ACT2

「ねえ。名前、どうしようか?」
「うむむ?」

夕飯を食べていると、突然瑠璃がそんな事を聞いてきた。
僕は口の中に物を入れたまま喋ろうとして、変な返事をしてしまった。

「名前よ。やっぱり名前がないと色々不便でしょう?自分の名前覚えてない?」
「んぐんぐ・・・ごくん。ごめん、覚えてないんだ」
「名前じゃなくても、何か覚えてることってないの?」
「う〜ん。何かって言われてもなぁ・・・。とりあえず日常的な知識はあるみたいだけど、自分のことはちっとも」
「そう・・・。それじゃ、記憶が戻るまではなんて呼べばいいかな?」
「う〜ん」
「何でもいいのよ。記憶さえ戻れば本当の名前で呼べるし」

記憶が戻る。それは、いつになるんだろう。
いや、そもそも僕は、記憶が戻ってほしいと思っているのだろうか。
以前の僕がどういう人間だったか、気にならないわけじゃない。
でも、心のどこかで、僕は記憶が戻ることを拒否してるんじゃないだろうか。
心のどこかでこのままでいたいと思っているんじゃないだろうか・・・。
そんな気がしてくる。
 
「ねぇ、どうかしたの?」
「え?」
「『え?』じゃなくて。悩み事?」
「あ、んと、なんでもないよ。う〜ん、名前かぁ・・・」

ふぅ。いけないいけない。
瑠璃に余計な心配はかけたくないもんね。
それに、こんなこと考えてたってどうしようもないよね。

「そうだなあ。瑠璃が決めてくれる?」
「私が?いいの?」
「うん、お願い」
「そうね、それなら、里緒(りお)、なんてどう?」
「里緒、かぁ。いいかも。でも、どういう意味?」
「え?・・・内緒よ」
「えー、なにそれー!?」
「いいじゃない。それとも他の名前がいい?」
「ん〜・・・里緒でいい。気に入ったし」
「じゃあ決定ね。それじゃあ改めて、よろしく、里緒」

そう言って瑠璃は笑顔を向けてくれた。
僕もそんな瑠璃に笑顔で、

「よろしく、瑠璃」

そう返した。


翌日、瑠璃はまた学校に行き、僕も部屋の掃除やその他諸々を終えてゴロゴロしていた。
暇だなぁ・・・。また散歩でもしてこようかな。


僕は昨日の公園のベンチに腰を下ろしていた。
別に来ようと思ったんじゃなくて、なんとなく足が向いたのだ。

「う〜ん。今日はいないのかな」

いつのまにか、僕は昨日のくるすという娘を探していた。
とはいえ、くるすも一応学生だ。そう毎日毎日いる訳が・・・

「あ、昨日の人!また会ったね♪」

・・・会ったようだ。
現在時刻、11時13分。いいのかな・・・。

「おっはよう♪」
「お、おはよう・・・」

僕は苦笑いしながら挨拶を返した。
それにしても・・・ほんとに明るい娘だよな・・・。

「ボクは明るいだけが取り柄だから♪」
「あはは・・・って、なんで僕の考えてることが解ったの!?」
「顔に出てるんだもん。『呆れる位明るい奴だなぁ』とか思ってたんでしょ?」
「あ、あははは。そんなことないよ」

『呆れる位』とは思ってないから。
心の中でそう呟いて、僕は早く遊ぼうと急かすくるすに引っ張られていった。


その後、昼近くなってくるすは学校に戻ると言った。
購買で好きなパンがなくならないようにしたいんだそうだ。
それと、午後は好きな教科だという事もあるらしい。
こんなんで本当に大丈夫なんだろうか。

「良いの良いの♪出席日数には一応気をつけてるから」
「あ!また僕の表情読んだな!」
「あはははは♪ホントにわっかりやすいねぇ〜♪」
「このー、怒った!」
「きゃー、助けて〜」

会ってまだ二日目だというのが信じられないくらい、僕とくるすは仲良くなれた。
ただ、なぜだろう。
くるすといる時、なんだか変な感じがする。
あったかい何か・・・そう、懐かしさというか、そんな感じが。
懐かしい?まさか。そんなの、変だ。変だよ。
気のせいだ。くるすだって、僕のことを知らなかったんだから。

「それじゃボク、学校に戻るね。君も出席日数には気をつけてね」
「あ・・・」

今、『君』と呼ばれて気づいたけど、僕まだくるすに名前教えてなかったんだ。

「あのさ」
「ん、なに?」
「僕の名前、里緒って言うんだ。だから、そう呼んでよ」
「里緒・・・くん?」
「?・・・どうかした?」
「え?ううん、なんでもないよ。里緒くんだね」
「うん」
「それじゃ里緒くん、またね」
「うん、また」

そうして、くるすは学校のほうへ走っていった。
ただ、さっき名前を伝えたときに浮かべた、寂しそうな表情が僕の心に残っていた。


瑠璃と一緒に夕飯を食べている。
やっぱり瑠璃は口数は少なめだが、笑うことは多くなった。
初めて会ったときは終始無表情だったもんなぁ。

「里緒、明日学校休みだから、街を案内してあげようか?」
「あ、うん。僕まだ近くの公園くらいしか行った事なかったんだ」
「公園って、学校の近くの?」
「うん、多分そう。それとさ、そこで瑠璃と同じ学校の人に会ったよ。夢宮くるすっていう娘。知ってる?」
「夢宮さん?夢宮さんなら同じクラスよ。すごく明るくて、友達も沢山いるみたいね。私はあまり話したことはないけど」
「まあ瑠璃とは違うタイプだもんね」
「ふふ。ちょっと子供っぽいところとかは里緒にそっくりよね」
「むぅ、僕子供っぽい?」
「あれ、もしかして気づいてなかった?」

瑠璃って、意外と毒舌・・・。

「いいじゃない、それも里緒らしくて良いところだし」
「そう?そうなのかな・・・そうだよね、うん!」
「(そんなところとかが子供っぽいって言ってるんだけどね)」

瑠璃は何故か僕を見ながら笑っていた。
僕も笑い返しながら、瑠璃の作った食事を口に運んでいった。


あとがき的座談会〜♪
フェレット(以下 フ)「ふみぃ〜。毎度お馴染み(?)フェレットですぅ〜」
里緒(以下 里)「今回はやっと名前が登場した僕と・・・」
くるす(以下 く)「2回連続!夢宮くるすがゲストで〜す♪」
フ「え〜と、二人っきりじゃなくって、ごめんね〜」
く「ううん、嬉しいよ♪」
フ「さてさて〜、やっと主人公の名前を登場させれた訳ですが〜、本編で書かれているように〜、この名前は本名じゃないです〜」
里「じゃあ本名はなんなの?」
フ「そこはまぁ、本編で機会があれば〜・・・」
里「いや、その、機会があればって・・・」
く「大丈夫だよ。名前がなんだって里緒くんは里緒くんだよ♪」
フ「くるす、良いこというねぇ〜」
里「う〜ん。そうだね、気長に待ってみようかな」
フ「そうそう。安心してよ〜。ちゃんと出すから、本名もね〜」
里「それなら最初からそう言ってよ」
く「あああ、話が戻ってるよぉ〜」
里「っていうか、この座談会ってテーマも何もないよね」
フ「あう!そ、そういうことは突っ込まないでほしいよぉ〜・・・」
里「ご、ゴメン・・・」
く「ねぇねぇ、次回って里緒くんと月峰さんがデートするの?」
里「え?で、でぇと?」
フ「デートかぁ〜。そういうのかもしれないね〜。」
里「そ、そうなの?」
く「そっかぁ・・・デートするんだ・・・」
フ「あ、もしかしてくるす、瑠璃に妬いてる?」
く「え?え?え?そ、そ、そんなことないよ!もう、フェレット君の意地悪」
フ「ガーン!!き、嫌われちゃった・・・」(イジイジ)
里「あ、いじけた」
く「あ、そんな嫌いになってなんかいないから、元気出して」
フ「・・・(コクン)」
里「え〜と、そろそろ終わろっか?」
く「そうだね。それじゃあみんなで」
フ&里&く「ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました!」


フ「以上。一人称がボク(僕)な3人組の雑談でした〜」
里&く「あ、そういえば・・・」

トップへ
戻る