第29話

「さまざまないきさつ」

孝仁と由香梨の結婚式が終わったあと、孝太郎の家に二人はもちろん、孝太郎、沙羅、瞬、未柚、未菜子、智一、李香、悟、泰敏、由梨香がいて、輪になって座っていた。
そんな中で、孝太郎は智一のことと、自分のことを語りだした。
「3年ほど前、孝仁の動物をてなづける才能が俺を超えてることを知ってからそのすぐ後に、俺は東区へ行って原田を探した」
東区に行き、いざ探そうとしたとき、瞬の弟の勇が一緒に探してくれたことを言うと、瞬は驚いた。
「それと同時に気になることがあったけど、それは原田が見つかってからにするってことにして、何日か勇君と二人で探して、原田は見つかったんだ」
孝太郎は一区切りして、智一を見た。
「原田、帰ってこれなかった理由はお前が話すんだ」
智一は頷いて話した。
「あれは帰ろうとした日、電車に乗ろうとして財布を見たら、中には一銭も残ってなかった」
そのため、どこかの食堂で旅費稼ぎのために住み込みで働かせてもらい、家に帰るだけの金は稼ぐことはできた。
「だけど、帰る準備をしてたとき、ふとしたことで詐欺に引っかけられた上に多額の借金まで抱えさせられて…とても帰れる状態じゃなくなってしまったんだ」
実家に借金取りが行く可能性があることで連絡もできない。金を稼いではいくらかを返済に充てるという行動を何度も繰り返しているうちに5年近くが過ぎた。
「借金も返し終えたから何度も帰ろうと思った。けど、今頃帰って何になるって思うと帰り辛くて…どうしようか考えてるときにある親子連れとすれ違った」
それが真木野だった。智一は真木野のことを調べ、そうしているうちにいろいろなことを知った。
「あいつは高校を出るとすぐに親と絶縁し、五十嵐さんからも逃げ、東区である女と知り合って一緒になり、子供を作ってその子に少林寺拳法を教え、いつかは親子で海原に決闘のときの復讐をしてやろうとしてたんだ」
そして、もう一つの事実を知った。
「五十嵐さんは、24歳ぐらいのときに銀行に行ったとき、強盗の巻き添えを食って殺されてしまったそうだ」
みんなは驚いていた。
「五十嵐…(でもなぜ…)」
孝太郎は呟き、同時に疑問を持った。
「ある日のことだ。チンピラが倒れているという奇妙な事件を耳にするようになってしばらくした頃、黒に近い紫のローブをまとった男(孝太郎)が俺を訪ねてきたんだ」
ローブの男は、「母親と息子のところに帰ってやれ。今でも帰りを待っている」と言ってその場を去った。
「俺はその時は戸惑ったけど、しばらくして意を決して帰ってきたんだ。そしたら、孝仁君が結婚するって言うじゃないか。だけど、その場に行こうとしたときにローブの男がまた現れて、同じものをまとわせて、丁度いいと思ってあの格好で行ったんだ」
みんなが関心の声を出す。
「海原、またお前に助けられたな」
「気にするな。俺はちょっとしたきっかけを与えたにすぎない。お前は自分の意思で帰ろうとしたんだから、俺は特に何もしてない」
さっきまであった重苦しい雰囲気は消え去った。そして、今度は孝太郎が話す番になった。
「あれは、原田を見つけて、その数日後のことだった」
孝太郎は智一を探すまでのように孝仁たちを見守ってるときだった。
「由梨香の兄貴の翔が俺を訪ねてきて、「奇跡はお前が受け取るべきだ」なんてことを言って、俺をどこかに連れて行った」
そこは雲の上であり、いわゆる天界だった。そこで孝太郎は両親に会ったりした。
「両親とは生きてる頃に衝突したからそれなりに気まずかった。だけど、俺が一人でも生きていけるようにわざとあんな育て方をしたことを知ったときは、つい泣いてしまったよ」
その後は何のわだかまりもなく話し合い、しばらくして神が尋ねて孝太郎に言った。
「「死んだ身でありながら家族を見守り、おまけに友人を探すという行動は立派だ。その行動をたたえ、お主にわしから一つの奇跡を与えよう」…そういわれた後、俺は眩しい光に包まれて、気がついたら黒に近い紫のローブをまとって、額にバンダナを巻いた状態で西区の公園のベンチに寝てたんだ」
だが、孝太郎はどうやって自分のことを教えたらいいのかわからず、人前ではローブを脱げなかった。
「だから、歩いて東区に行って、原田を見つけて帰るように言った後、孝仁の結婚式の会場で姿を現したんだ」
みんなは感心した。同時に孝太郎の行動は立派だと思った。
この後はみんなで色々と話して、それぞれの家に帰っていった。
そして、由香梨も帰ろうとしたのだが、孝仁は止めた。
「なんですか?」
「まだ、俺の父さんに挨拶してないだろ?」
由香梨ははっとなった。
孝仁は由香梨の腕を引いて孝太郎に紹介した。
「父さん、もう知ってるとは思うけど、紹介するよ。俺の妻の由香梨だよ」
「は、初めまして。寿由香梨です。よろしくお願いします」
緊張気味に自己紹介している由香梨を見て、孝太郎は微笑んで由香梨の頭を撫でた。
「よろしく。俺は孝仁の父親の海原孝太郎。硬くならなくてもいいぜ。それにもう矢神 由香梨(やがみ ゆかり)だろ?」
「あ、は、はい、すいません…」
「孝仁のこと、よろしく頼むぜ」
これを聞いて由香梨は緊張が解けて笑顔になる。
「はい!まかせてください!」
「いい笑顔だ。高校時代の由梨香によく似てる」
「よく言われます。ところで…」
「ん?どうした?」
「なぜ、お義父さんと孝仁さんは苗字が違うのですか?」
由香梨の質問に孝仁が答えた。
「父さんの苗字はこの真月町では有名すぎるんだ。だって見ただろ?俺がトラを大人しく引き下がらせたところ。その能力は父さんも持ってるんだ」
そこへ沙羅が話を合わせる。
「彼はね、孝仁みたいに動物との会話はできないけど、立ってるだけでどんな猛獣でも大人しくさせてしまうことができるの。高校時代はそれでファンクラブができるぐらい有名人だったんだから」
「へぇ、そういえば孝仁さんもそうでした。得意の中国拳法で悪行を働いてる生徒たちを打ち負かしてましたから」
「そういう沙羅こそ、高校では清楚な美女ってことで人気ナンバー1だったんだぜ」
沙羅は顔を赤くする。
「人気者同士が夫婦になるのっていいですね。二人とも気取ってないみたいですし」
「まぁね。あ、せっかくだから、晩飯うちで食ってけよ。由香梨ちゃんとはもっと色々話したいしな」
「あ、それじゃぁご馳走になります。でも、奥さんが妬きませんか?」
「大丈夫。俺が沙羅一筋ってことは、21年以上も前から沙羅が一番よく知ってるからな」
これを聞いて沙羅は孝太郎の背中に抱きつく。
「…嬉しい…他の女の人と話したらだめとは言わないけど、嫉妬させるようなことはしないでね」
「心配するな。俺はもう離れないから」
沙羅はこれを聞いて孝太郎の腰に回していた腕に少し力を入れる。だが、孝太郎は前を見てはっとなる。
なぜなら、孝仁と由香梨がいることを忘れていたからだ。
「羨ましい♪」
「ふふ♪私もです」
二人はいたずらっぽい表情だった。
孝太郎は顔を真っ赤にして「バカヤロー!二人してじっと見てるんじゃねー!」と怒鳴り散らした。
3人はこれを聞いて大笑い。孝太郎は沙羅の腕を無理矢理引き剥がして自分の部屋に逃げていった。

夕飯になり、気を取り直して戻ってきた孝太郎を入れた4人はテーブルを囲んで食べた。
「この味、懐かしいなぁ…あのときより美味くなってるけど、感じるものは12年前とほとんど変わってない」
孝太郎の目は潤んでいた。
「父さんがいなくなってからも、母さん、時々未菜子ちゃんのお母さんのところに行って料理を勉強してたんだ」
孝太郎は感心する。その後は色々話し、孝仁の勧めで由香梨は泊まることになった。

そして、二人が寝た後、孝太郎と沙羅はソファーで寄り添っていつの間にか眠っていった。


<あとがき>
明らかになった原田が帰れなくなった原因。
帰るきっかけを与えた孝太郎。
新たに増えた家族。
これからまた何年かして、再び…。
短文ですが、以上です。

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