逆転なる想い
作者:都波 心流
中学2年生は中途半端な時期だと思う。
新入生のような緊張感はないし、3年生のような進路ナーバスもない。
僕の名前は、青下 大助(あおした だいすけ)。
寝る時以外は丸い眼鏡をかけている。
見た目も成績も平凡という並レベルで、取り立てて目立つような存在でもないと思う。
学校の帰り道で道草してコンビニで買い物。
もうすぐでバレンタインとなるので、店内には無数のチョコが並べられていた。
「大助」
「あっ、森川さ――ぐっ!!」
聞き慣れた声に振り向いた。
次の瞬間に足を踏まれてしまう。
足の小指が圧迫されてメチャクチャに痛かったです。
「幼馴染に向かって苗字呼ぶの禁止」
「い、いや、だってぇ」
「だってもへったくれもないの」
森川 小夏(もりかわ こなつ)。
気心知れた小学時代からの女友達、家が近所でもあるので幼馴染と言えるかもしれない。
同い年だけどお姉さん的な存在かな。
見た目では、黒のセミロングと緑のカチューシャが特徴だと思う。
「もり――こ、小夏がどうしてここに?」
「いたら悪い?」
「い、いや別に……か、買い物?」
「それ以外に何があると?」
「……」
「そんな事より、明日が何の日か知ってる?」
「日曜日」
「そんなつまらないボケはいらないわよ」
即答で突っ込まれてしまった僕。
もうちょっとだけ、間を取って欲しかったのに。
いや、変に沈黙される方が虚しいかも。
小夏が真剣じみた表情で僕に話しかけてくる。
「真紀ちゃんが風邪で寝込んでるのよね」
「えっ!? か、風邪!?」
「なによ、知らなかったの? 薄情だねぇ〜」
「し、仕方ないだろ。接点がないんだから」
中学1年、小夏の後輩である神城 真紀(かみしろ まき)。
小夏とは陸上部の繋がりでお互いに知ってるみたいだけど、僕は帰宅部でほとんど接点がないから会う回数も少ない。
それでも真面目で頑張り屋だってことは知っている。
薄茶色のストレートロングを一本にまとめて、風でなびかせてた時がすごく印象に残っているんだよな。
「でもね、あの子、無茶して外に出たがるんだよ。窓から飛び出してきそうな勢いあるからね」
「そりゃあ、オーバーだよ」
「大助は何もわかってないわね」
「えっ?」
「真紀ちゃんのことどう思ってるの?」
「……」
「あぁ〜、はいはい。もう言わなくてもいいわ」
「な、なんだよ、それぇ?」
いかにもわかってますよと言わんばかりの態度。
小夏はそういう意地悪な面がある。
神城さんに対しての気持ちは前から持っている。
きっかけがなかっただけだから。
「ねぇ、神城さんの家って遠い?」
「んっ、ここからちょっと距離あるけど?」
「そうか」
「なになに、見舞いに行くの?」
「う、うん、ちょっとやってみたい事があるから」
「なにするの? 教えなさいよ」
「……誰にも言わない?」
「言わないわよ」
「本当に?」
「くどいわね、幼馴染を信じなさいよ」
自信タップリな様子を見せるので、僕は小夏の耳元でボソボソと説明しました。
すると――。
「あははははははははははははははは!!」
「ううっ……だから言わないようにしたのに……」
「はははっ、ごめんごめん、大助。アンタ、本当に面白いわね」
「そ、そんなに笑わなくても……」
「ま、いいんじゃない? 真紀ちゃん、きっとビックリするわよ」
「だといいけどね」
「あっ。これあげるわ」
そういって10円チョコを受け取った。
幼馴染の義理チョコとして毎年10円チョコを貰う。
どうもケチくさいなって思う事が多いけど、もらい物に文句がいえる立場でもない。
「大助、真紀ちゃんの住所わかる?」
「いや」
「だと思った」
小夏が神城さんの住所を教えてくれた。
明日のバレンタインに備えて僕はある事を実現する。
果たして、喜んでくれるだろうか?
・
・
・
バレンタインデーの当日。
僕は神城さんの家にやって来ました。
勇気を振り絞ってドア付近の呼び鈴を鳴らす。
しばらくすると、ドアが勢いよく開いて――。
「ぐあっ!!」
顔面にドアがぶつかって仰向けに倒れた。
ものすごく痛くてジンジンとした感覚となる。
「きゃあ、大助先輩!? しっかりして下さい!?」
体調不良とは思えないほどに僕を揺らしてくる。
首までガクガクするほどで視界が大いに歪んだ。
「す、ストップ!! ギブギブ!! 死ぬ死ぬぅ〜!!」
しばらくすると神城さんの動きが止まった。
スローモーションのように僕のところに倒れこむ。
「もぉ〜、無理するからだよ」
僕はお姫様抱っこで寝室まで運んでいった。
人目があったら絶対に出来ないよな。
部屋に場所についても小夏から聞いるので大丈夫だ。
ベットに寝かせてた後、持参した冷却シートを使おう。
タオルで彼女の汗を拭ってから、冷却シートを張りつける。
あとは部屋の空気を保つために窓を適度に開けた。
「……」
しばらく様子を見てみよう。
彼女が唸っているときは手を繋いで励ますしかできない。
安心するような寝息を洩らすとホッと胸をなでおろす。
何気に周りを見ると、少女趣味を思わせる可愛らしいピンクの空間。
ぬいぐるみや小物入れなど、いかにも女の子の部屋だ。
「ううっ……」
安静にしないといけないのに無理させてしまった。
彼女の汗を部屋にあるタオルで優しく拭い取る。
目を覚ました彼女が真っ先に謝ってきた。
「せ、先輩……ご、ごめんなさい……」
「病人は何も気にせずに安静第一でいこうね」
「で、でも……チョコ……作れなかった……」
「あ、それなら、はい」
「えっ?」
ごく自然に差し出せたと思う。
彼女に負けないくらい僕の顔も赤面してるだろうね。
彼女は戸惑いながらも受け取ってくれた。
いびつなラッピングで包装されてる箱だけど、一生懸命に作ったから悔いはないよ。
「えっと……あ、あけても……いいですか?」
「ど、どうぞ……」
「……チョコ?」
「う、うん」
頭をかきながら視線を逸らしてしまう僕。
箱の中身は四角の生チョコが10個ほど入っている。
一応、僕が手作りでやってみたが、
形が崩れてしまってて恥ずかしいな。
「先輩が……作ったんですか?」
「ま、まあね」
「これを……私に……」
「ほ、本命ですから……」
「えぇ!?」
チラリと視線を向けるとビックリ顔の彼女が見れた。
告白した後、気持ちがドキドキと高ぶって止まらない。
深呼吸をする彼女は必死で落ち着こうとしてるかのようだ。
一口チョコを食べて間を持たせる彼女。
「……美味しいです……」
「喜んでもらえて……嬉しいよ」
「……男の人にチョコもらったの初めて」
普通は逆だからしないんだけどね。
告白する良いきっかけになると思ったから。
不器用だけど……僕なりの一生懸命が伝わればと……。
「せ、先輩……」
「な、なに?」
「私のこと……好きでいてくれますか?」
「も、もちろん……す、好きだよ」
「私も……好きです」
チョコを食べ終えた彼女の頭を撫でる。
彼女は僕の胸に頭を乗せてきた。
ギュッと優しく抱きしめると、応えるように彼女の両腕が僕の背中に回る。
「神城さん……」
「な、名前で……呼んで欲しい……です」
「ま、真紀ちゃん……好きだよ」
「はい……大助先輩……」
それ以上の言葉はいらなかった。
こうやって抱き合ってるだけで幸せになれる。
風邪が治ったら、もっと仲良くなりたい。
もっと色々な思い出を作っていきたい。
この時、この瞬間に僕はそう誓いました。
END
<あとがき>
こんにちは、都波 心流です。
2月14日はバレンタインデーというイベント。
年に一回ある異性に愛の告白をするチョコ。
今回は男の子から女の子にチョコを渡すという逆転をさせてみました。
型破りな感じがあって結構面白かったです。
ちょっと文面としては短めですが、それなりにまとまったかと思います。
では、また。(^^/