第1話
「プロローグ」
どこにでもありそうな町…。
そこに住む人々…。
そんな中で繰り広げられる不思議な物語…。
季節は春。
学校では新学期の始まる頃…。
そこからこの物語は始まった。
「孝ちゃーん!待ってよー!」
校庭で男を呼ぶ一人の女の子。その大声にその場にいた生徒のほとんどが注目する。
「校庭でそんなでかい声出すなよ。学年上がっても足のトロさは全然変わらないな、未柚は…」
「だって、私の事置いてさっさと行っちゃうんだもん。それに孝ちゃんだって、そのぶっきらぼうなところ、全然変わってないじゃない」
朝から軽い口喧嘩をしている二人、海原 孝太郎(うなばら こうたろう)と日永 未柚(ひなが みゆ)。
二人は幼馴染みであり、従兄妹でもある。そんな二人を周りの連中は最初の頃は夫婦だの何だのとからかったが、ある日を境になくなった。
二人は色々話しながら昇降口で靴を脱ぎ、教室に向けて歩き出した。とはいっても、未柚の方がほとんど喋っている。孝太郎の方はほとんど生返事。いつものことだが、孝太郎は3年前のある日から口数が増えたものの、その分ぶっきらぼうになった。
「相変わらずいつもの格好ね。もうちょっといい格好すればいいのに」
「誰がどんな格好してようが人の勝手だ。それに俺はお前みたいに目立った格好するのは趣味じゃないんだよ」
未柚は新年ということもあり、新しく買った洋服を着ているが、孝太郎はいつもの格好だ。未柚は服装にかなりこだわりを持つのだが、孝太郎は正反対。
従兄妹でありながらどうしてこうも性格が違うのだろうか…。
そんなこんなで二人は「3-A」と書かれているプレートがついている教室につく。
孝太郎は窓際の一番後ろにある自分の席の机に鞄を置くと、椅子にどかっと腰を下ろした。
「つくづく思うけど、この学校にして本当によかったぁ」
肘杖をついて窓の外を見ている孝太郎に、未柚が真ん中の列の一番後ろにある自分の席に鞄を置いてから歩み寄って話し掛けていた。
「ふ〜ん…」
孝太郎はそのままの姿勢で応える。
「もうちょっと喜んだらどうなの?引っ越してきてまだ3ヶ月なのは仕方が無いにしても、私服で通学できる高校なんて滅多に無いんだよ?」
そう、二人が通っている真月西高校(しんげつにしこうこう)は制服が無く、生徒は全員私服で通学している。
そして孝太郎は今から3ヶ月ほど前に引っ越してきたのだった。
話は3ヶ月前に遡る。
「おはよう。ねえみゅう、知ってる?」
いつものように教室に入った未柚に友人の佐藤 李香(さとう りか)が話し掛ける。みゅうとは未柚の愛称だ。
「おはよう李香。知ってるって、何を?」
「今日、転校生が来るって事」
「うん。知ってる。その転校生は以前この町に住んでたって事もね」
「へぇ、そこまでは知らなかったなぁ」
「ふふ。だってその転校生は従兄妹だもん」
未柚がおかしそうに笑いながら言った。
「あらそうなの…(従兄妹って…まさか…)」
そんなこんなでチャイムが鳴り、担任が入ってきた。
「今日は転校生の紹介をする。いいよ、入っておいで」
教室の出入り口の扉が開き、一人の生徒が入ってくる。
真っ黒な髪。額の青いバンダナ。服装は白地に所々青い筋や刺繍が入った薄手のジャンパーの下に白地に様々な刺繍が入ったブラウス。下は黒地の左右の外側に白い縦筋が入ったトレパン。
そんな格好の転校生の姿を見て、「あ!」「あいつ…」「まさか」と言う声が飛び交う。
「静かに。では、自己紹介をお願いします」
「真月東高校(しんげつひがしこうこう)から転校してきました、海原孝太郎です。3年前、記憶喪失になって以来何も思い出してません。初めての転校ということもあり、わからないことばかりなので、色々と教えていただけるとありがたいです。よろしくお願いします」
言い終わって軽くお辞儀をする。
意外な事実にみんなは驚きの声を上げた。
そのまま3ヶ月、孝太郎は何も思い出さないまま3年生になった。6年前、とある理由で別の中学に入学してから音沙汰なし。未柚とは記憶を失う前も後も週に2回ほど会っていたからごく普通に話している。
そうこうしているうちにチャイムが鳴り、担任が入ってきた。
「えーと、早速だが、3ヶ月ぶりに転校生を紹介する。入っておいで」
言い終わると、教室の出入り口が開き、一人の清楚な雰囲気を漂わせた女の子が入ってきた。
その姿を見るなりほとんどの男子生徒が驚きの声を上げる。その女の子は白いヘアバンドをつけた黄色いストレートロングで腰より少し上までの長い髪に水晶のような青い瞳。しかもヘアバンド以外の装飾品は何もつけてない。服装は清楚でシンプルな真っ白のワンピースのような上着に同じく真っ白のロングスカートでドレスを思わせる。これを見て何も言わない男はいないだろう。
「静かに。では自己紹介を…」
「三日月南高校(みかづきみなみこうこう)から転校してきました、矢神 沙羅(やがみ さら)です。中学を卒業するまでこの町に住んでましたので知ってる人はいると思います。みなさんよろしくお願いします」
言い終わってぺこりと頭を下げる。
みんなが一斉に拍手をしている中で一人だけ首を傾げていた。孝太郎である。
―――ん?…どこかで…?
記憶を失っている状態であるのになぜか聞き覚えがあるように感じたが、気のせいだと思って窓の外を見た。
「沙羅ちゃん、よろしくね♪」
「え?…あ!未柚ちゃん!このクラスだったんだ」
そう言って沙羅が未柚のところへ行こうとしたとき、ふと窓際の生徒が目に入って足が止まった。
「あれ?…ま、まさか…こ、孝太郎君?」
「え?」
―――俺のこと、知ってたのか…。未柚と知り合いということはそうなんだろうな。
孝太郎は名前を呼ばれて振り向いたが、それ以上のリアクションは見せなかった。
沙羅はそんな孝太郎の反応に疑問を抱いた。
「どうしたの?」
「待って。私が説明するわ」
未柚が立ち上がり、孝太郎の現状を説明すると、沙羅はちょっと寂しげな表情になった。
「記憶喪失…そんな…やっと会えたのに…」
「悲しいけど事実よ。沙羅ちゃんだけじゃない。孝ちゃんの事を知ってる人はみんな同じ気持ちよ」
「とにかく、席だが…」
間が悪そうに担任がそう言った瞬間、孝太郎以外の男子生徒全員が注目する。孝太郎はというと、原因不明の違和感を感じながら窓の外を見ていた。
―――何だ、この妙な感じは?…矢神沙羅…どこかで聞いたような…。未柚と知り合いということは、俺も知ってるってことか…。
「そうだなぁ…日永、お前の隣だ。頼んだぞ。以上」
そう言って担任は教室を出て行く。予想外な返事に孝太郎以外の男子生徒はがっかりしていた。
<あとがき>
管理者が初めて作るオリジナル小説です。
メモリーズオフのSSも書いてるのでちょっと似たようなものになるかもしれません。
ちなみに未柚の髪型はセミロングのポニーテールで色は茶色。服装は緑のブラウスに赤いジャケット。下は紺色のミニスカートです。
短文ですが、以上です。