お散歩

作者:都波 心流

オレは今、トモヤと一緒に散歩している。
信がネパールに旅立った為、その世話をオレに押し付けたのだ。
信のホームページにある掲示板で近況の書き込みがしてある。
書き込みがあるということは無事に生きていることの証だ。
トモヤはワンワンと元気良くオレを引っ張り回す。
天気も良いし、暇だから久しぶりに浜学まで行ってみるか。
そう思っていた矢先。

「はーい、ショーゴ」
「突如、カナタが現れた」
「なに実況中継しているのよ」
トモヤがカナタの足元でじゃれている。
そんなトモヤの頭をカナタがクシャクシャ撫でている。

「あっ、トモヤはいつも元気だね〜」
トモヤは嬉しそうに尻尾を振って大人しかった。
「さてと、そろそろ行かないとバーイ、ショーゴ」
ひと通りトモヤを撫でた後、そそくさにカナタは立ち去った。
ったく、忙しいなら声なんか掛けるなよ。
まあ、アイツの気まぐれは今に始まったことじゃないけどな。
さてと散歩を続行するか。



浜学の近くまで来ると突然トモヤが走り出した。

「待てよ、トモヤ!!」

そうしてトモヤを追いかける。
トモヤは海岸のほうにいた。
んっ、誰かと一緒にいる?
あっ!!
唯笑ちゃんとあれは誰だろう?
 
「お〜い、トモヤ!!」
ひとまずオレはトモヤに声を掛ける。
「誰だ!! オレを呼び捨てにするやつは!!」
見知らない男がそう怒鳴りながらオレを見る。
一体、こいつは誰なんだ?

「あっ、ショーゴ君」
「唯笑、知っているやつなのか?」
「うん、とあるカフェの近くでお友達になったんだ」
「こんにちは唯笑ちゃん、この人だれ?」

オレは唯笑ちゃんに挨拶しながら
怪訝そうに見てくる知らない男のことを尋ねた。
おいおい、オレがなにか悪いことしたのか?
まぁ、トビーの野郎に比べたらまだマシだけどな。

「ああっ、ショーゴ君は智ちゃんと会うのは初めてだよね?」
「智ちゃん……?」
「うん、唯笑の幼馴染の智ちゃんだよ」

それを聞いて、いつぞやのトモヤ行方不明事件があったときのことを思い出した。
ようやく、あの時の信がやった不可解な行動について事情を理解することができた。
ちなみにその不可解な行動というのは、信が携帯電話を使ってトモヤ(犬)と会話しているという意味だ。
犬語でもわかるのか?それとも心配のあまり頭がおかしくなったのか?
そんな風に思っていたけど、そうではなくてこのオレを怪訝そうに見ているこの男と会話をしていたのだ。

「ああっ悪かった。オレはコイツに声を掛けたんだ」
オレはさっきから唯笑の足元にいるトモヤを指さしながらそう言う。
それだけで向こうも事情を察してくれたらしい。

「まったく信め!! オレの名前を使うなってキツク言っておいたのに!!」
「ダメだよショーゴ君。智ちゃんがいるときはケンって呼ばないと」
唯笑ちゃんが彼に聞こえないような小声でオレに言ってくる。
「悪い悪い、本人がいるなんて知らなかったから」
そういえば、唯笑ちゃんがよくトモヤのことをケンって呼んでたな。
その理由もようやくわかったぜ。

「それにしても、そのトモヤといいケンといい、何で、信は友達の名前を使うのかな〜?」

オレはそう言わずにはいられない。
ケンというのは浜学にいた伊波 健(いなみ けん)だ。
校庭のド真ん中で恥ずかしいほどのラブシーンをやったことで有名である。

智也「そういえば、信はどうしてるんだ?」

さっきの怪訝そうな態度から、親しい友人のように変わってオレに尋ねてくる。

「今、ネパールへ旅しているよ」
「なにネパール!! アイツなに考えるんだ!?」 
「ほえ〜、この前はインドに行ってたのに今度はネパールなの?」
「うん、なんでもチョモランマに行って感慨にふけってみるとか」
「はあ〜、アイツのやることは訳わからん。ま、今に始まったことじゃないけどな」
「信君はいつも凄いね〜」

まあ確かに、アイツの決断力や行動力は凄いかもしれない。
ちょっと発想についていけないことがしばしばあるが。

「じゃあ、そろそろ行くよ。唯笑ちゃんとそれと…」

オレがその男をどう呼んだらいいのか迷ってしまう。
すると、向こうから口を開いていった。

「智也でいいよ。信の知り合いだし、堅苦しいのは苦手なんだ」
「じゃあオレのこともショーゴでいいよ。信もそう呼んでいるし。では唯笑ちゃんと智也またな」
「ああっ、またなショーゴ」
「うんバイバイ、ショーゴ君」

そして、再び散歩を続行する。
気付けば朝凪荘というアパートの近くまで来ていた。
トモヤは嬉しそうにそのアパートの方に向かっていく。
「まったく、また振り回されるのかよ〜」
また走り出したトモヤを追いかける。
「おい、待てケン!!」

さきほど唯笑ちゃんに注意を受けたせいか、本人がいないのにそう呼び掛けると。

「なんだよ、馴れ馴れしく呼ぶなよ!!」
「あっ、トモヤだ〜。久しぶり〜」

どこかの女の子とオレを警戒して見ている男がいた。
あれっ? この二人って?

「あの〜、間違ってたら謝りますけど……君たち、白河(しらかわ)ほたると伊波 健(いなみ けん)かな?」
「そうだけど……なんで僕の名前を知ってるんだ?」
「うん、そうだけど? どこかで会ったかな〜?」

二人が不思議そうな表情でオレを見ている。
あっ、直接会うのは初めてだったな。

「あっ悪い悪い。オレは、信の友達で加賀 正午(かが しょうご)って言うんだ」
「ああっ信君の!!」
「へえ〜、ここしばらく会ってないよね。信君、元気にしてる?」
彼の問いかけにオレは応える。
「今はネパールへ行ってるよ」
「へえ〜、以前は確かインドに行っていたって聞いたけどね」
「ああっ、一度こっちに戻ってきてそれからネパールへ旅立ったんだ」
「そうなんだ。ええっと」
「ショーゴでいいよ、君たちの事はよく知ってるし。中森 翔太(なかもり しょうた)って知ってるだろ?」

翔太とはタモルの話題で親しくしている。
だが、ほとんどの場合は、この伊波 健と一緒につるんでいた。
まあ、お互いサッカー部ということもあって接点も多かったのだろう。
ちなみオレの場合はその頃は一時期であるがバスケをしていた。
まっ、すぐに辞めたけどね。

「翔太の知り合い?」
「まあ、タモルという共通の話題でね」
「タモル? ああっあの頃、翔太のやつクイクイ星人がどうとか言ってたな〜。まあ、未だによくわからないけど……」

たしかに、知らない人から見れば奇怪な発想かもしれないな。
オレも最初はそんな風に思ったことあったし。
「あっ、さっきのケンはコイツのことを言ったんだ」
そして、トモヤ or ケンを指さしている。
「こいつの名前トモヤのはずだけど……?」
「本人がいるときはケンという別名があるんだ」
「そういえば、信君の親友が智也っていう名前だったね?」
「ケンっていう名前もいいんじゃない? 健ちゃん」
「僕はいやだ」

まあ、本人の名前を犬に付けられるのは誰だってイヤだろう。
信も、ちゃんと犬らしい名前をつけたらいいのに。

「あっ、でも中森君を知っているってことはショーゴ君って浜学に通ってたの?」
「うん。だから、君達の有名な話も知ってるんだ」
「有名ってほたると健ちゃんが?」
「わあああああああ!!!」

突然、顔を真っ赤にしながら大声を出してくる。
どうやらコイツは知っているようだな。

「どっどうしたの健ちゃん!?」
「い、いやなんでもないよ、ほたる」

あははっと笑って誤魔化している。
こういう行動をするとついからかいたくなる。
だけど初対面だしそういうのはやめておこう。
「ええっと君達のことは何て呼んだらいいかな?」
ひとまず話題を変えてやろう。その言葉に伊波 健という人物は乗ってくる。
「健でいいよショーゴさん」
「ほたるでいいよショーゴ君」
「そうか、じゃあ健にほたるちゃんよろしくね」
一通り世間話をして二人の元を離れて帰ることにした。
犬のトモヤorケンはぐいぐいと引っ張ってくる。
「ショーゴ、また遊びに来いよ〜」
「じゃあまたね、ショーゴ君」
「ああっ、またな」
そう言い残してトモヤ or ケンを連れて帰る。
それにしても智也と唯笑ちゃん、健とほたるという組み合わせはお似合いだったな。
それに比べるとオレは……やめよう、悲しくなってくるから。
まあ、この犬の別名として、オレの名前を使わないように信のやつにはキツク言っておこう。
そう思いながらオレたちは自宅へと戻っていった。


END


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