第43話

「体罰への制裁」

しばらくの間、道場全体の時間が止まったかのようだった。
孝太郎は右肩に一撃を食らったがビクともしてない。
それどころか、丹河が握っている竹刀が孝太郎に思いっきり当てた部分から割れていたのだった。
「先輩…どうして平気でいられるんだ…?それに、なぜ竹刀が…」
「竹刀が激突する瞬間に気を張ったんだ。それもあんな一瞬で集められる量とは思えないぐらいな」
中国拳法部の後輩が呟き、横にいた翔が説明した。
「何だこれは?」
孝太郎が振り向きながら聞き、そのときの表情に丹河はゾッとしたが、それを隠すかのように孝太郎の顔面にストレートを放ったが、当然ながら孝太郎はそれを受け止め、丹河に蹴りを当てて吹っ飛ばした。
「くっ…」
丹河は苦渋の表情で立ち上がり、折れた竹刀を捨てて近くに落ちていた竹刀を拾って孝太郎に槍投げの要領で当てようとしたが、その直前に孝太郎がいつの間にか間合いに入って額に軽いストレートを当てて動きを止め、バックステップで間を空けた。
「この野郎、教師にこんなことをしてただで済むと思ってないだろうな!?」
「それ以前にあんたは教師じゃないだろ?それも教員免許は初めから持ってなかったんじゃなく、罪を犯して剥奪されたんだってな?」
丹河が孝太郎を睨みながら聞いたが、そこへ翔が突っ込むように聞き、みんなは驚いた。
「日向!なぜそれを知ってる!?」
「おふくろが興信所の副所長をやってるんだ。調べようと思えばいくらでも出てくるぜ」
「職権乱用だってことわかってるのか!?」
「その言葉、そっくりそのまま返してやるぜ」
今度は孝太郎が突っ込んだ。孝太郎はいつの間にか竹刀を片手に持っていた。
「教師としての立場を利用して生徒に体罰を行ったり、保健の先生にセクハラまがいなことをやったり…体罰とセクハラ、両方とも立派な犯罪だぜ?」
「黙れーーー!!!」
丹河は怒り狂い、竹刀を振り回しながら孝太郎に襲い掛かったが、孝太郎には一発も当たらなかった。
だが、いつの間にか丹河の目の前に竹刀の切っ先が突き出されており、丹河は硬直した。
「怒りに任せて振り回してもこのざまだ。そんな腕で俺に勝てると思ってるのか?」
「くっ」
丹河は竹刀を下ろして引き下がったが、表情からしてまだやる気だとみんなは薄々ながらも感づいていた。
このままではいつまで経っても決着がつかないと思ったのか、城崎が思いついたことを口にした。
「海原、一度剣道で勝負したらどうだ?それもどちらかが降参するまでな」
これを聞いてみんなは驚く。
「いいだろう。剣道ならこいつに勝てる」
丹河は不適に笑いながら言った。
「…わかりました。いかに自分が未熟かってことを思い知らせてやるいい機会です」
孝太郎は表情を少しも変えずに言い、竹刀を握る手に少し力を入れた。
「ふっ。お前の完全無敗も今日で終わりだ」
「連敗記録更新の間違いじゃないのか?それに俺の完全無敗記録は、去年の合宿で止まったんだ」
「そんなくだらん嘘で俺の意気込みをなくそうとしてるのだろうが、そうはいかないぜ」
「嘘じゃないさ。俺は去年の合宿のとき、翔に負けたんだ」
これを聞いて丹河は驚いた。
「あ、あの時の…だけど、あの時お前は…」
「それ以上言うな、翔。お婆ちゃんとの勝負で腹に食らった一撃が響いていたとはいえ、負けは負けさ」
翔が去年のことを思い出しながら言うと、孝太郎が止めた。
「俺は、お互いに本気でぶつかって、お前がいつか俺を打ち負かす日がやってくることを心密かに待っていたんだ…それが去年のあの日だったんだ」
「孝太郎…」
「そうか。なら俺にもお前を打ち負かすチャンスがあるってことだな」
丹河はニヤリと笑う。
「かつて体調不良で弱ってた俺に勝てなかったあんたが、体に何の異常もない今の俺に勝てると思ってるのか?」
「へっ。あの時は油断しただけだ。だが今回はそうはいかん」
これを聞いて孝太郎は呆れるばかりであった。
「話はここまでにして、両者位置に立って」
城崎がいつまで立ってもきりがないと思い、無理矢理突っ込むように言った。
孝太郎と丹河は位置に立ち、竹刀を構えた。
「そう言えば聞き忘れてたが、この勝負が終わったらどうするつもりだ?」
城崎が聞くと、丹河は不敵な笑みを浮かべた。
「そうだったな、言い忘れてたぜ。俺が勝ったときは、矢神先生とデートでもさせてもらおうか」
これを聞いて京子はぞっとしたが、気を取り直して言った。
「わかりました」
これを聞いて一番驚いたのは沙羅だった。
「ね、姉さん!」
「私なら大丈夫よ。海原君、あなたが勝ったときの条件はどうするの?」
京子の表情は真剣だった。
「そうだな…俺が勝ったら、あんたが今まで犯した罪を全部償ってもらおうか。そして二度と俺たちの前に姿を見せないでもらおう」
孝太郎は無表情で言ったが、丹河は睨むどころか、不敵な笑みはそのままだった。
「ふん。今度こそお前の負けるときだ」
「そろそろいいだろう。両者、構えて」
城崎が言うと、孝太郎と丹河は竹刀を両手で握った。
「始め!」
この瞬間、丹河はダッシュで孝太郎の顔面に向けて竹刀を真横に振り回したが、孝太郎は顔を後ろに逸らして回避しただけだった。
丹河はこうなるのがわかってたかのように振り回した竹刀をもう一度振り回して当てようとしたが、孝太郎は竹刀を左手だけで持った状態で攻撃を塞いだ。
「左だけで防いでるのにこれか?」
「うるさい!!」
丹河は怒り、思いっきり押そうとしたが、その瞬間に孝太郎が空蝉で消えたことで勢い余ってこけた。
「キツい条件を出してきた割には話にならないな」
孝太郎は少し離れたところで立っていた。
丹河は立ち上がり、突きの構えでダッシュしたが、いつの間にか丹河の目の前に孝太郎の竹刀の切っ先があった。
「うっ」
「これでも降参する気はないだろ?」
そう言って竹刀を引っ込めた。
「当然だ。お前を倒すまではな」
そう言って丹河は竹刀を振り回すが、全て孝太郎にしかも左手に持った竹刀だけで弾かれた。
「俺だって、あんたがくたばるまでやめる気はない。その腐るところまで腐った精根を叩きなおしてやる。そして…」
この後に孝太郎が言った言葉は、みんなを驚かせるのに十分なものだった。
「姉さんには、指一本触れさせはしない!」
そう言いながら竹刀を右手に持ち替えて居合いの構えになる。その表情は今まで見たことがないぐらい真剣だった。
「あの表情は、沙羅ちゃんを会長から守ったときと同じ…」
留美が呟くと、近くにいた沙羅と京子ははっとなる。
それもつかの間、丹河は何気なく周りを見ると、自分の真後ろの離れた距離に京子がいることに気付いた。
つまり、かなり距離を離した孝太郎と京子の間に丹河がいる状態なのである。
丹河は不敵な笑みを浮かべて孝太郎に背を向けたと思うと、京子に向かってダッシュした。
「矢神先生は貰ったぞ!」
みんなは焦ったが、京子は日本拳法の構えて迎撃する体制だった。
これを見ても丹河はダッシュをやめず、両手を広げてダイブした。
京子が丹河を撃退しようとして一撃を放とうとしたが、その直前の目の前の光景に驚いて硬直した。
なんと、京子と丹河の間に孝太郎が居合いの状態でかがんで立っていたのだ。
これには丹河も驚き、その瞬間に孝太郎の一撃を食らって吹っ飛んだ。
「ぐあ!」
丹河はかなり離れたところで背中から畳の床に激突。その少し後で痛みを堪えながら立ち上がった。
「こ、この野郎…」
「勝負はまだ終わってないぜ?それなのにどういうつもりだ?」
孝太郎はそう言いながらゆっくり歩いていく。
「たとえお前に勝てなくても、矢神先生に触れることが出来ればと思ってな」
丹河もそう言いながら竹刀を構える。
「それを卑怯者って言うんだ。まともなやり方で勝てないからこんなことを思いついたんだろうけどさ、あんたの不敵な笑みですぐにわかったぜ」
「ふん。試合ってのはな、勝てばそれでいいんだ!」
丹河はそう言って孝太郎にダッシュで襲い掛かる。
「そうか…」
孝太郎は一言呟き、再び居合いの構えになると、幻影斬で対抗した。
丹河は一瞬焦ったが、気を取り直して孝太郎に向けて竹刀を振り回した。
だが、残像どころか全てが幻を思わせるかのように、残像を出している本体にも竹刀は当たらず、孝太郎は丹河をすり抜けた。
「なに!?」
驚く丹河をよそに、孝太郎は少し離れたところで動きを止め、残像を全て自分に納めるように消した。
「ただの幻だったのか。紛らわしいことを…う」
幻影斬を解除し、背を向けて立ったままの孝太郎に丹河は襲い掛かろうとしたが、その瞬間、体の5箇所に強烈な痛みが走った。
「ぐはっ!」
丹河は激痛に耐え切れずにその場に倒れ、それを見ていた翔と春江以外のみんなは何があったのかわからずにいた。
「やるな、孝太郎」
「確かに。じゃが、龍の動きを理解したお主も成長したようじゃの」
「あの、何があったのですか?私にはただ残像がすり抜けたようにしか見えなかったのですが…」
翔と春江が話していると、一人の女子空手部員が聞いてきた。
「あれは孝太郎の必殺技の一つで幻影斬って言うんだ。あいつはそれを使い、相手の体をすり抜ける瞬間に両足、両腕、額の5箇所に攻撃を当てたんだ」
翔が説明すると、周りのみんなは感心した。孝太郎の技もそうだが、それを理解していた翔にもだ。
それをよそに、丹河が苦しそうに立ち上がった。
「こ、この野郎…」
「試合は勝てばそれでいいんだろ?」
「くっ…」
「それが人の痛みだ。あんたの体罰を食らった生徒は、今のあんたと同じ思いをしながらずっと我慢してたんだ」
「主将…あんなことがあったからこそ、人の痛みに敏感なんだ…」
中国拳法部員の一人が呟くと、翔が反応した。
「もしかして、孝太郎の過去を知ってるのか?」
「主将が自分から話しました。過去に自分の父親を殺したことがあると…そして最後に聞きました。“人殺しの汚名を背負った俺に中国拳法部員として、そして人としてついてくる気はあるか?”と…」
「で、どう返事したんだ?」
「正直、信じられなかったです。当時、もうじき高校生になる人が自分の父親を殺すなんて…でも、深刻な表情で自分のことを語るから嘘じゃないと思いました。僕だけじゃありません。中国拳法部員はみんな主将の過去を知ってるのです」
これを聞いて翔や他の空手部員や日本拳法部員たちは驚いた。
「しばらくみんなで話し合って私たちは決めました。「先輩が主将として導いてくれる限り、どこまでもついていこう」と…」
今年入った中国拳法部の女子部員が強い意志を秘めた表情で言った。
「なかなかやるわね」
「そうね。もし海原君が人を傷つけることを何とも思わない人だったら、今頃中国拳法部は彼一人になってるわね」
沙羅と京子は孝太郎の後姿を見ながら話していた。
「この野郎…今までずっと本気を出してないだろ!?」
「当然だ。あんたみたいな腐れ外道を相手に本気になる必要なんてないからな。さすがに風邪で弱ってたときは本気になるしかなかったけどな」
丹河と孝太郎の口喧嘩をみんなはただ黙って見ていた。
「大人をナメやがって…」
「悔しいなら俺に一度でも勝ってみろよ。それも卑怯な手は一切使わずに正々堂々としたやり方でな」
「言われるまでもない!」
いつの間にか気がついた石井が立ち上がり、孝太郎に襲い掛かろうとしたが、孝太郎は空蝉で回避した。
「石井、手を出すな。こいつとは1対1で決着をつける」
丹河がらしくないことを言ってみんなは驚き、孝太郎はピクッと反応した。
「俺は本当の意味で本気になる。だから海原、お前も本気でかかって来い!」
「…いいだろう。あんたが本気なら俺も本気を出してやろう。人として、中国拳法部の主将としてはもちろん…蒼天に舞う青い龍としてもな」
そう言って孝太郎は竹刀を右手に持ち、全身から炎のように揺らめく青いオーラを放った。丹河より小柄なはずなのに、なぜか孝太郎の存在感は山のごとく巨大になった。
「フン。見せ掛けだけのはったりが通用すると思うのか?」
「なら試してみるか?」
石井がしまりのない表情で言い、孝太郎は顔だけ振り向いて聞いた。
「お前みたいなガキは大人しく引っ込んでればそれで…ぐはっ!!!
石井は孝太郎に掴みかかろうとしたが、触れる直前に孝太郎が軽く繰り出した左の裏拳で思いっきり吹っ飛び、壁に大きな穴を空けてめり込んだ。
「もうしばらく寝てろ。邪魔だ」
この言葉を聞く前か聞いた後かはわからないが、石井は体を少しも動かすことなく気絶した。
「とんだ邪魔が入ったけど、これでいいだろう。さて…っと」
孝太郎が丹河に顔の向きを戻し、どうするかを聞こうとしたが、その直前に丹河が攻撃していた。
「もう試合は始まってるんだ。よそ見してると負けるぜ」
「そうだな。ガキだと思ってナメると痛い目にあうことをこれから教えてやるぜ」
そう言って孝太郎は普通に竹刀を振り回した。
だが、そのスピードは素人にも見えるほどだったので丹河は「何だこれは?」と思いながらも竹刀を振り回して孝太郎の攻撃を弾こうとした。
だが、当てて弾いたはずの竹刀はすり抜け、振り回してがら空きになったところへ孝太郎の一撃を食らった。
「ぐっ」
「幻影斬にはこんな使い方もあるんだぜ」
「くっそぉ…がはっ!」
丹河は痛みを堪えながら構えようとしたが、孝太郎が後ろから首の根元に一撃を当てて気絶させた。
倒れた丹河はもちろん、壁にめり込んでいる石井も動くことがなかったために城崎は孝太郎の勝ちということにした。
みんなで石井と丹河をどこかに運び、その後はみんなで部屋で色々話していたが、孝太郎だけその場にいなかった。
沙羅はそれに気付いて一人で孝太郎を探した。

孝太郎は一人で道場にいた。
特に何をするわけでもなく、道場の真ん中で俯いた状態で立っていた。
「…(あの二人はたぶん…ん?)…沙羅か。どうした?」
こんなことを考えてるときに孝太郎は後ろに沙羅がいることを気配で感じて声をかけた。
「やっぱりわかっちゃったか。それより、一人で何してるの?」
「ちょっとした考え事さ。こういうときは周りに誰もいないほうがいいからな」
「考え事って…さっきまでのこと?」
「そうさ。よくわかったな?」
孝太郎はずっと沙羅に背を向けたままだった。
「まぁ何となくだけどね」
「…あの二人はたぶん、今回のことでも懲りずにいつかまた俺に牙をむいてくる。そのとき、いつもみたいに撃退するだけでいいのかと思うと…口で何を言っても理解しようとしない分、体にわからせてやるしかないから」
そう言いながら座り込んだ。
沙羅も孝太郎の横に座る。
「ねぇ、今回のこと、後悔してるの?」
「後悔はしてない。ただ、あれでよかったのか?って思えてきて…もっと他にあったんじゃないかって思えてくるんだ」
「仕方ないよ。いきなりのことだったんだから」
「仕方ない…か…考えれば手はいくらでもあったのに、この状態じゃぁさすがに頭が回らなくてな…」
「この状態?…?」
孝太郎の意味ありげな口調に沙羅は気になって様子を伺うと、孝太郎はうつむき加減のままで少し荒い息をしていた。
「荒い息…どうしたの?…!」
何気なく肩に触れたとき、孝太郎の体は凄く熱かった。
「酷い熱…まさか、あの雨で…」
「それもあるかもしれない。それ以上に、無茶な気の扱いで体に負担がかかり過ぎて、車で言うオーバーヒートを起こしただけだ。しばらくすれば元に戻るから心配するな」
孝太郎はそう言って沙羅を安心させようとしたが、沙羅は不安になる一方だった。
沙羅は孝太郎の今の症状が熱中症に似てることもあって、このままでは命に関わるかもしれないと思った。
(どうすれば…すぐにでも氷を持って来ればいいかもしれない。でも、探している間にこの状況を誰かが見つけて騒ぎになるのは避けたいところ…近くに冷たい水があったらいいのに…水?…!)
いろいろ考えた末に、思いついたのが…。
「ん? これは…」
孝太郎は背中から冷たい水が触れているように感じ、ふと見てみると、沙羅が後ろから包み込むように抱きしめていた。
水の冷たさは背中から広がっていき、ついには全身が優しく包まれていった。
「水流癒、久しぶりに使うわね」
「あの時以来か…冷たくて心地いい…」
沙羅も水に浸っていた。しかし、二人とも窒息することなく、普通に呼吸していた。
沙羅に後ろから抱かれた状態のまま、孝太郎はいつの間にか穏やかな寝顔で寝てしまった。
「おやすみなさい…あなた…」
自分の腕の中で静かに眠る孝太郎の髪を優しく撫でる姿は、彼女や妻というより母親のようだった。
道場の出入り口では、二人を優しく見守る京子の姿があった。
「二人とも…幸せにね」

この後は何事も起こることなく普通に時間は過ぎ、孝太郎はオーバーヒートの状態から元に戻り、みんなで夕飯を食べた後は少し休憩してた後に軽く練習をしてこの日は終わり、翌日で合宿は終わってみんな帰った。

数日後、沙羅は留美とどこかに出かけ、翔も用事でどこかに行った。
そのため、孝太郎は一人であちこち歩いていると、ジュリアを抱いたライヤに声をかけられた。
「あら、ランロンじゃない」
「ライヤさん…何してるんですか?」
「ちょっと散歩よ。どこかでお茶でもしない?」
「まぁ、いいですけど」
そんなこんなで、孝太郎とライヤは近くの公園のベンチで自販機で買ったジュースを飲みながら話すことになった。
「ここは静かだし、風が心地いいわ。ランロンは日本と中国のどっちがいい?」
「俺は、わずかながら中国人の血を引いてても日本人ですから日本ですね。あ、そういえば…」
「どうしたの?」
「中国での俺の呼び名ですけど、青龍って中国語でチンロンなのにどうしてランロンなのですか?」
「あぁ、それね。生理的な問題かな?それに青より藍のほうがいいと思ったの。だから私はランロンって呼んでるの。いつの間にか、他の人たちもランロンって呼ぶようになっちゃったけどね」
これを聞いて孝太郎は苦笑した。
「今後もランロンでいいよね?」
「ライヤさんにお任せします。俺は何も言いません」
いろいろ会話している二人の、特に孝太郎を見つけて声をかけたものがいた。
「お、青い龍やないか。横におるのは誰や?」
関西弁で孝太郎には見なくても誠司だとすぐにわかった。
「あら、誰なの?」
「この前またチンピラに囲まれてたチンピラですよ」
ライヤが聞き、孝太郎が面倒臭そうに返事すると、ライヤは吹き出しそうになり、ジュリアは笑っていた。
「チンピラは余計やと何度言えばわかるんや!」
「さぁね。それより、俺に何か用でもあったか?」
「用は特にあらへん。で、横におるのは誰なんや?」
「映画スターのライヤさんだ」
これを聞いて誠司は驚く。
「な、あの人気ナンバー1の映画スター、ライヤ・チュンかいな!?」
『え!?』
誠司が驚きながら出す声は周りにも響いていた。そのため、周りにいた人たちは驚いて立ち止まった。
「声が大きいぞ。子供がいるんだから静かにしてやれ」
「そいつはすまんかったな」
この後、この場にい辛くなって3人でこの場を離れた。
歩きながら話しているうちに、誠司が美樹と夫婦になってもうじき子供が生まれることを聞いた。
孝太郎はこれを聞いて驚き、それと同時に結婚生活を想像して苦笑してしまった。

しばらくして誠司と別れ、ライヤが今度作る映画の話を持ちかけてきた。
その映画に、孝太郎も出てほしいと頼んだのだった。
「今度は前の映画と違って出番はほとんどないわ。9月か10月ぐらいになったら大阪で撮ろうと思ってるの」
「大阪ですか…でも、どうしてそんな時期に?」
「その時期が丁度いいと思ってのことよ」
孝太郎は他にも何かあると思っていたが、聞かないほうがいいだろうと思って何も言わなかった。
「そうそう、11月になったら学園祭やるんじゃない?」
「確かに11月の初めぐらいに学園祭やりますけど、それが何か?」
「よかったら私も行きたいなぁと思ってね」
「ふ〜ん…俺はクラスの出し物の都合で案内はできないと思います。何かはまだ決まってませんけど」
こんなことを話したとき、孝太郎の携帯が鳴った。
画面を見ると、京子の名前が出ていた。どうやら沙羅がいろいろ登録していたみたいだ。
かつて持っていたこともあって扱い方は知っていた。
「もしもし、海原ですけど」
「よかった。出てくれないと思ってたの。もし近くにいるなら家に戻ってきてくれないかな?日向君たちと話し合いたいことがあるの」
「わかりました」
孝太郎が返事すると、京子は電話を切った。
「何だろ?翔たちも入れて話したいことって…」
孝太郎は気になりながらも家に戻ることにした。
その際にライヤが京子に言わなければいけないことがあるからとついてきたのは余談だ。


<あとがき>
竹刀の一撃を食らっても無傷だった孝太郎。
翔が明かした丹河の過去の一部。
そして、剣道での真剣勝負。
孝太郎はついに蒼天に舞う青い龍としての本気を出す。
その後のオーバーヒートを水流癒で癒した沙羅。
合宿が終わり、ライヤに映画の出演を頼まれた後、誠司と再会し、結婚したことを知る。
その後で京子に呼ばれた理由は?
ライヤが京子に話したいこととは?
今回はここまでです。
短文ですが、以上です。

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