第3話
「かおりさんとの約束」
澄空学園の文化祭から数日後、俺達(俺、かおる、双海さん、みなもちゃん)はかおりさんが通っている藍ヶ丘大学に来ている。
かおりさんとの待ち合わせ場所である大学の校庭にある一本の木の下で輪になって座っていた。
かおりさんとの約束を果たすためである。
この日は澄空学園は中間試験の真っ只中。にも関わらず、俺達はここにいる。
かおるは中間試験のことを一応かおりさんに話したそうだが、聞き入れてもらえなかったそうだ。
それどころか、担任と同じように「追試で何とかすればいいじゃない」なんて言われたとか…。
追試で赤点だったらどうしてくれようか…。なんてことを考えてしまう。
俺やかおるはともかく、双海さんやみなもちゃんまで巻き込まないで欲しかった。
そんなことを考えているところにかおるが突っ込むように声をかけてくる。
「何考えてるの?」
「まぁ、色々と…」
本当のことだが、他に答えようがなかった。
「例えば、追試とか?」
俺は何も言わずに頷いた。
「そうだよねぇ、私は転校してきて初めての中間試験だから何もわからなくて…」
どうやらかおるも不安みたいだ。
「はぁ、お先真っ暗です」
みなもちゃんが愚痴をこぼすように言った。
確かにそうだ。こんな状況に追い詰められてどうしたらいいのかわからない。
「私も同感です。だから、かおりさんとの約束が済んだら、みんなで勉強会を始めませんか?」
双海さんがみんなを元気付けるように言った。
「そうだな。これが済んだら速攻で始めるか」
みんなが頷く。そしてしばらくした頃にかおりさんがやってきた。
「来てくれてありがと。それに中間試験だってのに悪いね」
本当に悪びれた気持ちがあるのかと思ってしまう。
「終わったら速攻でみんなで勉強しますから大丈夫だと思います」
みなもちゃんがかおりさんを見上げながら言った。
「そう…。お詫びにはならないかもしれないけど、勉強は見てあげるわ」
俺達は驚きの声を上げながらかおりさんを見た。
「なに?その目は?私が無責任な女だとでも思ったの?」
かおりさんが抗議の視線と声を出す。
「い、いえ、その…」
俺はまともに声が出せなかった。
「まぁいいじゃない。姉さん、案内頼むわ」
「うん、じゃぁついてきて」
こうして俺達は案内された。
何度も来ているが、この広すぎる校庭は一人で歩くには危険すぎる。
下手をすれば二度と出られなくなってしまうのではないかと思うほどだ。
「ついたよ」
目の前に大きな建物が見え、入り口らしき場所に立っている看板には、「藍ヶ丘大学文化祭会場入り口」と書かれていた。
そう、今日はこの大学の文化祭。そしてかおりさんとの約束とはここで俺達がバンドの演奏をすることだったのだ。
澄空学園の文化祭に向けてのバンド練習に音楽室を使わせてもらうための条件がこれだったのだ。
「確かに条件は出したけど、無理に引き受けなくてもよかったんじゃない?」
入り口についたところでかおりさんが振り向いて話し掛けてきた。
ふと何気なくかおるを見ると、「話したのに聞き入れてくれなかったのは誰よ!?」と言いたげな目でかおりさんを見ていた。
かおりさんはかおるの視線を気にしてないみたいだったが…。
「そうしたかったですけど、あの話を聞いた後じゃぁ断ろうにも出来なかったのです」
俺は少しでも話題を変えようとしてちょっと落ち込んだ感じの口調で話した。
「あの話?」
「…って何ですか?」
みなもちゃんが突っ込むように聞いてくる。
「そっか、私達しか知らないんだよね」
かおるが思い出したかのように言った。
そして、担任から聞いたことをそのままかおりさんとみなもちゃんに教えた。
みなもちゃんが真っ青な顔をしたのは言うまでもないだろう。
「あ、あはははは…そう言えばそんなこともあったわね…。でも今回はあの二人がいないから大丈夫よ。それにあの時は腹立たしい気分になってて憂さを晴らしたかったから…」
かおりさんは乾いた笑いになりながら説明した。
そんなこんなで中に入り、俺達は楽屋裏で準備をして出番を待った。
「まさか姉さんにあんな趣味があったなんて知らなかった」
「そうだな。俺だって未だに半信半疑だから…」
「三上君、ちょっといい?」
かおると話していたところにかおりさんが突っ込むように俺を呼んだ。
「何ですか?」
「ちょっと内緒の話だから…」
そう言って俺をどこかに引っ張って行く。そして立ち止まって話し始めた。
・・・・・・。
「…いいのですか?本当に…?」
「うん。男女を問わず、どう見てもかおると一番仲がいい三上君なら大丈夫だと思って頼んだんだけど…駄目かな?」
「…考える時間を下さい。返事は必ずします」
「わかったわ。でも、なるべく早めにお願い」
「はい」
言い終わってかおるたちのところに戻る。
「どうかしたのですか?深刻な顔をして?」
双海さんが聞いてきた。
「…ちょっとな…」
俺はこの時、双海さんに相談してみようかと思った。だが、かおりさんに誰にも言わないように言われているため話せなかった。それに話したらかおるに知られるとも思ったからだ。
そして出番になり、先日の文化祭のときのように俺が説明して演奏を始めた。
何もかもあのときのままだ。違うとすれば、かおりさんに相談されたことが引っかかって気がそれてしまいそうだったこと。
それでも何とか演奏に気を集中させて終わった。
そして、観客から一斉に拍手を浴びる。
「きゃっ!?」
悲鳴が聞こえたので振り向くと、みなもちゃんがこの学校の生徒らしき男に捕まっていた。観客は騒ぎ出す。
「大人しくしてれば怪我はさせねぇよ。ちょと付き合いな」
「いや!離して!」
「へへへへへ。いやだね」
『待ちなさい』
男がみなもちゃんを連れ去ろうとしたとき、その後ろから女性の声がした。片方は小夜美さん、もう一人は知らない人だった。
「静流!小夜美!」
かおりさんが二人の名を呼ぶ。静流とは小夜美さんの横に立ってる人だろう。
「かおり。久しぶりね。バンド、よかったよ」
「ありがとう静流。でもそれどころじゃないわね」
「そうね。久しぶりに“あれ”決めてやろうよ」
『OK!』
小夜美さんが言うと、二人は男に不敵な笑みを浮かべながら歩み寄る。
「あの男、死んだな…」
客の一言を俺は確実に聞き取った。
小夜美さんが男の腕を掴み、ふとみなもちゃんを離した隙に俺は駆け寄って男から引き離し、後ろに立たせた。
「うわ!いつの間に!?」
男が驚く中、3人は間をつめ、“あれ”を始めた。
静流さんのコブラツイスト、それが終わると小夜美さんの四の字固め、それが終わるとかおりさんのDDTが炸裂した。
技が決まるごとに男が悲鳴をあげ、観客が「おー!」と言う声を出していたことを付け加えておこう。
担任から聞いた「トライアングルアタック」…実際に見るとかなりの迫力だ。
男は泡を吹いて気絶。きっと担任もこうなったのだろう。
<あとがき>
最後に出たトライアングルアタック。
プロレスにあまり詳しくないのでこんな感じになりました。
これぐらいで終わるかと思ったら予想以上に長引いて自分でも驚きました。
短文ですが、以上です。