第9話

「智也の家では…」

…一方、その頃…。

彩花は智也が出て行った後、部屋の掃除やたまっていた智也の衣服などの洗濯をしていた。
洗濯物を干すために庭に出て洗濯物を竿にかけながら、
「いつかこんな日が毎日来たらいいなぁ…」
なんてことを、顔を赤くしながら呟くのだった。
♪〜…。
彩花の上着のポケットに入っている携帯からメロディーが流れる。
彩花は携帯を手に取り、ディスプレイを見る。
唯笑からだった。当然ながら出る。
「もしもし?」
「あ、彩ちゃん?今どこにいるの?」
「今?と…じゃなかった…。し、商店街よ」
智也の家。そう言いかけて慌てて嘘を言った。
「ふ〜ん。家に行ったらおばさんが出かけてるって言ってたから」
「あ、そ、そうなんだ」
彩花は今朝の電話で、出かけていても昨日から帰ってないことは言わないように母親に言っておいたのだった。
そのため、唯笑は彩花が智也の家に泊まったことを知らない。
「どうしたの?何か焦ってるみたいだけど?」
「な、な、なんでもないわよ。ただ、これからどうしようか考えてたところだったから…」
これは本当のことだが、後はどう誤魔化すか…。
「ま、いいか。じゃぁみなもちゃんを誘って二人でどこかへ行こうっと」
「ふ〜ん。また今度誘ってね」
「うん!じゃぁまったね〜♪」
唯笑は最後にそう言って電話を切った。彩花はホッと一息。
「あ〜危なかった〜…。ここにいることがバレたら何言われるかわからないもんねぇ…」
「ふふ、そうね」
いつの間にか彩花の後ろに立っていた詩音が突っ込む。
「え!?ふ、双海さん!?」
「こんにちは〜♪ここって、智也さんの家でしょ?なのにどうして彩花さんがいるの?」
詩音は笑顔で問う。
「え、あ、そ、それは、その…」
彩花は突然の来客に戸惑うばかりで、まともに返事が出来ない。
「とにかく、落ち着きなさい。あなたがここにいたことは言わないから。ね?」
「は、はい…ふぅ〜…」
彩花は深呼吸をしてようやく落ち着いた。
「智也さ〜ん。遊びに来たわよ〜♪いる〜?」
近所にも聞こえるぐらいの大きな声で詩音が言った。
「今日はバイトです」
彩花のきっぱりした一言に詩音はずるっとなった。
「あ、あら、残念…」
「何がですか?」
完全に落ち着いたのか、彩花は平然とした表情で聞く。
「何でもないわよ。それより、立ち話もなんだから入りましょ?」
「そうですね。でも、洗濯が終わってないのでそれからでもいいですか?」
「じゃぁ、手伝うわ」
詩音はそう言いながらかごに入っていた洗濯物を手に取る。
「結構たまってるわねぇ。1ヶ月は洗ってないんじゃない?」
「…かもしれませんね。洗濯機のふたを開けたら猛臭で鼻をやられそうになりましたから」
詩音はくすくすと笑いながら洗濯物を竿にかける。
二人で話しながらの作業で全て干し終わると、彩花と詩音は智也の家に入っていき、彩花は玄関の扉を閉めると鍵をかけた。

お茶を用意し、リビングにテーブル越しに向かい合って座ると、彩花はなぜここにいるのか、その理由となるであろう昨日から今日にかけてのことを話し始めた。

・・・・・・。

「…へぇ〜。熱いわねぇお二人さん」
「茶化さないでくださいよ、んもぅ…」
彩花は顔を真っ赤にしながら反論する。
「でも負けちゃった…」
「え?」
「…私も智也さんのこと、空手部へ誘ったときから気に入ってたんだ。今日はそれを思い切って言おうとしたんだけど先越されちゃった。ちょっと悔しいけど、私の完敗ね」
「双海さん…」
彩花は今にも消えてしまいそうな声だった。が…
「ふふ。智也さんがあんまりにもふがいないようだったらお尻に敷いちゃってもいいわよ♪」
「な、な…」
彩花の顔は再び真っ赤になる。
「や〜だ、んもう冗談よ♪」
「ふぅ…(双海さんは智也と二人っきりのときもこんな調子なのかな?)」
顔色が戻った彩花はお茶を飲みながら考えていた。
「あ、あら、もうこんな時間?」
詩音の一言に彩花はリビングの壁にかけてある時計を見ると12時を過ぎていた。
「丁度いいから、お昼二人で食べよ?」
「そうですね…」
二人で智也の家の台所で料理を始める。調理をしながら色々な会話をする二人。
やがて出来上がり、朝飯を食べるときに使ったテーブルで食べ始める。
「でも、残念だなぁ…」
「何がですか?」
「智也さんのことよ。彼みたいな人が空手部に入ってくれたらって何度思ったかなぁ」
「私もそう思います。でも、智也が空手をやるのって似合わないような気がして…」
「う〜ん…。言われてみればそうね」
「それに以前、智也は『俺は大会で歓声を浴びながら空手をやるよりも、街中でチンピラと喧嘩してるほうが自分らしくしていられるからなぁ』なんてことを言ってました」
「そうねぇ…人目につかないところでチンピラと暴れてる智也さんのほうがイメージがぱっとわいてくるわね」
二人は他にも色々な会話をしていたが、内容は智也のことばかりだった。

やがて昼飯を食べ終わり、使った食器を片付け終わると、彩花の携帯が鳴った。
「もしもし?…お母さん…え!?…そんな…うん、わかった…」
「どうしたの?」
「それが…その…」
彩花は電話の内容を話した。
「いいじゃない。やりましょうよ、私も協力するから」
「で、でも…」
「でももへちまもないの!智也さんを完全に自分のものにしたかったら行動あるのみ!」
「は、はい…」
彩花は詩音に圧倒されていた。はたしてどうなることか…。

…その頃、智也は…。
へ〜っくしょい!…っととと」
智也はくしゃみで抱えていた荷物を落としそうになった。
「ん?三上、どうした?風邪か?」
智也のくしゃみを聞いて店長が歩み寄って聞いた。
「あ、店長。いえ、そういうわけじゃないんですけど…(誰か俺の噂でもしてるのかな?)」
その通りである…。
「ま、いいか。それにしてもお前明るくなったなぁ。ついこの間まで“闇に染まったかのように暗かった奴と本当に同一人物か?”って思うぐらいに。一体何があった?」
店長は智也が休憩室に入ってきたときの明るい挨拶に“本当にあの三上か?”と思ったそうだ。店長だけでなく、他の店員も同じことを思っただろう。
「単に考えを前向きにしただけです。それに周りのみんなが支えてくれますから」
「そうか…支えがあるってのは嬉しいことだな。さあ仕事仕事!」
「はい!」
くしゃみをする直前で止めた作業を始める。

色々やっているうちに午後6時を過ぎた。
「よし!全員集合!」
店長の声で全員が集合して横一列になる。
「さて、今日の出来事を右から順番に一人づつ話してもらおう」
午後6時は智也のバイトが終わる時間であり、同時にその日の出来事を話すのがきまりになっている。
「よし!じゃぁ次、三上!」
「はい、ええと…」
智也が何かを言おうとしたときだった。
ソーラーシ〜ラーソ・ソラシラソレ#〜♪
ぐわっしゃぁ!!!!
智也以外、その場にいた全員がひっくりかえった。
「あれ?どうしたんですか?」
智也は周りを見ながら目を丸くして聞く。
「み、三上ぃ〜。このときぐらいは携帯の電源を切っとけぇ〜」
体を起こしながら店長が言った。それにつられるかのように他の店員も体を起こした。
「すいません。では言います。ついこの間まで退廃的でしたが、考えを前向きに変えてからは普段感じるものが新鮮でした。今の前向きな気持ちをずっと大切にしていきたいと思います」
「う〜ん。今日の出来事とは関係ないように思うが、まぁ良いだろう。では次!」

全員が言い終わり、智也が帰った後…。
『くくくくく…がははははははははは!!!
智也の携帯から流れた着メロを思い出したのか、店長を含め、全員が笑い転げていた。
店全体に笑い声が響く。客が何事かと思って見に行ったとき、店員達を見て開いた口がふさがらなくなっていた。
「まさか、三上があんなに面白い奴だったとはなぁ…ははははは」
店長だけでなく他の店員も同じ気持ちだった。

智也は駅に向かって歩きながら携帯のメールの内容を確認していた。
「今度はいつ空いてる?」
―――ったく、信の奴は…
そう思いながら返信した内容は、「知らん!」…。
これで良いだろうと思いながら歩を進める。

何事もなかったかのように電車に乗り、家に一番近い駅で降りる。
―――あ!彩花に言っておかなきゃ…
立ち止まり、昨日登録した彩花の番号を探し、見つけてかける。
プルルルルルルルル…
「もしもし?」
「あ、彩花?俺、今から家に帰るけど、どこにいる?」
「智也の家」
え!?そ、そうか…。外出してたら鍵どうしたか聞こうと思ってたんだけど…」
今朝のような予想外の返事に驚きの声を出してしまい、その声が近所に響き渡った。
「うん…。晩御飯作ってたから…。私もう帰るから。あ、鍵はポストに入れておくね」
「そうか…。サンキュ。じゃぁ…」
智也は電話を切って歩き出した。


<あとがき>
タイトルとは内容がずれてるかもしれません。
それに所々にギャグマンガ(?)みたいな部分が入ってますが、
こうしたほうがメモオフらしいかな?と思いました。
短文ですが以上です。

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