第44話

「時期早すぎ…」

孝太郎はジュリアを抱いているライヤと一緒に家に向かった。
すると家の出入り口で京子たちが孝太郎を待ってるみたいだった。
「あ、おかえり。孝太郎君」
真っ先に沙羅が出迎える。が…。
「あれ?ライヤさんも一緒だったの?」
留美が孝太郎の後ろにいるライヤを見て聞いた。
「散歩中に偶然会ってな。先生に用があるらしくてついてきたんだ」
「私に?何かしら?」
「実は、9月か10月ぐらいになったら、ランロンにまた映画に出てほしいのです。そのため、また学校を休ませることになるのです」
「へぇ…羨ましいわね。人気ナンバー1の映画スターと一緒に映画に出ることができて」
京子は関心したかのように言うが…。
「そうでもないです。今度は前とは違って出番はほとんどないみたいですから。別に俺じゃなくてもいいんじゃない?って思うぐらいですから」
「私も最初はそう思ったんだけどね、知ってる人なら誘いやすいから。それにランロンには一度映画に出てもらってるから丁度いいと思ってね」
これを聞いて孝太郎は苦笑する。
「そういえば、翔たちも入れて話があるってことですけど…?」
「うん。かなり先のことなんだけど、学園祭のクラスでの出し物をと思ったの。本当は担任の城崎先生が言うことなんだけど、その城崎先生は学校で私たちを待ってるわ」
そんなこんなで、みんなで学校へ行くことになった。
ちなみにライヤは用があるからと言ってどこかへ行った。

学校に着き、城崎の案内で冷房が効いた部屋へ行くと、孝太郎のクラスの生徒が全員椅子に座っていた。
孝太郎たちはそれを見て自分たちも空いている椅子に座る。
そして、学園祭での出し物を考えることになった。
「何をやるかを話す前に、一部の生徒が部活の出し物で離れるんじゃないのか?」
五十嵐が聞いてみんなははっとなる。
「それ以前に考える時期が早すぎるぜ。今は8月の夏休み。学園祭は11月じゃないか」
「確かにな。けど孝太郎、お前9月か10月になったら映画出演でその間学校にいないだろ?その間に学園祭の話が出たら困るだろ?」
孝太郎が抗議めいたことを言うと、翔が理由を言い、みんなは驚いた。
「へぇ、お前また映画に出るのか?」
「さっきまでライヤさんと会ってたんだ。けど、今度は出番はほとんどないって言ってた」
五十嵐が聞いたが、孝太郎は出番がほとんどないことで気になっていた。ほとんどないなら他を当たってもいいはずだからだ。
それに9月か10月というのも気になっていた。
孝太郎にはライヤが何を考えているのかわからなかった。
そんな孝太郎をよそにいつの間にか出し物は喫茶店に決まっていた。
そして、メニューを何にするかを話し合っているところだった。
みんないろいろ言ったが、決まったのはその一部。
軽食でサンドイッチ。普通の食事でカレーライスなど。
あとは材料費などを話し合っていき、ある程度話はついた。

ふと時計を見ると、12時ごろということもあり、みんなで城崎がよく食べに行く中華料理店へ行った。

店に着き、みんな注文を済ませて待つだけになったが、店内の一部が騒がしくなった。
「おらぁ!人が汗水流して必死に作った料理に文句つけるってのか!?」
「じゃぁこのチャーハンは何だ!?一度でも味見したことあるのか!?」
口論している二人に視線が集まるが、二人は全然気にしてないみたいだ。
「何だ?」
「チャーハンの味が違うとかで料理長と客がもめてるみたいだな」
翔が気になって聞くと、五十嵐が事情を説明した。
「どうやら客は相当なグルメみたいだな。チャーハンの味一つでここまで言うこともないだろうに」
城崎が呆れ、京子たちのところへ行ったが、その中に孝太郎の姿がなかった。
「あれ?海原は?」
「え?そういえば、どこへ行ったの?」
城崎が聞き、沙羅が周りを見たが、孝太郎の姿はどこにもなかった。
孝太郎はどこに行ったかと言うと…。
「まぁ落ち着いて」
今にも殴りかからんとばかりの雰囲気の二人の間に孝太郎が割って入った。
「ったく、チャーハンの味一つで細かいことを気にすることないんじゃないの?」
「これが気にせずにいられるか!私はここの店長が本場の中国で中華料理の修業を5年もやっていたと聞いたから楽しみにしてやって来たんだ。それなのに何だこれは!?」
「文句があるなら即刻ここから出て行ってもらおうか!それと、名誉毀損の損害賠償も払ってもらうぞ!」
客(以下:グルメな客)と店長がまた口論を始めたのをよそに、孝太郎は一言断って近くのテーブルにおいてあったチャーハンを一口食べた。
「ふん。こんな小僧に何がわかるってんだ?」
「小僧だと思って甘く見ると痛い目を見るぞ。第3者の意見が重要になるときもあるんだ」
店長は一口食べて何かを考えているような孝太郎を罵り、グルメな客は孝太郎の肩を持った。
「これは…素材のうまみは十分に出てるけど、材料の使いすぎで味がごちゃごちゃだ」
これを聞いて店長はキレかけたが、あることを思いついて不敵な笑みになった。
「そこまで言ったからには、君にチャーハンを作ってもらおうか。駄目だったときには、君も名誉毀損で訴えるからな」
「未成年の学生を相手に大人気ないぞ!」
店長は孝太郎に挑戦状を叩きつけたが、それをグルメな客が止めた。が…。
「わかりました。調理場をお借りします」
とだけ言って調理場へ姿を消した。
「大丈夫なの?負けたら罪と罰金よ?」
「あいつは勝ち目のない勝負はしない。それどころか、確実に勝つ自信があったんじゃないかな?」
沙羅は不安になったが、翔が説明して不安は少し和らいだみたいだ。

数分後、孝太郎が作ったと思われるチャーハンが10人分運ばれてきた。
しかし、運ばれてきたチャーハンを見て最初に驚いたのはグルメな客だった。
「こ、これは…」
他のみんなも同じだった。
「な、な…」
驚きと同時に呆れて声も出ない人もいた。
なぜなら、孝太郎が作ったチャーハンは米の飯と炒り卵だけだったのである。
「ふざけてるのか君は!?」
店長が言いながら孝太郎の胸倉をつかんだ。が…。
「料理の文句は一口食べてからにしてもらいましょうか」
孝太郎は物怖じせずに言い、しばらく静まり返っていたが、グルメな客が少し考えてから一口食べてみた。
「!…こ、これは!」
グルメな客は驚いてこれ以上声が出ないみたいだった。
「ば、馬鹿な!」
店長も一口食べて驚き、他の客や翔たちも一口食べて驚き、何も言えないみたいだった。
「米と卵以外何も入れてないのに、この味は…」
「両方のうまみが残らず引き出されて…私のチャーハンを超えている!どうやってこんなことを!?」
「ごく普通に米の飯と卵を炒めて醤油を少しかけただけです。他には何の細工もしてません」
二人の驚きをよそに孝太郎が説明したが、誰もが信じられないみたいだった。
その場を見ていた調理師の一人が証明したが、それでも誰も信じられないみたいだった。
ただ、そのときの手際が素人とは思えないぐらいよかったとか…。
「で、駄目だった場合は孝太郎を名誉毀損で訴えて罰金も取るとのことでしたが、どうするのですか?」
「…私の負けだ。名誉毀損と罰金は取り消そう」
翔が聞き、店長は俯きながら言った。
これを聞いて孝太郎は何も言わずにその場を去ろうとしたが、店長に肩を捕まれて止められた。
「待ってくれ!」
「まだ何か?」
孝太郎は顔だけ振り向いて聞いた。
「これほどの腕を持ってるなら、この店で働く気はないか?」
「急に言われても…すぐには無理です」
「彼は高校3年なんだ。だから働くとなると、来年の卒業式以降になるんだ」
店長が誘い、孝太郎が意味ありげな断り方をすると、城崎が説明した。
「なら仕方ないか。ここで働いてもらいながら、このチャーハンの作り方を教えてほしいと思っていたのだが…」
「そういうことなら、学校が終わってから教えることもできますけど?」
これを聞いて店長は即答でOKし、孝太郎はこの店でアルバイトをすることが決まった。
あまりに急な話で、周囲はもちろん、本人も頭がうまく回らなかったみたいだ。
学園祭の喫茶店で出すメニューが一つ増えたのは予断だ。

この後は解散し、孝太郎はいろいろ考えながら一人で歩いていた。
(中華料理店でのバイトか…それもいいかもしれないけど…戻るのもいいかもしれない…)
こんなことを考えているうちにライヤと会っていた公園に着き、空いてるベンチに座った。
「よぉ。一人でどうしたんだ?」
考え事をしていた孝太郎に声をかけたのは翔だった。
「進路のことを考えてたんだ。中華料理店でずっと働くのもいいかもしれないけど、もう一つ考えてることがあってな」
「もう一つ?」
「生まれ故郷で叔父の温泉旅館の手伝いさ。群馬の草津には小学校を出てから一度しか戻ってないからな」
「いいと思うぜ。生まれ故郷にはお前のことを知ってる人がいっぱいいるんじゃないのか?」
「いるとは思うけど、あまり期待できないな。俺、存在感あまりなかったから」
空を見上げながら話す孝太郎はどこか遠くを見ている感じだった。
「お前が決めた道だ。思うようにすればいいさ。俺も、高校出たらこの真月町を離れることになるから」
「え?」
これを聞いて孝太郎は振り向く。今度は翔が空を見上げた。
「実は、留美の父親の達夫さんから、道場で空手の指導員にならないかって話が来ててな。留美と話し合って後は卒業するだけなんだ」
「ってことは、卒業したら青森へ行くのか?」
「そんなところだ。お互い離れ離れになるけど、会おうと思えばいつでも会えるから心配要らないだろ」
「そうだな」
この後は二人で軽く笑いあった。

この後、翔はどこかへ行き、孝太郎は残った。
(そういえば、沙羅にもこのことを話さないといけないんだな)
「賛成するか反対するかはわからないけど、話さないと何も始まらないな…ん?」
ベンチから立ち上がって歩き出そうとしたとき、何かを感じた。
「何を話すの?」
振り向くとそこにいたのは沙羅だった。
孝太郎はちょうどいいと思い、翔と話していたことを話した。

「そう…群馬の草津へ…」
「まだ確定してない。中華料理店でずっと働くのもいいかもって思ってるから。そういえば、沙羅はどうするか決まったのか?」
「私はまだ何も決めてないわ。本当にどうしようか…」
沙羅は言いながら俯いたが…。
「…一緒に来るか?」
これを聞いて顔を上げる。
「叔父と話してからになるけどな。どうするかはその後で考えればいいだろ」
孝太郎はそう言って叔父に携帯から電話し、進路のことで考えていたことを話した。
すると、叔父はOKし、沙羅のことを話すと、それも即答でOKしたのだった。
「なんか、呆気なく決まってしまったな…」
電話を切った後、孝太郎は拍子抜けしていた。
「でもいいじゃない。これでずっと一緒にいられるんだから」
沙羅はそう言いながら孝太郎の肩に手を乗せる。
「そうだな」
そう言って孝太郎は微笑んだ。

この後、二人で家に帰り、進路のことを話すと、恭平と京子は少し寂しそうな顔をしたが、二人が決めたことなら仕方ないと思ったのか、反対意見が出なかった。

数日が過ぎて夏休みが明け、始業式が終わってごく普通の学校生活が始まるものと思っていたが、孝太郎がライヤの映画にまた出ることが知れ渡って大騒ぎになった。

それかまた数日が過ぎ、孝太郎が映画撮影のために学校を休んで大阪へ一人で向かった。
本当は沙羅も一緒に行きたかったみたいだが、ライヤが今回は孝太郎一人で来てほしいと言ったために学校に行くしかなかったのだ。

そして、大阪に着いた孝太郎はライヤと合流して一緒に撮影場所(?)へ向かった。
着いた場所は岸和田。なぜか町全体がにぎわっていた。
「あれ?撮影道具とか何もないみたいですけど?」
目的地に着いたものの、撮影道具がどこにも設置されてないことが気になって聞いた。
「映画撮影はランロンをここへ呼ぶための口実だったの。本当はランロンの体力がどれぐらいあるかを知りたかったの」
これを聞いて孝太郎は呆れてしまった。
「わざわざここまで来て体力測定ですか?」
「それもあるけど、今日この日じゃなきゃできないこともあったしね」
「そういえば、町全体がにぎわってますね。待てよ…ここは岸和田…あ!だんじり祭りか!?」
「大当たり〜♪」
ライヤは喜び、孝太郎は呆れたままでいたが、少ししてにぎわいが増し、大勢の祭りの格好をした男たちと大きなだんじりが勢いよく走ってきた。
孝太郎とライヤは横にどいて見送ったが、その後で…。
「さあ、追いかけるわよ!」
笑顔でそう言って孝太郎の腕を引っ張った。
思わずこけそうになったが、何とか踏ん張って走り出した。


<あとがき>
孝太郎にまた映画に出てほしいと京子に頼んだライヤ。
その後、あまりに早すぎる学園祭の打ち合わせ。
その際に孝太郎がまた映画に出ることが知れ渡る。
昼、中華料理店でのいざこざの解決と同時に孝太郎のバイトが決まる。
それだけでなく、進路までもが決まってしまった。
9月になり、ライヤに会うと映画の話は誘うための口実だった。
そんなこんなでだんじり祭りが始まる。
が、それがとんでもない大騒ぎになることを誰も予想してなかった。
今回はここまでです。
短文ですが、以上です。

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