第2話

「相変わらずな学校生活!?その2」

ふと、気がつくと保健室のベッドの上だった。
身体を起こして窓を見ると、夕焼け空になっており、時計を見ると5時を過ぎていた。
(あれ?どうしてここに?…確か、双海さんに首を締められて…)
「気がついた?」
「え?双海さん…」
声に気がつき、振り向くと双海さんが制服姿でベッドのそばに置いてある丸い椅子に座っていた。
「さっきはごめんね。つい興奮しちゃって」
「さっきって…2時間も前のことでしょ?ったく、死ぬかと思いましたよ」
「ふふ」
「笑い事じゃありませんよ!っと、もう帰るか…」
ベッドから立ち上がって離れると、双海さんの手が俺の肩に触れた。
「じゃあ私も一緒に…いいわよね?
笑顔でありながらも、“いいわよね?”の部分にドスを入れて聞いてくる。(怖)
(考えてみたら器用なことできるなぁ…)
「ど、どうぞ。ご自由に…」
本当は断りたかったが、そうして殺されるのを恐れてびくびくしながら言った。
双海さんならマジでやりかねないからだ。それを気絶する直前にはっきりと悟った。
俺は鞄を手に取り、保健室を出ようとして、丁度入ってきた先生に一言言って学校を後にした。

・・・・・・。

駅まで歩いている間、双海さんと色々な話をした。
そして商店街に入る。駅から学校への通学路は商店街の途中にあり、通り抜ければ海が見える高い丘へ行く。
「そうそう、智也さんに聞きたい事があるんだけど…」
「何ですか?」
「額に傷跡みたいなものがあったけど、どうしたの?」
「え!?」
額の傷跡。それは今日まで前髪で隠してきたから誰にも知られなかった。
「保健室まで運んでる途中で前髪が動いて、その時に見えたから気になってね」
「う、うん。この間、チンピラと喧嘩したときにナイフでやられて…」
これも嘘だ。今日はこれで3回も嘘をついたことになる。
今までついた嘘で一番心を痛めた瞬間だった。
“あの日”からずっと、この傷ができた原因の本当のことは誰にも話してないし、これからも絶対に誰にも話さないと心に決めていたからだ(理由になってないかもしれないが、心を痛めたのは確かだ)。
「よくチンピラに絡まれるわねぇ」
「まぁねぇ。何の前触れもなしにやってくるから…」
「でも、ナイフの傷ならもう消えてるんじゃない?」
「縫った傷は消えないんですよ」
「縫ったの!?」
双海さんは驚いた表情で立ち止まる。
「はい。何針かは覚えてませんが」
俺は双海さんのリアクションにお構いなしに話し続けた。
「ふ〜ん」
これは本当のことだ。しかし、その真相についてはさっきのような感じで嘘を言って誤魔化している。
しかも、今回が初めてではない。その度に心を剣で突かれたようにグサリとくる。
おそらく、“彼女”が俺の嘘を許さないのだろう…。
「それともう一つ、これは前から聞こうと思ってたことなんだけど…」
色々考えているところに突っ込むように聞いてくる。
「今度は何ですか?」
「ナイフを持ってる相手に素手で刃向うのは危険じゃない?」
「確かにそうですが、刑法に引っかかるのがオチでしょ?それに俺は素手でも勝つ自信がありますから」
転校してくる前もそうだったが、双海さんの件でさらに自信がついた。
「その自信が命取りになりかねないわよ」
真剣な顔で聞いてくる。
「本当はトンファーとか使いたいんですけどねぇ」
「ふ〜ん…あ、そうだ!ふふふふふ」
一通り納得したと思うと何かを思い出したかのように突然笑い出した。
「な、何ですか?いきなり笑い出して」
このときの双海さんは必ず何かを企んでいる。俺はそれを知ってたために焦った。
「智也さんて、一人暮らししてるんでしょ?」
「はい、それが何か…まさか!」
「ふふふ…今日は泊まりに行くわ」
え゛ぇ〜〜〜!!!!?
周りにいた人たちが振り向く。突然双海さんが俺の腕を引っ張って走り出した。
「はぁ、はぁ…んもう、冗談よ!」
荒々しく肩で息をしながら怒ったように言う。
「…冗談でもあれは誰が聞いても本気か!?て思っちゃいますよ!」
「泊まるのは冗談だけど、智也さんの家に行こうとしてるのは本当よ」
いつの間にか、呼吸が整ってる。
「な、な…うぐぐぐぐ…ぷはぁ」
また大声を出しそうになったが、突然口を塞がれてそれを両手で引き剥がす。
「どうせ食事まともに取ってないでしょ?だから私が作ってあげるわ」
「え!?本当に!?助かった〜。晩飯どうしようか困ってたんすよ」
すると双海さんの表情がニヤリといった感じに変わった。
「思った通りだったわね。最初からそのつもりだったし、ということで行きましょ」

・・・・・・。

そして、俺の腕を引っ張って連れて行った先は…。
「えっと、材料はこんなものでいいわね」
俺は双海さんの行動を黙って見ているしかなかった。どうやら冷蔵庫の中が空だということを見抜いていたようだ。
俺のいつもの食事は、朝は焼いた食パン(休日は寝てるから食べてない)。昼は購買で買ったパン(休日はコンビニで買った弁当とか)。晩は大衆食堂とかで丼ものなど(休・平日を問わない)。
たまに今日みたいな感じで唯笑や村野さんが来て作ってくれたことがあった。双海さんは今日が初めてだ。
いつの間にか、俺と双海さんの両手は大きな袋と鞄でふさがっていた。

電車の中では乗客の注目を浴びる。
「み〜んな私達のこと見てるわね…」
「こんな大きな袋を持ってりゃぁ誰だって見ますよ。それに双海さんは世界規模で有名ですからね」
「ふふふふふ」
お互いにいろんな会話をしていた。

・・・・・・。

そんなこんなで俺の家に着く。
「おじゃましまーす」
「どーぞー」
「へぇ、久しぶりに来るけど、広いなぁって思うね」
そう、双海さんが俺の家に来るのは今日が初めてではない。
俺が一人暮らししているこの家は以前は唯笑の家族が住んでいた家だった。
叔父(唯笑の父親)が引越しを理由に引き払おうとしたが、俺が今通っている学校に転校することになったのを理由に家賃などを全額負担してくれると言って俺に譲ってくれた。
叔父はたまにこんな太っ腹なところがある。
去年のクリスマスパーティーにここでドンチャン騒ぎをやったことがあった。
メンバーは、信、唯笑、村野さん、かおる、みなもちゃん、双海さんだった。
みなもちゃんとはこのときに双海さんの紹介で知り合ったのだ。
みなもちゃんはこの日は大人しかったが、ある日を境に唯笑と一緒にいるようになってから壊れ始めた。
かおるは今日の昼までその姿を見たことが無かったから目を点にしたのは仕方が無いことだろう。
いつの間にか双海さんが料理を始めた。いい匂いがリビングまで漂ってくる。
「できたよ〜」
台所から双海さんの声がした。
「うっはー!すっげー!」
俺は興奮しながら料理をリビングへ運んだ。
「さてと、はやく食べようよ」
「そうっすね。それじゃ、いっただっきま〜っす」
「どうぞ〜♪」

二人で片っ端から食べ始める。久しぶりにまともな飯にありつけた嬉しさは言うまでも無いだろう。
しばらくしてテーブルに乗っていた料理はみんな俺と双海さんの胃袋に納まってしまった。
「ふ〜。もう腹いっぱい」
「相変わらずよく食べるわねぇ。育ち盛りだとそんなものなのかな?」
「そう言う双海さんもよく食べてましたよ」
「楽しく食べるとそんなものよ。さてと、片付けないとね」
「あ、手伝いますよ」
「ふふ。ありがとう♪」
そう言ってウィンクを飛ばしてきたために、少し照れてしまった。
片付け終えてしばらくして双海さんは帰っていった。
俺はそれからしばらくした後にシャワーを浴び、着替えて自分の部屋に行き、目覚ましをセットしてベッドに横になると、あっという間に寝てしまった。
(いよいよ明後日か…。今までが今までなだけに不安…グゥ)


<あとがき>
やたらと前置きが長くてすいません。
これでもちゃんと話は通ってるつもりです。
初めて書くのにこんなに長くなるとは思いませんでした。
次の次ぐらいから本題に入ると思います。

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