第45話
「お祭り騒ぎの大乱闘」
孝太郎とライヤは走っていっただんじりの後を大勢の人たちと一緒に走って追いかけた。
だんじりは曲がり角をスピードを落とさずに曲がり、当然みんなそれを追ったが、だんじりが曲がった直後、何かに激突する音が響いて一瞬みんな驚いたが、立ち止まることなく追いかける。
見てみると、電柱に勢いよく激突して止まったみたいだった。
幸い、電柱は壊れることなくすんだ。
「迫力ある…さすが大阪」
ライヤは驚くばかりでこれ以上言葉が出ないみたいだった。
「毎年のことですよ。相変わらず派手にやってくれるなぁ」
二人が会話してる間にだんじりはまた走り出した。
当然、みんなもそれを追いかける。
その頃、学校では…。
全校生徒が視聴覚室の大型テレビでだんじり祭りを見ていた。
校長が大のだんじり祭り好きということもあって授業はなくなったのだ。
授業が潰れて喜ぶ生徒がいれば、校長の趣味に呆れる教師もいた。
イザベラは興味津々になって見ていたが、グライドの姿がどこにもなかった。
そしてなぜか…。
「大阪はわいの地元やからな。わからんことあったら遠慮なく聞きや」
そう、この場に誠司がいるのだ。
「あれって、関西の牙?」
「海原先輩いわく、チンピラによく絡まれるチンピラ…」
ぼそぼそと話し声がするものの、テレビから聞こえる威勢のいい声で消されたみたいだ。
「あれ?」
「どうしたの?」
一言呟いて首をかしげた留美に沙羅が聞いた。
「今、一瞬だけど見知った顔があったような…」
これを聞いて沙羅は何か引っかかるものを感じた。
(そういえば、大阪って…)
こんなことを考えてるときだった。
「な、なんやとー!?」
誠司が急に大きな声を出してみんな驚いた。
「どうした?」
誠司の横にいた翔が聞いた。
「あの最強ばーちゃんやないか!!」
誠司が驚く中で別の生徒が呟いた。
「無敵の小林も大阪にいるのか」
「留美ちゃんの言ってた見知った顔ってあのお婆ちゃんだったんじゃない?」
「違うと思う。誰だったかな…う〜思い出せない」
沙羅が聞いたが、留美は返事した後に頭を抱えた。だが…。
「まぁ、孝太郎君やライヤさんじゃないと思うけどね。あの二人は今は映画撮影でだんじり祭りに出る時間もないから」
これを聞いてはっとなる。
「思い出した!ライヤさんよ!」
「え!?」
「やっぱりそうだったか」
留美の隣に座っていた翔が言った。誠司の横に翔、その横に留美、その横に沙羅が座っている。
「何か変だと思ってたんだ。この時期に大阪で映画撮影するって聞いたときからずっとな」
これを聞いて沙羅と留美が翔を見る。
「ライヤさんのことだ。おそらく祭りの見物と同時に、孝太郎の体力がどれぐらいあるのか見ようとして、映画撮影を口実に大阪に呼んだんだろうな」
「つまり、海原君は引っ掛けられたってこと?」
「そうなるな。でもまぁあいつにとっても好都合だろうね。以前からだんじり祭りを大阪で見てみたいって言ってたから」
留美は納得したが、沙羅はむっとなっていた。
どうやら孝太郎を取られたことへの嫉妬のようだ。
孝太郎が自分一筋だとわかってても嫉妬するときはするのだろう…。
(こりゃぁ帰ったときに地獄を見るだろうな…)
翔は苦笑しながらこんなことを考えていた。
「おっと、どうやら何か騒いでいる模様。見に行ってみます」
撮影現場にいたリポーターが説明して走り出し、カメラも後を追った。
追いかけた先では、一組のだんじりの行き先を塞ぐように暴走族っぽい格好をした数十人の男たちが立っていた。
しかも男たちの前には数台の大型バイクがバリケードのように並べて止めてある。
「そのだんじり、俺たちがもらったぜ」
リーダーと思われる男がバイクの前に出て言った。
だんじりを引いていた人たちは驚くと同時に怖くなったのか、少し引き下がり、周りで見ていた人たちも同じように少し引き下がった。
「もらってどうするつもりなの?」
周りの人たちより一歩前にライヤが出て聞いた。
「決まってるだろ。こいつで街中をぶっ壊しながら走り回ってやるのさ」
リーダーは高笑いしながら言う。だが…。
「お前らの本当の目的は、だんじりで破壊しまくることじゃなく、そのときに出る保険金じゃないのか?」
いつの間にかライヤの横にいた男が言った。
「よくわかったな。それ以前にお前誰だ…ってその顔は…」
リーダーがあることに気付いて表情が変わった。
「クールドラゴンだと思ってるんだろうけど、大間違いだぜ。あいつは額に青いバンダナを巻いてるけど、俺は違うだろ?」
「まさか君は…物真似師?」
ライヤがグライドを見ながら聞くと、グライドは不適に笑った。
「兄さん!?」
学校のテレビにグライドが映ったのを見てイザベラが驚いた。
「そういえば朝から見てないと思ったら、あいつも向こうにいたのか…」
翔が呟き、しばらくすると、バリケードのように並べてあったバイクが吹き払われるようにどかされた。
誰もが実際に目の前で起きた出来事を信じられないという表情で見ていた。
バイクがどかされた方向と反対のほうにカメラが回ると、その先には彗星拳・改を出した状態の孝太郎がいた。
「ついに現れたか。蒼天に舞う青い龍!」
リーダーが孝太郎を見つけ、歩み寄りながら言ったが…。
「期待通り現れてやったぜ。だけど不運もいいところだな。俺やグライドだけじゃなく、ライヤさんや無敵の小林までこの場にいることを知りながら動き出すとは…」
孝太郎は不敵な笑みを浮かべながら言った。
「それがどうした!?この場でお前を倒して名を上げてやる!」
リーダーが孝太郎にパンチを繰り出したが、孝太郎は空蝉で回避してグライドの横に移動し、それと同時にライヤが素早く動いてリーダーに一撃を当てて吹っ飛ばした。
「結局、口だけで終わったか…それに俺たちが腕を振るうチャンスもなくなったし」
グライドが呆れたように言った。
というのは、リーダー以外の連中は春江に倒されてたからだ。
「わしの楽しみを邪魔しおった罰じゃ」
春江は一言だけ言ってその場を去った。
「後は警察に任せましょ。あのバイクも売った金を祭りの維持費に使ってもらえばいいでしょ」
ライヤが言いながら孝太郎とグライドのところに戻った。
「あれだけ大きな騒ぎだったのに呆気なく終わってしまったみたいです。いつの間にか祭りはこのまま行うことが決まった模様。私もリポートを続けます」
暴走族を警察の御用にしたり、バイクを片付けたりでいろいろあったが、しばらくしてまただんじりは動き出した。
孝太郎とグライドは一緒になってだんじりを追いかけたが、ライヤはインタビューを受けて足止めされた。
これをテレビで見ていた沙羅はほっとしたが、以前に孝太郎が言ったことを思い出した。
『女心って複雑だな。自分しか見てないってわかってても嫉妬するんだから…』
(言われたとおりになっちゃったな…)
「まさかお前が大阪に来てたとは思わなかったぜ」
孝太郎が走りながら横にいるグライドに言った。
「まぁな。祭りもそうだけど、たこ焼きがどうしても食いたくなってな」
涎をわずかに垂らして返事したグライドに孝太郎は苦笑した。
(たこ焼きのために学校休んで大阪に来たのかこいつは…)
そんなこんなでだんじり祭りは無事に終わり、孝太郎、グライド、ライヤ、春江の4人で食べ歩きをしていた。
グライドが何か食べようとするたびに、一緒にたこ焼きを注文したのは余談である。
孝太郎、グライド、ライヤの3人で真月町に帰り、駅を出てライヤと分かれて孝太郎とグライドは学校に向かった。だが…。
学校の体育館に行くと、沙羅とイザベラが不敵な笑みを浮かべて仁王立ちをしており、何があったのかを聞こうとしたとき、後ろから翔や五十嵐たちに縛り上げられた。
二人は動けなくなり、孝太郎には沙羅、グライドにはイザベラが歩み寄った。
その後、体育館全体に二人の悲鳴が響いたのだった…。
<あとがき>
祭りの最中に起きた大乱闘…という割りにはあっさりと片付いてしまったが…。
孝太郎とライヤだけでなく、グライドや春江も岸和田にいた。
それをテレビで見ていた沙羅たちに知られてしまう。
これが原因で学校で締め上げられる羽目に…。
次回は真月西高校での学園祭。
そのときどんな展開があるのか…。
今回はここまでです。
短文ですが、以上です。