第35話

「二人の想いは現実と夢の間を超えて」

沙羅はある町の中を小さな子供たちとその頃の姿で一緒に駆け抜けていた。
そのときはすごく楽しそうにしていた。のだが…
「あ、あれ?みんなどこに行ったの?」
気が付いたら周りには誰もいなくなっており、昼間だったのが急に夜になった。
「確か…あの時も…気が付いたら一人になってて…でも今は…あれ?」
沙羅は帰り道を辿ろうとしたのだが、なぜか道が思い出せなかった。
「そんな…どうして…」
「やっぱり変わってないんだね」
沙羅は考えたことを口にすると、不適な声が聞こえた。
周りを見ると、小学生ぐらいの少年が一人立っていた。
「君は今でも、一人になるのが怖いんだよ。だからこの夢を今でも時々見るんだ」
「そして、あのとき君を一人にしたのは、全て仕組まれてたことだったんだよ」
少年の横にもう一人の少年が現れた。
「…見覚えのある顔…あの時一緒だった…」
「覚えてたのね…あの時の出来事と一緒に…」
二人目の少年の横に今度は少年たちと同じぐらいの少女が現れた。
「仕組まれてたって、どういうことなの?」
沙羅は驚きながら聞いた。
「お爺ちゃんから聞いた昔話で知ったんだよ。君の中にいる豹のこと」
これを聞いて沙羅の中にいる守護豹が反応した。
『まさか、私を魔豹に戻すために…』
「ようやく気が付いたみたいだね。そうさ…みんな豹を悪魔にすることを子供心ながらに考えてたんだ」
『なんのためにそんなことを…』
「数年先に起こる災厄をもっと手際よくするためさ。だけど、誤算が生じた」
いつの間にか、沙羅の周りは少年少女が合わせて8人になっており、輪になって沙羅を囲んでいた。
そして、その8人の少年少女は沙羅が一人に怯えるきっかけになったときに一緒だったことを沙羅は思い出した。
「中学のとき、一人の男に出会い、その人を一途に想い続けたことで心の闇は薄くなった」
「そして今では、その男と彼氏彼女になって、しかももう少しで完全な悪魔になるところだったのに破壊された」
「その屈辱を晴らすためならどんなことだってやるわ」
子供たちは睨みに近い表情で沙羅を見ながら時計回りに説明していく。
沙羅は跪いてガクガクと震えだしてしまった。
そのうちに沙羅の中から真っ白な守護豹が出てきた。
『怯えてはいけない。これはお前の過去の世界だ』
「わかってても…」
「どうしても怯えてしまう自分がいるということか…」
沙羅が小さく震える中で、聞きなれた声がした。
「この声は…」
沙羅が呟き、顔を上げると、少し離れたところにいたのは…。
「孝太郎君…どうやってここに…」
「何となくわかってた。過去のしがらみから完全に解放されてないことがな」
「馬鹿な、ここには過去に関わった人しか来れないはず。なのにどうやって…」
8人の少年少女が、驚きながら孝太郎に視線を向けた。
「俺も過去に関わったから…かな?」
孝太郎は軽々と飛び越して沙羅の側に行った。
「馬鹿ね。私たちの結界に入った以上は目が覚めるまで出られないのに…」
「なるほど。なら目が覚めるまで待てばいいってことか」
少女が凄みを利かせて言ったが、孝太郎は平然としていた。
そして、沙羅に両手で優しく触れると、沙羅の体は光り、高校生ぐらいの姿になった。
「ここは沙羅が以前までいたところ。つまり過去の世界…だとすれば、ここはもう沙羅のいるべき場所じゃない」
孝太郎はそう言って沙羅の腰に腕を回して抱えると、子供たちを飛び越えてそのまま走った。
『待てー!』
子供たちが追いかけてくる中、孝太郎は走りながら沙羅を守護豹の背に乗せ、先に行くように言ってから立ち止まって振り向いた。
「これ以上先には行かせないぞ!」
そう言いながら子供たちに掌をむけると、一枚の薄い大きなガラス板のような壁を作り出した。
「ぐっ!何だこれ!?」
子供たちは壁にぶつかり、どんなに強く叩いても壁は壊れなかった。
「沙羅にはどんなことがあっても前を向いて生きてほしいから。そのために俺はここに来たんだ!」
孝太郎は言いながら壁に向けて掌抵波を放つと、壁はガラスのようにバラバラになり、子供たちもその中に消えていった。
しばらくして、暗闇はそのままだったが、暖かく心地よいそよ風に桜の花びらが舞っていた。
「終わったの?」
声に振り向くと、いつの間にか沙羅が横に立っていた。
「ある意味終わったといってもいいかな。けど、沙羅にとってはこれからが本当の“始まり”だ」
「…そうね…私にとっては、これから何があっても前を向いていかなければならないのね…」
沙羅がそう言うと、遠くに小さな光が見えた。
孝太郎は何も言わずに沙羅の手を引いて光に向かって歩き出した。
沙羅も何も言わずに逆らうことなく歩き続けた。
しばらく歩き、光に触れた瞬間、桜の花びらが舞っているのは変わりなかったが、暗闇が一気に真っ白な空間に変わった。
「これは…」
「沙羅にとって、これからいるべき場所だ」
沙羅の呟きに孝太郎が応えた。
「私が、これからいるべき場所…」
「そうさ。それと、恭平さんから言われたことだけど…」
沙羅は「一緒に住まないか?」と言われたことだとすぐにわかった。
「昨日と言ったらいいのか、それとも今日って言えばいいのかわからないけど、放課後になるまで待ってくれるか?返事はそのときに必ずするから」
孝太郎が説明すると、沙羅の意識は少しづつ遠くなっていった。
そして、目が覚めたのはいいが、孝太郎にどう説明すればいいのかわからずに戸惑っていた。

「なるほど、そんなことが…」
一通り話を聞いて孝太郎は納得した。
「うん…おかしな夢よね?」
沙羅はぎこちない笑顔で言ったが…
「変と言えば変かもな…まさか同じ夢を見るなんてさ」
これを聞いて思いっきり驚いた。
「俺も不安だったんだ。夢の中でああ言ったものの、沙羅に会ったときにどう言えばいいかってな。まぁ同じ夢を見てなくても、今日の放課後に言うつもりだったからいいけどさ」
いつの間にか、食事を終えた頃だったので、孝太郎は先に戻ろうとしたが、沙羅が腕を掴んで止めた。
「今じゃぁ駄目なの?」
「すぐに返事をしてほしい気持ちはわかるさ。けど、時間帯と場所的に都合が悪すぎる」
それだけを言って孝太郎は戻り、沙羅はしばらく残っていた。

時間はあっという間に過ぎ、放課後になったが、それまでの間、沙羅はそわそわしていた。
この日は孝太郎と沙羅は掃除当番だったため、教室の掃除をしていた。
本当は4人で1組なのだが、他の二人はありもしないことを口実にして逃げていった。

掃除が終わり、二人は近くにある公園に寄った。
いつもなら小学生ぐらいの子供たちがわいわい遊んでるのだが、不思議なことに、公園には誰もいなかった。
夕日が二人を赤く照らす中で、孝太郎がおもむろに口を開いた。
「昼間言ってた、恭平さんに言われたことだけど…」
孝太郎はずっと、沙羅に背を向けていたが、ゆっくりと振り向いた。
沙羅は孝太郎の仕草を一瞬も眼を逸らさずに見ていた。
「翔の父親のことが片付いたら、荷物を沙羅の家に移そうかと思うんだ」
「それって…」
「そのまんまの意味だ」
孝太郎が頭を掻きながら言うのを見て、沙羅はクスッと笑った。
「…それともう一つ。言い辛くてなかなか言えなかったんだけど、実は俺、明々後日から2週間ほど学校休むから」
「ど、どうして!?」
孝太郎が言いにくそうに言うと、沙羅は思いっきり驚いた。
「ライヤさんに、また映画に出てくれって頼まれて、中国へ行くことになったんだ。本当はもっと早くに言うべきだったんだけど、こうなることがわかってたから余計に言えなかったんだ」
「そうなの…先生たちは知ってるの?」
沙羅は沈んだ表情で俯きながら聞いた。
「まぁな…さっきの沙羅と同じように驚いてた…喜んだ教師もいたけどね」
「…」
「でも、矢神先生はこのことをまだ知らない。そのとき職員室にいなかったから…」
「姉さんも…もしかして、日向君たちも?」
「あぁ…翔や青島さんもこのことは知らない。身近にいる関係だからこそ、余計に言えなかったんだ。けど、翔たちには今夜言うことを決めてる」
「そう…」
この後、二人の間には重い空気が流れていた。

しばらく何も言わずにいると、一人の男が声をかけた。
「二人ともどうしたんだ?喧嘩でもしたのかい?」
「恭平さん…」
「兄さん…」
「せっかく恋人同士になったのに…何かあったのかい?」
「まぁ、何もなかったと言えば嘘になりますけど…」
微笑んだ表情の恭平に孝太郎は言い辛そうに説明した。
・・・・・・。
「なるほど…」
「俺が向こうにいる間、沙羅のことを誰に頼めばいいか…」
「私も、本当は側にいたいけど…いつかこうなることを覚悟してたけど、まさかこんなに早く来るなんて…」
「どうしてもっと柔軟な考えができないかなぁ?」
恭平は呆れながら言うと、二人は顔を上げた。
「二人で一緒に行けばいいじゃないか。中間試験があるわけでもないんだろ?」
笑顔で言う恭平に二人は驚くことしかできなかった。
「京子には僕から話しておくよ。だから何の心配もしなくていいよ」
しばらくの間、二人は声が出なかった。
「孝太郎君…」
恭平が真剣な表情で孝太郎の肩に触れながら言うと、孝太郎ははっとなった。
「…沙羅を頼むぞ。彼氏として、そして男としてもな」
「…恭平さん…わかりました。沙羅のことは、全力で守ります」
孝太郎が真剣な表情で言うと、沙羅は微笑んだ。

この後は沙羅は恭平と一緒に、孝太郎は一人で公園を後にした。

夜になり、孝太郎は翔と留美に映画の件を話した。
当然ながら二人は驚いていた。
もっと早く話してほしかったことで少しもめたが、何とか納まってこの日は終わった。

翌日。学校は朝から少し騒がしかった。孝太郎の映画出演のことかと思えば、新しい教師が来ることだった。
その教師の名前を知って、孝太郎と京子は顔をしかめた。
「よぉ、どうした?顔をしかめて。何か考え事か?」
孝太郎が何かを考えていると、翔が声をかけた。
「あぁ…新しく教師が来るってことで話題になってるだろ?その教師がな…」
「あのクソ丹河に代わって、新しく体育の担当になる教師か?」
翔が聞くと、孝太郎が頷き、新しく来る教師のことを話した。
・・・・・・。
「なるほど…そんなことが…」
一通り話を聞いて翔は納得した。
「このことは他の生徒にも伝えたほうがいいな」
「そうだな。となれば、広報部の連中に伝えたほうが早く広まる。利用しない手はない」
二人で早速広報部に教師のことを伝えに行った。
そして、あっという間にその教師のことを書いた新聞が出来上がり、掲示板に掲載された。

朝のHRが終わり、孝太郎たちのクラスは1限目から体育の授業だった。
真月西高校は制服はないが、体育のときはジャージと決まっている。
グランドで準備体操を終えて整列している生徒の前に、丹河と同じような体格をして竹刀を持った男が現れた。
「今日から体育の指導をすることになった、石井 徹(いしい てつ)だ。ついでに空手部の顧問もすることになった。まずはお前らの自己紹介と、抱負を言ってもらおうか」
生徒は一人づつ自己紹介をしていった。そんな中で孝太郎は自己紹介のときに格闘に関することを何も言わなかった。
「その名前、どこかで聞いたな…確か、丹河がここから追放されるきっかけを作った生徒も…」
石井の口から丹河の名前が出たことにみんなは驚いた。
石井と丹河は高校のときに知り合っており、そのときから関係があるらしい。
「早速だが、グランドを10週走ってもらう。遅い奴は制裁を加えるからな」
全員の自己紹介が終わり、石井は項目を言い出した。
みんなはスタートラインに立ち、石井が笛を鳴らすと、みんなは走り出した。
その後を石井が竹刀を持って走り出し、遅く走っている生徒を竹刀で叩きだした。
「おらぁ!もっと早く走れ!」
「ぐあっ!」
石井は竹刀の一撃を食らって倒れた生徒にもう一発食らわせようとしたが、振り回したときに竹刀が手になかった。
石井は不思議に思っていたが、前を見たときに一人の生徒が竹刀を持って走っているのが見えた。
「待て!竹刀を返せ!」
石井は怒鳴りながら追いかけたが、生徒はそのまま走り続けた。
「くそぉ…」
何も言わずに走り続ける生徒を石井は追いかけたが、その差は縮まることがなかった。どれだけ早く走っても追いつくことなく、それどことか、間がどんどん空いた。
「こうなったら…」
石井は歩き、生徒が後ろから走って来ると、体ごと振り向いて竹刀を奪い返そうとした。
「かかったな」
そう言って不敵な笑みを浮かべて襲い掛かったが、
「そっちもな」
生徒も不敵な笑みを浮かべ、走りながら居合いの構えをした。
そして、目の前まで迫ったときに石井が生徒を掴もうとしたが、空振りに終わり、生徒は走り去っていった。
石井は何があったのかがわからずにいたが、急に腹と背中に痛みを感じて倒れた。
「ぐっ…な、何があった!?」
他の生徒も驚いて立ち止まってしまった。だが…
「ほら、立ち止まってないで、さっさと完走しようぜ」
竹刀を持った生徒が言うと、みんなは気を取り直して走り、10週を走った。
そのあと、竹刀で殴られて倒れた生徒は保健委員の生徒に介護された。
少しして石井が立ち上がり、生徒たちのほうへ苦痛をこらえながら歩いていった。
「海原!よくもやってくれたな!」
石井は怒鳴ったが、竹刀を奪った孝太郎は平然としていた。
「何か俺に言いたいことでも?」
そう言いながら石井の前に立った。
「ふざけるな!教師に対してこんなことをしてただで済むと思ってないだろうな!?」
「そう言うあんたこそ、生徒を竹刀で殴ってただで済むと思ってないだろうな?」
怒鳴る石井に対して、孝太郎は焦り一つ見せなかった。
「どうやら根っこから腐ってるみたいだな。今ここで叩きなおしてやる!」
「とっくに腐れ外道になってるあんたにやってもらうことなんて何もない!」
ついに石井はキレて孝太郎に素手で攻撃を繰り出したが、孝太郎には一発も当たらなかった。
「くそぉ、ガキのお前に…」
「そんな偏見を持ってるから、山下英次君に勝てなかったんだ」
「っく…そうか…お前、誰かに似てると思ったが、あの山下に…」
「あんたのこと、英次君からみんな聞いたぜ。英次君がいた学校でも体罰を何度も行い、しかもセクハラまがいなことをやってついに川井先生にこれ以上ないってぐらいにボコボコにされたってな」
しかも、広報部にこのことをそのまま新聞に書かれて、掲示板に掲載されている。
「なるほど、俺のことを広報部に教えたのはお前か」
「まぁね。それにあんたは、教師として勉強してるときに、学校教育法第11条に、「体罰を加えることは出来ない」って法律の辞書に書いてあることを教わらなかったのか?」
石井はかつての丹河と同じように苦虫が潰れたような表情になって俯いた。
「くっ…まぁいいい。俺と丹河の念願だった最強の称号…それをお前から奪ってやる!」
石井は急に顔を上げて孝太郎に掴みかかったが、孝太郎は合気道のように受け流した。
「っく…」
「残念だが、最強の称号がほしいなら、他を当たるんだな」
そう言って石井に背を向けたが、石井は近くにあった竹刀を手にとって立ち上がり、孝太郎に襲い掛かった。
だが、もう少しで孝太郎の背中を突くというところで、竹刀はいつの間にか孝太郎が持っており、驚く石井に孝太郎は竹刀でアッパーを当てるように切り上げて石井を浮かし、そこへアッパーカットを当て、その回転力を利用した払い切りを当てて吹っ飛ばした。
「ぐはっ!」
「昇竜三散華の剣術型だ。無敵の小林の孫娘、小林夏目さんに比べたら全然手ごたえがないな」
しばらくして授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、みんなは着替えに戻ったが、石井は放置されていた。

この後は何事も起こることなく時間が過ぎ、放課後になってみんなは帰ったり部活に行ったりした。
この日は中国拳法部は休みで、孝太郎は京子の頼みで日本拳法部にいた。
ちなみに空手部では、翔が顧問の石井をあっけなく倒した。

部活の時間が終わり、体育館では日本拳法部の部員たちが片付けなどをやっていたが、孝太郎も手伝った。
孝太郎は見学だけで何もしてなかったが、この場にいる以上は何かしたほうがいいだろうと思ったのだろう。
そして、部員たちは帰り、残ったのは孝太郎と沙羅と京子になった。
「私が海原君をここに呼んだ理由、わかる?」
京子は真剣な表情で孝太郎に聞いた。
「明後日からのことですね?」
孝太郎が聞くと、京子は何も言わずに頷いた。
「兄さんから聞いたわ。本当なら沙羅はいつものように学校に通わせるけど、その間、誰が沙羅を守るのかを考えたら…」
「ライヤさんの話を引き受けたことに後悔はしてません。ただ、沙羅のことが気がかりで…」
二人はしばらく何も言わなかったが、京子は微笑んで孝太郎の両肩に触れて言った。
「沙羅を向こうでも頼むわよ?男として、そして彼氏としてもね。それに…将来の弟としてもね」
「…わかりました…お姉さん…」
孝太郎も微笑み返して言うと、京子と沙羅は驚いた。
が、そのすぐ後で、沙羅は後ろから、京子は前から孝太郎に挟み撃ちするように抱きついた。
「うぐっ!」
『♪〜』
しばらくは孝太郎は壁に挟まれたような状態だった。
というよりは、動きたくても動けず、何を言っても二人が離さなかったのだった。

2日後。孝太郎と沙羅は中国に向かう飛行機に乗っていた。
「今度はどんな映画なの?」
「俺も詳しくは聞いてないけど、日本の時代劇を参考にしたとか…」
「へぇ…どんな時代劇なのかな?」
「さぁ…時代劇っていろいろあるからなぁ…暴れん坊将軍、必殺仕事人、水戸黄門、大岡越前、遠山の金さん、江戸を斬る、桃太郎侍、三匹が斬る、八丁堀の七人、銭形平次、素浪人 月影兵庫…」
「も、もういいわよ」
沙羅は頭に汗を掻きながら孝太郎の説明を止めた。
「しかも最後の締めは俺にやってもらうとかって言ってたっけ」
「へぇ…」

二人が色々話している間に飛行機は中国の空港に着陸した。
そして、入国手続きを済ませて空港の外に出ると、ジュリアを抱いたライヤが待っていた。
「ランロン!こっちよ!」
この声に孝太郎と沙羅は振り向いてライヤを見つけ、駆け寄った。
「沙羅さんも一緒に来たのね?」
「俺がいない間、沙羅のことを誰に任せたらいいのかってことで悩みましたけどね」
「姉さんたちと話し合って出た結論が、私も一緒に行くってことになったのです」
「それがいいわよ。近すぎず遠くない距離でいるのが一番いいんだから。立ち話もなんだから行きましょ」
3人は車に乗り、運転はライヤの夫が勤めた。
だが、孝太郎はジュリアを見たときから妙な違和感を感じていた。

撮影所に着き、車から降りて全体を見渡したときに孝太郎と沙羅は驚いた。
なぜなら、建物の造りや服装の違いを覗けば、日本で言う映画村がそのままあるような感じだったからである。
「参考どころか、服装と言語を除けば時代劇そのものですね」
「日本のホテルに泊まった時、何気なくつけたテレビでやってたのを見てね。これなら行けると思ったの。最後の締めくくりはランロンがぴったりのような気がしてね」
「ふ〜ん…」
「これ、台本ね。私はジュリアの子守をしないといけないから今回は出れないわ」
「もう立派に母親になってますね」
「ふふ♪じゃ、また後でね」
そう言ってライヤは近くにある託児所へ沙羅と一緒に行った。
「ジュリア…間違いない…あの子は…」
孝太郎はライヤの姿が見えなくなったときに呟いた。


<あとがき>
沙羅の夢の中での出来事。
そこへ沙羅を救うためにやってきた孝太郎。
そして、孝太郎も同じ夢を見ていたことに驚いた沙羅。
その後、二人は中国へ。
撮影所に着き、あることを呟いた孝太郎。
それは…。
今回はここまでです。
短文ですが、以上です。

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