第7話

「〜Love that can freeze〜」



    ―――氷の国の試練。

    そこで出会ったアルクとリィーネ。
    それは、俺たちと同じものを求めるライバルでもあった。
    今は、一緒に行動しているのだけど・・・。


トオル:「そう言えば、もう一組いるんだよな?」
ノエル:「ときあいを求めているカップルよね?」
アルク:「確かに、クロケット殿にはそう言う風に聞いています」
リィーネ:「いったい、どの様な方たちなのでしょうね?」

    ときあいを求めるカップルは3組。
    そのうちの2組は今、ここに居る。

    俺たちは、晴れ渡る雪の道を歩いていた。
    なにがクリア条件なのか?どれがクリア条件なのか?
    それすらも分からず、ただ闇雲に歩いていた。


トオル:「・・・あれ?何かが見えてきたぞ」
ノエル:「建物みたいね?」
アルク:「建物からして、神殿のようだが・・・」
リィーネ:「あそこに、何かありそうですね」

    それは、あたかも「何かあるぞ」的な感じがした。
    さらに近づくと、神殿の前に2つの人影が見えた。


トオル:「誰か・・いるぞ」
ノエル:「もしかして・・・最後の一組かな?」
アルク:「そのようですね・・・」
リィーネ:「でも、何故あの場所から動いてないのでしょうか?」
アルク:「それは分からないが・・・多分、試練と関係があるのだろうな」

    5分後、俺たちは神殿前に着いた。
    そこには、ヤッパリ3組目のカップルがいた。
    でも、それは想像しがたい二人だったわけで・・・。


???:「やっと、来たようだな」
???:「待っていましたよ」
トオル:「・・・(男同士だよな?)」
ノエル:「・・・(男同士よね?)」
アルク:「待っていたとは、どういうことですか?」
リィーネ:「それにしても、お二方が男の方たちだとは思いませんでした」

    最後のリィーネの言葉で、周りが凍りついた気がしたのは俺だけではないようだ。
    そう。最後の一組は、男同士だったのだ。


カイル:「そうです。私たちは男同士です」
ゼノン:「だからどうした?たまたま好きになったのが、男だっただけだ」
リィーネ:「そうですよね。好きになる気持ちを決められるわけがありませんよね」
アルク:「そうです。好きという気持ちを抑えることなどできるわけがない」
トオル:「好きと言う気持ちか・・・」
ノエル:「そうよ。好きと言う気持ちは簡単に断ち切ることなんてできないわよね」

    誰かを好きになるという気持ち。
    それは、誰かに言われて変えることなどできるわけがない。
    それが、それこそが、人が人を好きになるということなのだ。


ゼノン:「まあいい。それより、神殿に入るぞ」
アルク:「そう言えば、あなた方は何故ここにいたのですか?」
ノエル:「それは、私たちも思ったわ。なんで、先に入らなかったの?」
カイル:「それには理由があります。この氷の神殿は6人揃って始めて入れる場所なんです」

    神殿を見る俺たち。
    俺は、神殿の扉に近づいた。


トオル:「本当だ。ここに書いてあるぞ」

    そこにはこう書かれていた。
    『ここに入るには、6人いなければならない。』
    簡単だが、これ以上にない効果のある言葉だった。


ノエル:「それじゃあ、とりあえずは入りましょうよ。話はその後でも遅くはないでしょう?」
アルク:「そうですね。とりあえずは、入る方がよろしいでしょう」

    みんなは頷き、氷の神殿へと入ることにした。
    氷の神殿の中は広い。
    だが、一本道なので迷うことなく進むことが出来た。

    やがて、その道にも終わりは来る。
    道の終わりには開けた場所があり、目の前には扉が三つあった。


トオル:「なるほど・・・この3つの扉にそれぞれ入れってことか・・・」
クロケット:「その通りケロ♪その3つの扉がこの氷の試練の入り口ケロ〜♪」
全員:「「「クロケット!!」」」

    扉のある場所の上空からゆっくりと降りてくるクロケット。
    そのクロケットを見て、全員が声を上げた。


クロケット:「説明するケロ。それぞれのカップルはこの3つから入る扉を選び、扉の奥にあるアイテムを取ってくるケロよ」
トオル:「それが、氷の試練か」
クロケット:「そう言うことケロ。ただし、アイテムを手に入れたカップルから次の試練に進めるケロよ」
ゼノン:「なるほど、タイムトライアルと言うことか・・・」
クロケット:「まあ、そんなとこケロ〜♪」

    嬉しそうに鳴くクロケット。


ゼノン:「悪いな。そう言うことなら、先に行かせてもらう。行くぞ、カイル」
カイル:「う、うん。それじゃあみなさん、お先に」
アルク:「リィーネ、僕らも行こう」
リィーネ:「ええ。では、トオルさん、ノエルさん・・お先に失礼します」

    そう言うと、ゼノンたちは右の扉を、アルクたちは左の扉を進んでいった。


ノエル:「トオル。私たちも急ぎましょう!」
トオル:「・・・クロケット、他に何か言うことはないのか?」

    俺は、あえて進まずに、クロケットに訊ねた。


クロケット:「・・・冷静ケロね。では、お望みどおり続きを言うケロ」
ノエル:「え!?話に続きが会ったの?」
クロケット:「トオルは気づいてたケロか?」
トオル:「まあ・・・あんなに嬉しそうなクロケットを見てたら、もしかして・・・と、思ったわけさ」

    俺は今までの体験からクロケットの性格を見抜いた。
    まあ、本当は"勘"みたいなものだったんだけどな。


クロケット:「では、話すケロ。この扉の奥にある試練とは、凍りついた心の解放ケロ」
ノエル:「凍りついた心・・・。なんか、抽象的な言い方ね?」
トオル:「それよりも、確かクロケットは選ばれたのは4組って言っていたよな?なのに3組しかいないのはどうしてだ?」
クロケット:「トオルの記憶力に驚かされるケロよ」
トオル:「それよりも、疑問に答えてくれ」

    俺の言葉に、クロケットは目を細める。
    やっぱり、俺の考えどおりなのか?


クロケット:「・・・実は、ここに居る3組のうち1組は"ニセモノ"ケロ」
トオル:「やっぱり、そう言うことか・・・」
ノエル:「どう言うこと?」
トオル:「ニセモノの1組が、今回の試練・・・凍れる心の解放に関係しているわけだ」

    俺の言葉に、クロケットの目がまた細くなった。
    どうやら、図星らしいな。


クロケット:「トオルに参ったケロね。あの二組のうちどちらかがニセモノで、その1組の凍った心を解放する試練ケロ」
トオル:「そして、クロケットの先の言葉でこう言った。それぞれのカップルは3つの扉から入る扉を選べって」
ノエル:「それがどうしたの?」
トオル:「つまり、同じ扉に入っちゃいけないとは言ってないんだ」
ノエル:「――っ!!そう言うことなの!?」

    ノエルも理解したみたいだ。
    扉が3つあるから、それぞれが別々の扉に入るのだと思わせるのが目的だたのだ。
    だとすれば、この試練がニセモノの候補者を見つけて凍れる心の解放なるとすれば・・・答えは一つだ。


トオル:「ゼノンとカイルを追うぞ、ノエル」
ノエル:「え?どう言うこと?3つの扉と言うのが私たちを惑わせる手だってことは分かったけど・・?」
トオル:「だからさ。3つの扉が惑わせるものだとしたら、その意図に気づかせないようにするもの一つの方法だろ?」

    ここまで言っても、ノエルには何が言いたいのか理解できていないみたいだった。


トオル:「3つの扉にそれぞれ入るように仕向けるには、誰かがそう思わせなくちゃいけない」
クロケット:「その通りケロ。そう思わせる者たちこそがこの試練の当事者ケロ〜♪」
トオル:「なら、初めに扉には言ったモノたちがニセモノってことさ」
ノエル:「だから、ゼノンとカイルがニセモノって分かったのね?」

    俺は頷いてノエルに答える。


トオル:「行こう、ノエル。アイツらの凍った心を解放してやろう」
ノエル:「うん♪行こう、トオル」
クロケット:「頑張るケロよ〜♪」

    俺とノエルは、ゼノンとカイルのは言った右の扉に入った。

    扉の中は、細い通路が直線に長く続いていた。
    この奥に、彼らがいる。

    凍れる心の解放。
    彼らの心に何があるのか?
    今はただ、進むだけだった。


ノエル:「トオルってスゴイね。よく、気づいたよね?」
トオル:「いや・・クロケットの態度が可笑しかったからさ・・・。それに、勘みたいなものだったし・・・」
ノエル:「それでもだよ♪私なんて、全然気づけなかったんだから」
トオル:「でも・・・これで、アルクとリィーネは完全に出遅れたんだよね・・」
ノエル:「・・・・・トオルって、やっぱり優しいね」
トオル:「そうかな?ただ・・フェアじゃないかなって・・・」

    俺の中に、なんとなくある不満。
    俺たちは、アルクたちに助けられたのに・・・これでいいのだろうか?


ノエル:「そうだね・・。でも、試練はあの時から始まってたんだよ?」
トオル:「でも・・・」
ノエル:「クロケットの意図を読むことが試練の一つなら、そこに気づけなかった以上仕方なかったんだよ」
トオル:「・・・・・」
ノエル:「それに、トオルは確信していたわけじゃないんでしょ?」
トオル:「ああ。なんとなく、何か可笑しい気がしただけだから・・・」
ノエル:「だったら、そこで気づけたのは偶然なんだから・・・分かっていてやったんならアンフェアだけどね?」
トオル:「それは、絶対無いよ」
ノエル:「それじゃあ、胸を張っていこうよ。謎を解いた自分に」

    ノエルの想いが俺の心に響く。
    ありがとう、ノエル。
    俺は、心の中で感謝した。


トオル:「そうだね。それに、この先の難問が解けたわけじゃないんだ。今はただ進むだけだ」
ノエル:「よし!じゃあ、行くよ?」
トオル:「ああ。行こう♪」

    俺はノエルと手を繋ぎ走り始めた。



    どのくらい走ったのか分からない。
    ただ、やっぱり終わりはあったわけで・・・。
    俺たちは、ゼノンとカイルの姿を見つけた。


トオル:「ゼノン、カイル・・・」
ゼノン:「・・・こんなに早く気づかれるとはな?」
カイル:「そうですね・・。正直、驚いています」

    俺たちを見る二人。
    まだ、道は続いていたが二人がいるということはここが終点なのだろうか?
    それにしても、二人は笑っていたがどこか儚げだった。


トオル:「クロケットに聞いたよ。君たちの「凍れる心を解放しろ」って」
ノエル:「・・ねぇ、今、ふと疑問に思ったんだけど・・・二人はどうしてここにい
るの?」
カイル:「私から説明しましょう・・。私たちはとっくに死んでいるのです」
トオル&ノエル:「「――っ!?」」

    俺たちは絶句してしまう。
    ここにいるゼノンとカイルがすでに死んでいるとは・・・。


ゼノン:「だが・・私たち死後の世界に行けず、この時の世界に留まっているのだ」
トオル:「留まっている?それって――」
カイル:「多分、「心残り」があるからだと思うのですが・・・」
ゼノン:「俺たち自身、それが何であるのか思い出せないのだ」
ノエル:「そっか。その心残りを思い出させてあげることが「凍れる心の解放」を意味するわけね?」

    俺はノエルの言葉に頷いて肯定した。
    これが、クロケットの言っていた試練なのだ。
    だが・・・。


ノエル:「でも・・どうやったら心の解放なんて出来るのかしら?」

    そうなのだ。
    試練の意味は理解できた。
    でも、どうすれば良いのかが分からない。


トオル:「二人の生前の話を訊いてみよう。そこからヒントが得られるかもしれない」
ノエル:「うん。そうね・・」

    俺とノエルは、ゼノンとカイルを見る。
    二人は、俺たちの言葉に頷き返す。


カイル:「私たちは生前は、今とほとんど変わらず付き合っていました」
ゼノン:「愛し合っていた。だが、交通事故であっという間に死んでしまったのだ」
トオル:「じゃあ、それが心残りなのか?」
カイル:「いえ・・。一人で死んでしまったのなら・・あなたの言う「心残り」はあるかも知れませんが・・・」
ゼノン:「生きているか死んでいるかなど、それほど重要とは思えない。俺たちにとっては一緒にいることが全てなのだかな」
ノエル:「と言うことは・・・」
カイル:「はい。それ以外の何かと言うことになると思います」
トオル:「じゃあ、君たちにも何が心残りか分からないわけか・・」

    これは、難題だ。
    自分達にも理解できない心残り。
    それを、他人である俺たちに見つけることなどできるのだろうか?


トオル:「何か・・・。クロケットが何かヒントを出しているはずなんだ・・・」

    雲を掴むような話だ。
    クロケットがヒントを出すと言った以上、必ずヒントは出ているはずなんだ。
    俺は、クロケットの言葉を思い返した。
    クロケットの言葉に、絶対ヒントがあるはずなんだ。


ノエル:「そう言えば・・・クロケットが言っていた「アイテム」って、やっぱり二人のことなのかな?」
トオル:「――っ!?そ、それだ―――!!」
ノエル:「は、はい――!?」
トオル:「クロケットの言っていたアイテムだよっ。多分、この道の奥にあるはずだ。それに何かヒントがあるはずだ」

    クロケットは言っていた。
    扉の奥にアイテムがあると。
    だったら、それこそがヒントになるはずだ。


トオル:「行こう、ノエル!この奥にアイテムがあるはずだ。それこそがこの二人の心残りのカギとなるはずだ」
ノエル:「うん。行きましょう、トオル」
ゼノン:「カイル、俺たちもついて行こう」
カイル:「はい」

    こうして、俺たちはさらに奥へと進んだのだった。
    この先に何があるのか・・・。
    俺は、複雑な思いのまま進むのだった。





トオル:「ん?何かあるぞ」
ノエル:「本当だ。なにかな、あれ?」

    通路の奥で光り輝く何かが見えた。
    多分アレが、「アイテム」なのだろう・・・。
    やっとの思いで辿り着いた先にあったのは、光輝く球体だった。


トオル:「これが・・・アイテムか」
ノエル:「でも、これが一体なんの役に立つのかしら?」
トオル:「とりあえず、取ってみよう・・」

    そう言って、俺は球体に触れた。
    その瞬間―――。


 !!!!!


    光が俺とノエルを包む。
    そして、意識が一気に遠のいたかと思うと、俺は真っ暗闇の中にいた。


トオル:「ここは!?・・・それより、ノエルは?」

    辺りを見回すが、やっぱり真っ暗闇だった。
    ノエルも見当たらない。
    これは一体・・・?


ノエル:「トオルーっ。トオルーっ」
トオル:「ノエル?ノエル――っ!!」

    ノエルはいた。
    暗闇の中で気がつかなかったのだろう・・・。


ノエル:「トオル!」
トオル:「ノエル!」
ノエル:「よかったぁ〜。でも・・ここはどこなの?」
トオル:「分からないけど・・・多分、この場所に何らかの手がかりがあると思うんだ」

    そう。
    あの球体が何だったのか分からなかった。
    でも、この場所に連れてこられたということに何か意味があるはずだ。
    俺はもう一度、周りを見回す。


トオル:「――ん!?」

    周りの景色が色づきだす。


トオル:「・・・カイル・・か?」
ノエル:「みたいね・・・」

    目の前を横切ろうとするカイルが見える。
    しかし、何か変だ。


トオル:「カイル!」

    俺は、大きな声をかける。
    しかし、カイルが振り向くことはなかった。

    やっぱりだ。
    これは、"記憶"なのかもしれない。


ノエル:「トオル、これって・・・」
トオル:「ああ・・。これは多分、カイルの生前の記憶だと思う」

    この記憶の中にカギがあるのだろう・・。
    それは、容易に想像できた。


カイル:(どうしてなんだろう?)
ノエル:「あれ・・なんか頭の中に声が響いたような・・・?」
トオル:「これは・・・多分、カイルの心の声だ」

    目の前のカイルの口が動いていないのが何よりの証拠だった。


カイル:(なんで私は普通じゃないのだろう?)

    カイルの想いが伝わってくる。
    それは、同姓を愛したゆえの苦悩だった。


カイル:(たまたま好きになったのが同姓だった。ただそれだけなのに・・・。それとも、本当に私は変態なのだろうか?)

    言葉と一緒にカイルの苦しみが伝わってくる。
    ただ好きになってしまっただけなのに・・・周りからは奇異の目で見られてしまう。
    自分は間違っているのか?可笑しいのだろうか?
    そんな苦しみが、ジワジワと染み込んでくるようだ。


カイル:(もしも、私が女性だったら・・・それとも、彼が女性だったら・・・良かったのだろうか?)

    そこまでの想いが俺たちに聞こえると、カイルが消える。
    そして今度は、ゼノンが現れた。


ゼノン:(俺は可笑しいのか?それとも、世の中が間違っているのか?)

    それはまるで、カイルと同じような苦悩の感情だった。
    何が正しくて、何が間違っているのか?
    男と女。それが正しいのだろうか?
    性別がそれほど大事なのだろうか?


ゼノン:(誰か教えてくれ。俺たちには幸せになる権利はないのか?)

    同姓同士の愛は幸せになれないのか?なってはいけないのか?
    怒りと悲しみ、寂しさと温もり、それらを同時に感じるのは正しくないのか?誤りなのか?
    矛盾が故の苦悩。
    心が壊れていく様を俺とノエルは感じていた。


ゼノン:(カイルを愛することは誤りなのか?カイルでなければ正しいのか?)

    誰を愛せば良いのかさえも分からない。
    いや、愛することが間違いなのかもしれない。
    自分は誰かを好きになってはいけないのかもしれない。
    ゼノンの心は完全に壊れて行った。

    そして、ゼノンも消える。
    残された俺とノエル。


ゼノン&カイル:((俺(私)は、生きていてはいけないのかもしれない))

    二人の心の声が同調して聞こえる。
    その想いは深い闇の中から救いを求めているように聞こえた。



    ―――そして、あの事故が起きた。


    二人は思った。
    これでいいと。
    これで、何にも縛られることはない。
    ただ、お互いを純粋に好きでいられる。
    愛することを誰にも咎められることもない。


トオル:「なんて・・・哀しい愛なんだ」
ノエル:「心が痛いよ。心が哀しんでいるよ」

    心が潰れていく。
    心が悲鳴を上げる。
    どんどんと闇の底に沈んでいく。



    そして、画面が変わるように"別の人物たち"の姿が現れる。


トオル:「あれは、アルクとリィーネ!?」
ノエル:「なんで、あの二人が?」

    目の前に現れたのは、アルクとリィーネだった。
    だけど、この感じは・・・。


トオル:「これも・・・記憶なのか?」

    何故、二人の記憶が見えるのだろうか?
    その疑問の答えはでることはなかったが・・・。
    とりあえずは、二人の記憶を観るしかない。


アルク:(なぜ、争わなくてはいけないのだろうか?)

    伝わってくる。
    アルクの想いのすべてが・・・。


アルク:(憎しみも、怒りもない。なのに何故?)

    アルクの気持ちが痛いほど伝わってくる。
    そして、同時にリィーネの気持ちも流れ込んできた。


リィーネ:(どうして争うの?争いからは何も生まれないのに・・・)

    リィーネの想いもアルクと同じだった。
    種族間の紛争。
    何故、戦うのか?その理由すら忘れたのに争いは終ることがない。



    ―――そして、二人は出会った。


    争いの中で、二人は出会い惹かれていった。
    二人の間に芽生えた気持ち。
    それは、まさに互いを思う愛しさだった。


アルク:(たとえ、種族が違ってもこの気持ちに偽りはない。僕は、彼女を愛している)
リィーネ:(たとえ許されない恋であろうと、私の気持ちは変わらない。私は彼を愛している)

    流れ込んでくる互いを想う心。
    そこにある確実な愛。
    ・・・でも、何故だろう?
    こんなにも揺るぎないように思える想いの中に影が潜んでいるように感じる。


アルク:(こんなにも愛しているのに・・・なのに・・・)
リィーネ:(愛している。なのに、どうして?)

    二人の苦しみが伝わってくる。
    愛している。なのに、そこには素直に喜べない二人の気持ちがあった。
    争いは終らない。
    二人がどれほど愛し合っていても、仲間は死んでいく。
    見て見ぬふりなんてできない。
    それが、二人の気持ちを留まらせていた。


ノエル:「何て哀しいの・・」
トオル:「愛しているのに、素直にその気持ちを出せないなんて・・・」

    何て残酷な愛なのだろうか?
    心が張り叫び、死んでいく。


トオル:「そう言うことなのか・・・」
ノエル:「凍れる心の解放って・・・そういう意味だったの・・・」

    俺たちは分かった。
    凍れる心の解放。
    その本当の意味が。


トオル:「―――なっ!?」
ノエル:「こ、これって―――っ!?」

    俺たちが理解した瞬間、光が俺たちを包みだす。
    これって、あの球体に触った時と同じ現象?

    そして―――。



トオル:「・・・どうやら、戻ってきたみたいだ」
ノエル:「うん。きっと、答えが分かったからだね」
トオル:「ああ・・」

    球体のあった場所に戻ってきた俺たち。
    それは、答えが分かったためだと理解する。


クロケット:「帰ってきたケロね。それじゃあ、答えを聞かせてもらうケロ」
ゼノン:「俺たちの心残り・・・分かったのか?」
カイル:「私たちの心残り・・・それは、なに?」

    目の前には、クロケットがいた。
    ゼノン、カイルも自分たちの心残りを知りたいと焦っていた。


トオル:「ゼノン、カイル。君たちにあるのは心残りなんかじゃない。本当の愛の形を知りたかっただけなんだ」
ノエル:「自分たちの愛が本物なのか?偽物なのか?ただ、それが知りたかっただけなのよ・・・」
ゼノン&カイル:「「!!」」

    ゼノンとカイルの心の中で何かが崩れようとしていた。


トオル:「君たちの気持ち。俺には初め分からなかった。どんな答えを言えば良いのか・・・」
ノエル:「あなたたちの気持ちはあなたたちにしか理解できないと思ったわ。でも・・・考えてみたわ」

    俺たちの想いを、二人に届けたい。
    ただ、それだけだった。


トオル:「どちらかが女だったらとか・・それが正しいのかとか・・・正直、想像も出来なかった」
ノエル:「もし、トオルが女だったら私はどうしたのか?考えたけど答えなんて出なかった」

    ゼノンとカイルの顔が穏やかに見える。


トオル:「答えなんかでない。でも、だからこそ分かったことがあるんだ」
ノエル:「答えなんてないの。答えなんかあるわけがない。だって―――」

    俺たちには分かったんだ。
    答えなんて最初からなかったこと。
    答えがあっちゃいけないこと。

    だからこそ伝えたい。
    本当に大切なことを。


トオル:「俺は、ノエルが男だったらとかなんて想像できない。だって、俺が好きなのは、今目の前にいるノエルだから」
ノエル:「女のトオルを好きになんてなれない。私が好きなのは、今ここに居るトオルだから」

    そうなんだ。
    男とか、女とかそう言うことじゃないんだ。
    どんなに想像しても、好きな人は変わらない。
    今目の前にいる人。
    それが全てなんだってこと。


トオル:「なにが正しいとか、何が間違っているとか」
ノエル:「なにが本物で、何が誤りなのかなんて・・」

    だから言う。
    偽りのない俺たちの想いを。


トオル&ノエル:「「そんなものは誰にも分からない」」

    そうさ。
    何が正しくて、何が本物なのかなんて誰にも分からない。
    分かるとしたら・・・。


トオル:「分かることはたった一つ、自分の気持ちだけ」
ノエル:「相手を好きだと言う気持ち。それだけが真実。それが唯一の本物」

    ああ・・。
    俺は、ノエルを本当に好きなんだと分かる。
    この気持ちに偽りはない。

    ああ・・。
    私は本当にトオルが好きなんだ。
    この気持ちは誰にも否定させない。


トオル:「だから、いいんだ。自分の気持ちのままに好きでいて」
ノエル:「偽ることなんて無いわ。好きでいいじゃない。愛していいじゃない」

    そう。
    たったそれだけのこと。
    ただそれだけで良い。

    言おう。
    好きだと。
    愛していると。

    二人の気持ちが本物なら大丈夫。
    だから、言おうよ。


ゼノン:「カイル・・俺はカイルを愛している」
カイル:「私も・・私もゼノンを愛している」

    ああ・・。
    こんなにも簡単なことだったのか・・・。
    こんなにも、単純な答えだったのか・・・。

    ありがとう。

    ただ、ありがとう。

    二人とも、本当にありがとう♪



    そして、ゼノンとカイルは消えていった。


トオル:「これで、あの二人は天国に逝けたのかな?」
クロケット:「それは無理だケロ」
ノエル:「―えっ!?なんで?」
トオル:「そうだよ。あの二人は何も悪くないじゃないか」
クロケット:「早とちりするなケロ〜♪あの二人は生きているケロよ」
トオル:「な、なにぃ!?」
ノエル:「それ、本当なの?」

    驚愕の事実だった
    あの二人が生きていた。
    死んでいなかったのだ。
    でも、何か変じゃないか?


トオル:「でも、あの二人は交通事故にあって死んだと言ってたけど・・・」
クロケット:「そう思っていただけケロよ。あの二人は「死んだほうが幸せになれる」と思っていたケロ」
ノエル:「じゃあ、まさか・・・」
クロケット:「生きられるはずの者が揃って死にたいと願ったケロ。そのせいでこの時の世界に迷い込んでしまったケロ」
トオル:「そう言うことか・・・。素直に愛していると思えたことで、意識が回復したんだな」

    そしてこれは偶然なんかじゃない。
    初めからこれが目的の試練だったわけだ。


クロケット:「とにかく、第一ステージの勝者はトオルとノエルだケロ。おめでとうケロ〜♪」
トオル:「そっか・・・俺たちステージをクリアしたんだな」
ノエル:「嬉しいけど、それ以上にゼノンとカイルが生きていたことの方が嬉しいわ」
トオル:「そうだな・・」

    あの二人はもう大丈夫。
    なにがあっても、自分たちを見失わないだろう。
    それが何より嬉しかった。


アルク:「おめでとう、トオル、ノエル」
リィーネ:「おめでとうございます。お二人とも」
トオル:「アルク」
ノエル:「リィーネさん」

    突然現れたのは、アルクとリィーネだった。


アルク:「トオル、ノエル。君たちに教えられたよ」
リィーネ:「ええ。私たちが見失っていたものを、取り戻させてくれました」
トオル:「ふたりとも・・・」
ノエル:「・・・・・・」

    二人の笑顔にはもう陰りは微塵の感じられない。
    そうか・・。
    そうなんだ。
    よかった。本当に良かった♪


トオル:「あ・・あれ?アルクとリィーネの姿が・・・」
ノエル:「これって・・・」

    二人の姿が透明になっていく?
    これは一体?


クロケット:「この二人は試練をクリアできなかったケロ。だから、元の世界に戻るケロよ」
トオル:「じゃあ・・・」
ノエル:「二人はまた・・・」

    そうだ。
    また、あの争いの耐えない世界に戻ることになるんだ。


アルク:「大丈夫だ。もう、迷いはない」
リィーネ:「安心してください・・・私たちは元の世界で戦います。ですが・・・今度は、二つの種族が平和になれる様に」
トオル:「そうか♪」
ノエル:「応援してるね、二人とも♪」

    なんだろう・・・この気持ち。
    勝ち負けの勝負だったのに・・・。
    こんなにも、爽やかな気持ちになれるなんて・・・。


アルク:「トオル、ノエル。また、会おう」
リィーネ:「今度会う時は、私たちの世界でね」
トオル:「ああ・・。必ず」
ノエル:「楽しみにしてるね♪」

    また、会おう。
    平和になったアルクたちの世界で。

    そして、二人は消えていった。





クロケット:「それじゃあ、そろそろ二つ目のフィールドに行くケロよ♪」
トオル:「よし!じゃあ、行こうノエル」
ノエル:「行きましょう♪トオル」

    俺たちは手を繋ぎあう。
    さあ、行こう。
    次のフィールドでも、俺たちはきっと大切何かを見つけられる。
    そんな気がするんだ。


クロケット:「では、次なるフィールドへケロ〜♪」



    俺たちはまだ知らなかった。
    次なるフィールドで出会う候補者もまた心に深い闇を持っていることを・・
・。

    そして、それが俺たちの絆を試すことになることを・・・。





☆☆☆あとがき☆☆☆
どうも☆AZです♪(^0^/
ほとんど一年ぶりですね(^^;
そんで持ってのときあい第7話です。
約一年ぶりと言うことですが、満足のいく作品になりました♪
でも、h−yama氏には迷惑かけました。
いったい、何年かけているれば終るのかな?(苦笑
でも、何とか今年中に終らせますよ。
気合は十分です。
まあ、後3話と言うこともありますが・・・。
次回は二つ目のフィールドです。
どんな試練が待ち受けているのか?
そして、ときあいの核心へと近づいていきますので、楽しみにしててください☆☆☆


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