私は私でしかない

作者:都波 心流


 あの人は私の仮面を外してくれた。
 日本に来て誰も見ないようにしていた私を助けてくれた。
 最初は何とも思わなかったのに。
 知らない間にあの人の存在が大きくなっていた。

 だけど、彼には彼なりの事情があった。
 彼は亡くなった幼馴染の彩花さんと想っている。
 彼にとって大切な恋人。
 彩花さんが生きていたら。
 きっと仲の良い親友になっていたのかもしれない。
 彼は私と彩花さんを重ねている。
 長い髪が彼の心にある過去を呼び覚ます。

 図書館の中でぐっすりと眠る彼の寝顔。
 受け付けをして本を読みながら時々、その顔を見てしまう。
 心の中から温かいものを感じる。

 夕方になっていつものように私があの人を起こす。
 このとき、私は少し悲しくなる。
 彼は呻き声で彩花さんの名前を言うから。
 私に向けて口にすることで彼は罪悪感に捕らわれる。
 だから知らない振りをしてしまう。
 そうしないと彼が苦しみ続けるから。

 当たり前が当たり前としてなくなった喪失感。
 以前、私の夢の中に彩花さんが現れた。
 天使のような白い羽を生やしていたのが印象に残る。
 彩花さんは私に向かってこう言った。
 彼を救ってほしいと――。

 私に何が出来るの?
 彼が私を見てくれるの?

 曖昧な疑問と不安を抱き続ける日々。
 ある日から彼が図書館に来なくなった。
 何か不吉な予感がしてしまう。
 最悪の予感を走らせて首を振ることで否定する。
 作業の頃合を計って彼を探すことにした。
 偶然か、必然か、屋上で彼を見つけた。
 寂しそうな表情でフェンスを眺める彼。

 私が近付いても何も反応を示さない。
 全ての世界を拒絶してるかのように。
 生きてる筈なのに人形みたいに見えてしまう。
 そんな彼に切ない思いが私の中で駆け巡った。

 ふと彼が私に視線を向ける。
 無表情ともいえるあの顔には覚えがある。
 かつて、私が自己防衛のためにつけてた仮面。
 彼も本当の自分を隠しているのだろうか?

 オレは誰も見ない、だからキミもオレを見るな。

 彼の存在がそういわせているのだろうか?
 言葉にしなくても何となく伝わってくる。
 痛いほどに彼の心境が読み取れてしまう。
 今の彼はあの時の私なのだ。

 それでも、私は、あなたに、貴方だけに。
 本当の私を知って欲しい、見て欲しいの。
 ずっと、ずっと、一緒に、いて欲しいの。

 ……智也さん……。

<あとがき>

こんにちは、作者の都波 心流です。

かなり短いですが、心情描写を書いてみたかったので挑戦しました。
メモオフを書くのは今回で二度目です。
思ったよりスラスラと書いてしまいました。
10分も経っていない作品ですからこんなもんでしょう(苦笑 

では、また(^^/



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