第15話
「かけがえのない想いと共に」
「みんな心配してるから帰ろう」
「そうだな…」
「あ、ちょっと待って、その前に」
彩花はポケットから携帯を取り出してかけた。
「あ、音羽さん?今、智也が見つかったよ…うん、元気にしてた…今から二人で帰るから」
そう言って電話を切る。
俺は彩花と二人でゆっくり歩いていた。俺の右腕には彩花の両腕が絡まっている。
もう少しで家に着く。というところで…。
「あ!智也!お前な!」
玄関先で俺の姿を最初に見つけた信が怒った表情で走ってきた。
彩花は驚きながら俺の腕に絡めている両腕を離して俺から離れた。
「みんなに心配させやがって、この野郎!」
右手に握りこぶしを作ってストレートを飛ばしてくる。
ブン!
俺はそれを左腕でガードした。
ガッ!
「そう怒るなよ。信」
「これが怒らずにいられるか!?…って、智也…まさか…!?」
信の腕から力が抜け、表情が怒りから驚きに変わった。
「それに唯笑、かおる、村野さん、伊波、ほたるちゃん、みなもちゃん、希ちゃん、双海さん、静流さん。心配かけてゴメン」
俺の声を聞いてみんな驚いた表情を見せる。
「智也はみーんな思い出したよ!」
彩花の一言を聞いてみんなが喜びながら俺にかけよってくる。
そんなこんなで夜は俺の記憶が戻ったお祝いにと言って俺の家でドンチャン騒ぎを深夜までやった。
近所迷惑にならないだろうか…。それがすごく心配だった。
そして翌朝…。
(う、ん?…何だ?布団にしては重い…それに、このきんもくせいの香りは…!)
驚いて目をあけると、目の前には枕が、背中には彩花が上から覆い被さるようにして寝ていた。
しかも穏やかな寝顔がすぐ横にあった。
俺は彩花を起こさないようにそっと横に動こうとした。が…。
ぐっ!
(う!)
わきの下に通していた彩花の両腕に力が入る。
(本当に寝てるのか?)
抵抗も無駄と思い、そのままの姿勢でいた。
(彩花が目を覚ますまで動けないな。でも、もう少しこのままでいようかな?)
「智…也…ずっと…一緒に…いよう、ね」
(去年の…俺が自分の気持ちを打ち明けたあの日の…)
ガチャ
「ほら起きて!もう朝…うぅわ〜…あっつあつだよ。この二人」
ドアの開く音と同時に驚きの声が耳に入った。
「う…ん?…音羽さん…おはよう…智也の背中、すごく暖かいよ」
「それはいいけどね。どうせやるなら二人っきりのときにお願いね」
そういってかおるは部屋を出て行く。
バタン
彩花は俺のわきの下に通していた両腕を肩にかけて揺すった。
「ほら、もう朝だよ。智也ったら…お寝坊さんね。ふふ」
「何言ってんだよ。起きようとして横に動こうとしたら、彩花が腕に力を入れてきて離さなかったから動けなかったんだよ」
「え…え?…え!?」
彩花は少しづつ顔が赤くなると同時にとっさに体を離した。
俺は少しして起き上がる。
「ふぅ。(布団にしてはちょっと重いと思ったら…)」
彩花は顔を真っ赤にして俯いて黙り込んだ。
(大胆なところは双海さんにそっくりだぜ。だけどどんな仕込み方をしたら一人の人間をこんなに大胆にできるんだ?そう言えば、前にも小夜美さんが静流さんに…)
リビングに行くと、いつものみんながいた。
「おっす。桜峰の3人は帰ったぜ」
信が微笑みながら言った。
「そうか…」
みんなでテーブルを囲んで色々喋りながら朝飯を食べ、しばらくしてみんな帰っていったが、彩花はまだいた。
ソファーで背中を合わせて座っている。
「…あれから1年…ずっと空白だったな…」
「…そうだね…でも、智也はいつも一緒にいてくれた」
「これからも一緒さ」
「うん…」
合わせていた背中が離れ、しばらく見つめ合って顔が少しづつ近づく。
しかし、もう少しで唇が触れるというところで俺は妙な気配を感じた。
俺は彩花の肩にそっと触れてこれ以上近づくのを止める。
「待った」
「どうしたの?」
「静かに。もしかして…」
携帯を手に取り、番号を探して発信した。すると…
ミ〜ド#〜ラ〜ミ〜ド#〜ラ〜ミ〜ド#〜ミ〜ラ〜♪
庭で音がする。
「やっぱりな」
「まさか…」
二人で庭に出る。そこには乾いた笑いを浮かべて体が固まった状態の信たちがいた。
しかも信の手にはカメラがあった。
「お前等な…」
「よ、よう…き、今日は、い、いい、天気…だな…」
信がぎこちない口調で関係ないことを話す。
「なら雨が降らないうちにさっさと帰りなさい!!」
彩花が怒り炸裂といった表情で両方の腰に手を当てて立ちはだかった。
「唯笑は止めたんだよぉ。だけど信君が「この決定的瞬間を逃してどうする!?」なんて言ってカメラを構えてるんだもん」
「畜生〜誰だよ?俺の携帯を鳴らした奴は…って、智也!」
信はポケットから取り出した携帯のディスプレイを見て驚いた表情を見せる。
バキバキバキバキ!
俺が手の間接を鳴らすと信たちは一目散に逃げ出した。
「ったくもぅ。何考えてるのかしら?」
「さぁ…」
どかどかどかどかどか!!!!
遠くで何やら派手な音がした。と思ったら…。
「うっぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
町中に響き渡るぐらいの悲鳴が聞こえた。
「と、智也…今の…」
「あ、あぁ…おそらく…信だ」
俺も彩花も頭に汗が吹き出ていた。
色々想像したあと、二人で中に入り、俺はソファーに座っていると、彩花が正面に立った。
「彩花?どうした?」
聞きながら見上げると、彩花の瞳は潤んでいた。
「智也…」
「ん?」
「私、本当はね、智也が記憶を失っている間、智也が私の知らない人みたいに見えて、私の知ってる智也はどこかに行ってしまったんじゃないかって思えて、凄く寂しかった」
彩花は涙を流しながら俺の首の周りにやんわりと両腕をまわし、足をまたぐように乗ってきた。
「でも昨日、私の知ってる智也は帰ってきてくれた」
「彩花…ただいま…」
俺は言いながら彩花の瞳に溜まっていた涙を指でふき取ると、両腕を彩花の背中にまわした。
「お帰りなさい。智也…大好き…」
言い終わると彩花は自分の唇を俺の唇に強く押し当ててきた。俺は多少戸惑いながらもそれに応える。
もう離したくない。この気持ちが両腕に力を入れさせた。
・・・・・・。
それから数日が過ぎて夏休みが終わり、学校では以前と変わらない学校生活が始まった。
教師達は最初は固くなっていたが、俺の記憶が戻ったことを知ると大喜びだった。
そして、朝のHRが始まり…。
「最初にいわなきゃならんな。実は、三上が記憶を取り戻した」
それを聞いたいつもの連中以外のみんなが驚きの声を上げる。
「今日は、その記念として、おめーらに、本当のことを言いたい!」
突然言い出したのでみんな驚きの表情を浮かべている。
(何でべらんめぇになるの?)
「…おめーら、男・女・交・際!?」
どきどきどきどき…。
「…俺もしてぇ〜!!!」
がたたたたたたたたん!!!!
みんな椅子からずり落ちる。
その時の音を聞いて、隣のクラスの担任が入ってきた。
だが、俺達を見て、「何やってるんだ?皆…」と目を点にして聞いてきた。
そんなこんなで相変わらずな学校生活(?)がまた始まった。
言い忘れていたが、信は全身傷だらけだった。おそらくあの時の…。
(あれから1ヶ月も経ってるのに…よっぽど派手にやられたんだろうな…)
もう一つ、ポテトはいつの間にか、以前俺が住んでいた隣町に帰っていったらしい。
登下校や休日は彩花と二人きりになることが多くなった。
本当に充実した毎日…全てが輝かしく思えてくる。
気がつけば、俺は彩花と新たなる一歩を何度も踏み出していたのだ。
そう、「かけがえのない想いと共に…“未来へ一歩づつ”」…。
俺はこれからも彩花と二人で生きていく。後悔はしない。
どんな苦労も、二人でなら乗り越えていけそうな気がする。そう、二人でなら…
見ててくれよ!みんな!
『ふふふ。私たちはちゃんと見てるわよ。だから、二人とも幸せになってね♪』
風に乗って小夜美さんの声が聞こえてきたような気がした。
〜FIN〜
<あとがき>
やっと書き終わったアナザーストーリー。
その時思いついたことをそのまま書いたので内容がバラバラかもしれません。
色々な人たちが書いたSSを参考にしているので「この部分はどこかで…」という人が出てくるかもしれません。
原作をプレイしている最中に、“彩花が生きていたら…。詩音が明るかったら…。みなもが元気だったら…。”と何度も思いました。そしてこの思いが、このSSを書くきっかけになったのです。
本当は智也にトンファーを使わせたかったのですが、以前、そのことできつい指摘を受けたこともあり、今回はなしにしました。
(別のHPのSSでは使ってます)
最初から最後まで短文でしたが、以上です。