。孝太郎と沙羅である。
「この調査書に、孝太郎君の過去が…」
沙羅は孝太郎から渡された調査書を見ながら呟いた。
「俺のことを少しでも知りたいというのなら見ればいい。俺がいいって言うんだから、個人プライバシーの侵害にはならないはずだ」
孝太郎は真剣な表情で言い、続きを言った。
「どうするかは沙羅に任せる。見ずにそのまま焼き捨てるか、それとも見るか…」
沙羅はしばらく考えて口を開いた。
「しばらく、預からせてもらってもいい?」
「え?」
「すぐには返事が出来ないの。それに、姉さんたちにも話したほうがいいようにも思えるから」
「わかった。けど、その調査書はどっちにしても処分してくれ」
沙羅は無言で頷いた。
涼子の行動で孝太郎の履歴は誰も見ることは出来なくなったと思われた。だが…。
「なるほど…こんな過去を…利用する価値は十分にあるな」
幸助の手元にはすでに孝太郎に関する調査書があったのだ。
翔たちはバラバラになって分かれた。
「あなたが、あの空手の達人で有名な青島達夫さんとその娘さんですか」
「初めまして。留美です」
涼子が聞くと、留美は丁寧に挨拶した。
「硬くならなくていいわよ。留美ちゃんって呼んでいいかしら?」
「はい」
「…息子のこと、よろしくね」
涼子はずっと優しく微笑んでいた。
これを聞いて翔と留美は驚き、その後で喜び合った。
「ねぇ、孝太郎君」
「ん?」
孝太郎と沙羅は一緒に帰っていた。
「本当に、うちで一緒に住まない?」
「それなんだけど、少し待ってくれるか?」
「すぐに返事しろなんて言わないわ。私は待ってるから」
「それもあるけど、翔たちの問題が解決してからでも遅くないと思うんだ。俺たちのこともそうだけど、翔たちのこともきれいさっぱり片付いてからのほうが、何のわだかまりもなくやっていける気がするし」
「そうね。それに、留美ちゃんたちに悪いから」
「そうだな…けど、簡単には終わらないだろうな」
「どういうこと?」
「社長室に入ったとき、沙羅が持ってるファイルと同じものが、いくつか社長の机に積み重ねて置いてあった。もしかしたら、沙羅が持ってるものと同じものかもしれない」
これを聞いて沙羅は驚いた。
「まさか、孝太郎君の経歴書はすでに社長の手に…」
「そう思ったほうがいいだろうな」
この後は別々に分かれた。だが、孝太郎はアパートに入らずに少し離れたところにある公園に入って立ち止まった。
「出て来いよ。ずっと後をつけてたのはわかってるんだ。それも3人」
孝太郎が大きめの声で言うと、茂みのほうでガサッとかすかに音がした。
これを聞いて孝太郎は指銃弾を気配がする方向に3発発射した。
弾は茂みの近くの地面に当たって小さな爆発を起こし、砂煙が立った。
「ゲホ!ゲホ!」
砂煙の向こうから咳き込む声が聞こえ、少しして3人の男が苦しみながら出てきた。
(どうやら素人みたいだな。気配を消す術は持ってるみたいだけど…)
「な、なぜ…我々の気配が…」
「気配を完全に消してても、俺は空気の流れの違いで人がいるかいないかを感じることが出来るんだ」
「っく…」
「服装からして、興信所の職員だな。俺の身辺調査を依頼した張本人に伝えておけ。俺のことを知りたいのなら直接会いに来いってな」
「くそぉ…話が違う」
職員の一人がそう言って、孝太郎はピクッと反応した。
3人とも苦しみながらその場を去って行った。だが…。
「依頼主の話では、気配を消して隠れていれば見つからずにすむと…」
「だが、あいつはそれを感じた」
「とにかく、体制の立て直しだ」
3人がこんなことを話している中で…
「どうやら、一筋縄で片付きそうにないな…」
物陰に隠れて聞いていた孝太郎は一言呟いてアパートに戻った。
すると、アパートの出入り口には沙羅がいた。
「沙羅…どうした?」
「家に入って窓から外を見たら、孝太郎君の後を3人の男の人がつけてたから気になって…」
「そいつらならさっき返り討ちにしてやったよ」
「無事だったのね。よかった」
沙羅はほっとしたような表情になる。
「だけど、そのうちに沙羅たちにもメスが入りそうだな。あんな感じで」
これを聞いて、沙羅は頭に?を浮かべる。
だが、孝太郎は沙羅に家に帰るように言い、沙羅はわけがわからないと思いながらも言うとおりにした。
すると、沙羅の後を追いかけるように一人の男が現れた。
「男が離れた。このまま女の尾行を続ける」
男は無線機らしいものに小声で言ってから行動しようとしたが…。
「ぐっ!」
「残念だが、尾行はここまでだ」
男の首を後ろから近づいた孝太郎が美希直伝の締め技をかけ、男は気絶した。
「依頼主から緊急で連絡が入った。直ちに調査を中止せよ。今後の連絡は会ってからにしよう」
孝太郎は無線機にそう言って、電源を切った。
その後、男をどこからか持ってきたロープで縛り、沙羅の家に行って事情を説明した。
夕方になり、翔たちが帰ってきて、孝太郎が経緯を話すと、翔の部屋で縛られた男を囲むように翔、孝太郎、沙羅、留美が座った。
やがて、男が目を覚ます。
「な、何だ君たちは!?」
「それはこっちの台詞だ。俺たちの周りをこそこそとかぎ回って…誰に頼まれた?」
男が周りを見ながら言うと、翔が聞き返した。
「…興信所の、所長だ」
男は渋々といった感じで言ったが…
「嘘ね」
留美が突っ込むように言った。
「嘘なんかじゃない。第一、私の言ったことが嘘だと言う証拠でもあるのか!?」
「そんなものはないわ。けどね、私は相手が嘘を言ってることが顔色や口調でわかってしまうの」
男は留美の突っ込みに反論したが、留美は焦り一つ見せることなく説明した。
「というわけだ。観念して正直に言いな。さっきの嘘も捕まったらそう言うように言われてたんだろ。ま、依頼主が誰かは大体見当は付いてるけどな」
翔は余裕の表情で言った。
「そんなことより、早くこの縄を解きたまえ。誘拐罪で訴えるぞ!」
「どうぞご自由に。その代わり、俺達はあんた達をストーカーとして訴えるぜ」
孝太郎が不適な表情で言ったが…
「ストーカーなんかしてない。それに私には、身辺調査をやってたという正当な理由があるんだ」
男はどうあっても、自分の行動を正当化しようとしているみたいだ。だが…
「でも、それは興信所の職員が使える口実でしょ?」
「そうだ。それが?」
沙羅が聞くと、男は何を言ってるんだ?と思いながら聞いた。
「無職のあなたには、そんな言い訳はできないわよ」
留美が凄みを利かせて言った。
「なに?」
「あんたがいびきをかいて寝てる間に、所長と副所長がここに来てな。あんたを含めた俺たちの身辺調査をやった連中はクビだそうだ」
孝太郎が言うと、男は驚いた。
「他の連中も、今頃はストーカーとして鉄格子の中だぜ」
翔が言うと、男はついに観念して全てを話した。
依頼主は、翔の父親の幸助で、興信所に圧力をかけて孝太郎たちの身辺調査をさせたとのこと。
ある程度のことはわかったものの、格闘に関する部分が抜けていたためにそれを知ろうとして動いたとのことだった。
翔は男の縄を解き、男は俯きながらトボトボとみんなの前から姿を消した。
<あとがき>
翔と幸助との対立。
そして、母親の涼子の調査で、孝太郎自身も知らなかったことが明らかになった。
孝太郎は色々と感づき、尾行していた職員を追い返す。
沙羅までも調査の対象になっていたが、孝太郎が捕まえてみんなで問い詰める。
次回、ついに幸助自身が動き出し、それに対して孝太郎たちは…。
今回はここまでです。
短文ですが、以上です。